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皇弟?


 周皇太后は「先代皇帝の皇女を娶らないと白龍を皇帝とは認めない」という先代皇帝の出した勅命を、まるで物わかりの悪い子に教えるように言い聞かすように言う。

 そして今すぐに周貴妃を皇后にしろと迫るのだった。


 白龍が言った。


「周皇太后、あなたは私を誤解している。私は好きな女を諦めてまで皇帝でいたいとは思っていないのですよ。春麗と皇帝位のどちらかを選べと言われたら、私は春麗を選ぶ。皇帝位など惜しくはない。その資格がある者になら、いつでもくれてやりましょう。だが残念ながら、桜花には皇帝になる資格がないのです。それはご存じでしょう」


「ふざけるな! お前は自分を何様だと思っているのだ! 傍流のくせに偉そうに!!」


 その瞬間、周皇太后がヒステリックに叫んだ。

 でも私はびっくりして白龍の顔を見ていた。

 

 私は今まで、ここまでのはっきりとした彼の意志を聞いたことがなかったから。

 まさか白龍が皇帝位を捨ててもいいと思っていたとは……。


 私が見てきた今までの彼は、彼なりに一生懸命皇帝というお仕事と向き合っていた。

 なのに。それよりも私を選ぶと言うのか。

 

 しかしそれを言った本人は、周皇太后に怒鳴られても全く意に介さないで涼しい顔をしていた。


「白虎が選んだものが皇帝になる。それはこの国建国の時からの決まりです。それはあなたもご存じでしょう。そして私は白虎に指名された。だから皇帝になったのですよ」


「そんなものはただの言い伝えではないか。現に誰も見た者はいない。私も皇女である桜花さえも見たことがないものを、誰が本気にするというのか。愚かな」


「愚かなのはあなたです。仕方がない。見たことがないというのなら、見せて差し上げましょう。夏南」

 

 すると李夏さまは、いつのまに取り出したのか優雅な仕草で香炉を捧げ持ち、雅な香りの香を焚きはじめたのだった。


 香炉から揺らめき出て行く煙が、いつしか静に私たちを包んでいった。

 誰もがこの突然の状況を驚きの目で見守っているようだった。

 というより、皇帝がその場の全員に睨みを利かせて黙らせていたと言ったほうがいいかもしれないが。

 

 その間も李夏さまは、落ち着き払った態度と優雅な手つきで煙を振りまいていく。


 部屋の中が、優雅な香りと薄雲のような煙で満たされていった。

 白龍が言った。


「では白、その姿を見せてくれ」


 その瞬間、皇帝の傍らに大きな白虎がすうっと現れたのだった。


 周皇太后が、あんぐりと口を開けた。


「きゅっ!」


 そしてウロウロしていたバクちゃんが、慌てて私の足下まで来てからまた平べったくなってしまった。


 そんなバクちゃんを見て、また周皇太后が目を剥いていた。


「この香は神獣を見れるようにしてくれる、貴重な香です。この香を焚いても見えない者もいるが、あなたは皇族の血を引いているのだから見えるだろう。この白虎が選んだのが私なのですよ」


 白龍が、白の首筋に手を添えながら言った。


「まさか……まさか! これはただ幻覚を見せる香なのであろう? 本当に白虎なら、どうして桜花を選ばずにこんな傍流の男を選ぶのだ!」


「白虎は、神獣を見る血の濃さを見分けるのですよ。そしてたまに、私のように先祖返りで血が濃くなる者が出るのです」


「まさかそなたごときが先代の皇女である桜花よりも、そこの先代の皇弟よりも血が濃いというのか? 笑わせるな。血なんて何とでも言える。血であれば今一番血が濃くて皇帝を継ぐべきはそこの皇弟であろう。なのにそなたはその皇弟をよりによって後宮に追いやってまで、自分が皇帝に成り上がったくせに」


 周皇太后が吐き捨てるように言うのだが。


 はて? 皇弟? そんな人は初耳なのですが……?

 

 しかしそう言って周皇太后が白龍と見比べているのは、え?……李夏さま……?


 すると李夏さまはいつもの天女の微笑みを突然浮かべて言ったのだった。


「おや、懐かしい呼び名ですねえ。しかし私には大切な別の神獣がおりましてね。残念ながら白虎の面倒までは見切れないのですよ。それに皇帝になんてなったら、あの巨大な後宮の面倒を見なければならないではないですか。そんなもの悪夢でしかない。まっぴらごめんですね」


 ああ……李夏さまの心は乙女なのに、後宮の大勢の女性と子作りなんて、なるほど悪夢以外のなにものでもないだろうな、と私は密かに深く理解したのだった。


「理由はどうあれ白虎は私を選びました。その判断は、人間にはわからない理由もあるのかもしれません。しかしその結果を受けたからこそ先代は私を後継に指名したのですよ」


 白龍が周皇太后に言う。

 白が、すりっと白龍に擦り寄った。


「なぜ桜花が選ばれないのだ! おかしいではないか! 桜花は皇女なのに!」



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