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先生は李夏さま

 

「さあな。恋人同士だったらあの日あの場にはいなかったかもしれない。だけど、それはもう誰にもわかんねえな」


「ほんと何やっているんだろうね……二回も人生やり直して」

 

「まあ俺は死ぬほど後悔したから、今度こそお前に会ったら逃がさないって決めてたけどな! で、お互いの気持ちもはっきりわかったことだし、お前、ちゃんと今世は俺の夢叶えてくれるんだよな?」


「それとこれとは別だわね」

「おい」


「だって今の私の立場は、要は側室でしょう。昔で言う。私は一夫一婦制の人間なの。こんなのは妻じゃない。周貴妃のお母さまという人だって、そう思っているから御璽を返さないんでしょうが」


「なるほど? なら皇后なら文句はないな? もう白には認められたからあとはじじいたちの説得だけだ。俺は本気だぞ」

 

「…………正気? 私、もと貧乏母子家庭の子よ?」


「神獣連れててなに言ってんだ。貧乏だろうがなんだろうが、お前、皇族だぞ」


「全くそんな話は……聞いたことがありませんが」


「だが俺だって白という神獣を従えているから皇帝になっているんであって神獣が……って、おい、寝るな」


「寝ないよ……でもさすがにそろそろキャパオーバー……かも……」


「おい? ちょ、なんでここで寝る!? おい――」




 多分、きっと、気が抜けたのだ。

 あんなに奴が私を捨てて他の人を選んだのだと思って長年思い悩んできたというのに、それが誤解だったとわかったから。

 奴が、あいつが、ずっと私を好きでいてくれたのだと知ったから。

 きっと今までの悩みの重圧が突然なくなって、気を失ってしまったのだろう。


 朝、私は寝台の上で一人でぼーっとしていた。

 ふと見ると窓から日が入ってきて爽やかな天気を知らせていた。

 うーん日の角度からして……昼に近いか。


 もちろん白龍はとっとと仕事に行ったのだろう。


 昨夜は混乱しない方がおかしいだろうという情報量だった。

 だけれどなんだか気分はすっきりとしていた。


 全部勘違いだった。

 いや奴の結婚は勘違いでもなんでもない事実だけれど、それでも心はずっとこっちを向いていた。

 それが嬉しい。


 ……私、とうとう不倫男にまんまと騙されたのかな?


 ふとそんな疑惑も心を過ったけれど。

 でも、前世の奴はそんな人ではなかった。


 じゃあ、信じる……?


 それともこれはもしや不倫の泥沼にはまった……?


 爽やかな日の光の中で、頭がまた混乱し始めたので悩むのはいったん置いておこう。

 よし、じゃあ客観的な事実に基づいて判断しよう。うんそれがいい。


 ……本当に皇后になったら、腹をくくる。


 奴が本当に口だけでなく私を皇后に据えたら。

 もしくは奴が何かの理由で皇帝ではなくなって、ただの一人の男として私を妻にすると言ったら。

 

 そうしたらもう、私も奴と添い遂げることにしよう。

 いまだにまだ後者の方がいいなと思う自分もいるけれど。

 それでも。


 奴がいつまでも口だけで実行しなければ……そういうことだ。

 そこで決めよう。どちらに転ぶかは、白龍次第。

 

 そう決めたら、なんだかお腹がすいてきた。


「翠蘭! おはよう! 朝ご飯ある?」


 私はそう言いながら、寝室を出て――


「おはようございます、王淑妃さま。お待ちしておりましたよ。朝食は出来ておりますので、それを召し上がったら本日からお勉強を始めましょう」


 なぜかそこには明るい日差しの中で、その日差しよりも眩しいくらいに美しい微笑みを保った李夏さまを見たのだった。


「……なんで李夏さまがいるの?」


「主上のご指示です。将来の皇后陛下に相応しい教養と威厳を教え込めという」


「はい?」


 教え込め?


「まあまあおはようございます、王淑妃さま。朝食は今すぐにお持ちしますね。とうとう淑妃さまが皇后におなりになるとは、翠蘭大変嬉しゅうございます。わたくし王淑妃さまにお仕え出来て本当に幸せでございます……!」


 ……なんだか翠蘭がうれし涙を流さんばかりになっていた。


「いや待って? それは主上がそういう希望をしているだけで、まだ何にも決まっていないのよ!? ほんと、何も決まっていないから!」


 慌てて訂正する私。

 なにしろ御璽がないからね?


 なのに李夏さまも、それはそれは心から幸せそうに満面の笑みで言う。


「いえいえ主上がそうおっしゃったのなら、王淑妃さまは遅かれ早かれ皇后におなりになることでございましょう。私も大変喜んでおりますよ。なにしろ私が見いだした方なのですから!」


 ダメだこの人、出世と保身に目がくらんでいる。

 自分が見いだして献上した娘が皇后になったら、きっと絶大な権力が握れると浮かれている。


「そうでございます。主上のご意志は天のご意志。他に誰が否定できましょう」


 翠蘭も私と自分の出世に目がくらんでいるのか!? 


「いや周貴妃側が黙っていないでしょうが! それに官吏たちも! 単に主上が今血迷っているだけで、そのうち気が変わったり忘れるかもしれないじゃない!」


 私は叫んだ。

 なんだなんだ、あいつは今朝、一体何を言い残して行ったんだ!?

 皇帝の一言でこんなに大騒ぎになるもの!?


 なるんだね……勉強になったよ……皇帝って、すごいね……。

 せっかく元気に起きたのに、またどっと疲れた朝だった。


「きゅっ? きゅっ?」


 バクちゃんが、なになに? みたいな顔をして鳴いた。

 そうだよ……この子がいたよ……。


 バクちゃんまでが、なんだか嬉しそうな顔をしているように見える。そんなはずはないのに。

 

 ぬか喜びという言葉が私の脳裏を駆け巡る。

 みんながそんなに浮かれてて、なのにもし目論みが外れたら、私は肩身が狭くてぺっちゃんこになりそうだ……。


 地獄かな?




 なのにそんなまだ何も信じられないままに開始された李夏さまのお妃教育? 皇后教育? がこれまた大変厳しいもので。


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