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皇帝の神獣2

 

「あなたにもいたのね……」


 全く考えたことがなかったけれど、そういやこの人も立派な皇族だった。しかも今や皇族のトップの人。

 その白龍が何か決意したような顔で言った。


「俺もいいかげんこんな言い合いなんてしないで、お前とは腹を割って話せるようにしたい。実は今の立場だと言えないこともいろいろあるんだ。だが白に認められれば話は別になる。夏南の紺にもそのバクちゃんにも認められているならそろそろいけるだろう。もう食事は終わったよな? よしじゃあちょっと来い」


 そう言ってすっくと立ち上がり、まるで自分の家のように私を寝室に連れて行くのだった。

 そして鍵を閉める。


「なに? なに!? 危険なの!?」

「お前が逃げないように」

「逃げたくなるような動物なの!?」

「大丈夫、なんだが一応な」

「は?」


 そして白龍が呼んだ。


「白、来てくれ」


 ――何用だ。


 すると即座に声がして、そこに突然現れたのは。



 白い白い……大きな虎だった。

 しかも、なんと喋った……?


「え……? 虎……?」


 私は驚きすぎて現実味が全く感じられなかったけれど、なんとそこには大きな、そして猛々しいオーラをまとう一匹の白い虎がいたのだった。


「そう。これが俺に憑いている神獣。白虎の白だ」

「白虎? って、あの白虎!?」


 なんか伝説とかであったよね……?


「そう。そしてこの国の守り神でもある。俺はこの白に選ばれたから皇帝になった」


「え、そうなの?」


 思わず間抜けな声が出た。でも、そうなの?


「じゃないと末端皇族の俺が次期皇帝に指名されるわけがないだろう。しかしお前、案外平気だな? さすが春麗、肝が据わっている。大丈夫か? 怖くはないか?」


 白龍が、ちょっと驚いたように言った。

 え、ということは、この寝室に来て今も出口を塞ぐように立っているのは、怖がって私が逃げ出すと思ったから?


「でも白龍の虎なんでしょ? だったら大丈夫でしょう。それともあなたの意志に反してこの白虎が私に襲いかかる可能性があるの? バクちゃんは私が嫌なことはしないよ? 大人しいよ?」


「ああ……なるほど。ちなみにお前のバクちゃん、そんなに大人しくないからな? ただ単にお前が何も言わないから何もしないだけだ」


「なにそれ。じゃあ今度ナニが出来るのか教えてよ。でもそれよりこの守り神様よ。この白虎が憑くと皇帝になれるの?」


「まあ平たく言うとそういうことだな。で、実はこの国の本当の王はこの白虎だ。俺や歴代の皇帝はみんなこの白の許可を得て統治している」


「なるほどー」


 なんだか驚きすぎて、気の抜けた返事をしてしまった。


「まあ皇族以外には見えないから、表向きは皇帝が一番偉いということにしているんだがな。そして次の皇帝も、皇帝が『正しい判断』で指名していることになっているが、実は白に従っているだけだ」


「なるほどー」


 ふと見ると、何も知らずにウキウキとこの部屋までついてきた私のバクちゃんが、私の足の間で平身低頭、というかぺったんこになっていた。

 その視線をたどったらしい白龍が付け足す。


「だからこの白が、この国の神獣の王でもある。その証拠に今その獏、怖がっているだろう」

「あ、じゃあ最初の頃にあなたが来るとバクちゃんがいなくなっていたのって」


「おそらくは俺の後ろにいる白の気配を怖がって逃げていたんだろうな」


「なるほどー」


「大丈夫かお前、顔から表情がなくなっているぞ?」

「ああそうかもね……ちょっとびっくりしてるのよ……」


 ――我がいることで不都合があるなら消えるが?


 白虎様が白龍にぼそりと言った。

 なんだか空気の読める神様だった。


「ああいや、大丈夫。すぐに落ち着くだろう。それより白、頼みがある。聞いてくれ」


 ――なんだ。


「俺は、こいつを皇后にしたい」


 ――いいだろう。獏も気に入っているようだしな。


「………………ちょっと?」


 今、何を言った?


 人が呆けているうちに、しれっと何を言ったんだ? ん?

 皇后? は?


「聞いたとおりだ。今、白への面通しも済んだ。白が拒否したら皇后に出来ないんだが、さすが春麗だな、白も了承してくれたから決定だ。よし、あとはじじいたちの説得だけだな!」


「なんで!? 私、ただの商人よ!? 無理でしょう!?」


 なんでそんな晴れやかな笑顔になって――


「お前、この白が見えていてただの商人なはずがないだろうが」


「あれ?」


 ――撫でろ。


「へ?」


 衝撃で呆けていたのを、また違う衝撃が吹き飛ばし、そろそろパニックになろうかという私の目の前に大きな白虎がのっそりと歩いてきて、すっとその頭を差し出した。


 ――白龍の妻ならば、もちろん我を怖がらずに撫でることもできよう。さあ遠慮なく撫でろ。


 そう言って耳をぺたりと寝かして撫でられ体勢の、たしか四神の一人いや一匹……?


 でも撫でろと言われたら撫でればいいのだろう。

 私は恐る恐る手を伸ばし、大きな白虎の頭に触れた。


 もふっ。


 おおおお、もふもふだ。


 思わず撫で撫でしてしまう。


 もふもふもふもふ。


 白も嬉しそうにしてくれるものだから、つい両手でわしゃわしゃ撫で回してみる。

 ついでにあちこち掻いてやると……。


 ――ゴロゴロゴロ。


 なんだかのどを鳴らし始めたぞ。

 もう私は嬉しくなってしまって、その後は盛大にもふもふを堪能し、心ゆくまで撫で繰り回してやったのだった。

 白虎、かわいいではないか……!


「お前、俺には指一本触れないくせに……」


 近くで白龍が何か言っているが、気にしない。

 こんな機会なんてそうないのだから、もちろん全力で堪能するのだ。


 もふもふもふもふもふ……。

 ゴロゴロゴロゴロ……。


「きゅうーー……」


 バクちゃんが、ちょっと悲しげに鳴いていた。


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