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父さまとの出会い

 妈妈ママ! その男を捕まえて!!


 私は思わずそう叫びそうになった。いやちゃんと話せれば叫んでいたかもしれない。

 見覚えのある顔、そして声。


 この男が、まさか私の幼い頃に母に会いに来ていたなんて……!


 王嵐黎、後にこの国の豪商となる男。

 今はまだ若いし普通の商人のようだけれど、この男は後に商売を成功させて大金持ちになる。


 それを私は知っていた。

 なぜなら前の人生で、私はこの男の部下だったから!

 優秀な商売人で上司としても公平でいい人だった。将来性抜群、人柄も申し分なし。

 近くでこの人の仕事を見ていた私なら言える。

 この人なら信頼できる!


 私は若き王嵐黎が母の元に花を持って恥ずかしげに訪れたのを見た時、思わず片時も離さずに持っていたお気に入りのオモチャを取り落としたくらい、びっくりした。

 ちょうど作っていた素晴らしく美しい砂の山がべこっとへこんだけれど、もうそんなの、どうでも良かった。


 このチャンスを掴まないでどうするんだ私!


 私はすっくと立ち上がると必死になって、耳を赤くしながらも一生懸命母に話しかけている若き王嵐黎と、それにつれない態度で対応する母の元によちよち歩いていった。


 本当は走りたいところだけれど、無理して走ると転んでしまうので出来ない。

 うっかり私が泣いてしまったら、母はきっとあっさり会話を切り上げて私のところに来てしまうだろう。

 なのに幼児というものは、痛い目にあうと勝手に涙が出て泣いてしまうのが止められないのだ……!


 でもできる限り急いで行く。

 なにしろ私は知っている。母は、あの母は、この王嵐黎のような男は好みではない。すげなく追い払ってしまうだろう。


 なぜなら今の王嵐黎は、一見細身でひ弱そうな男だから。

 母の好みは見た目が悪そうで、かつ筋肉ムキムキの、とにかく男臭い男だった。


 あの様子では母につれなくされて傷心になってしまった彼がもう来なくなるかもしれない。

 なにしろ私の前の人生をどんなに思い返してみても、あんなに若い彼と会った記憶なんてないのだから。

 このままでは、きっとすぐに母の前からいなくなってしまう……!


 私は必死によちよち歩いて王嵐黎の元に行くと、とりあえず自分に出来る最善と思われる行動をとった。


 つまりは満面の笑みで、王嵐黎に向かって言ったのだ。


「爸ーパーパ!」


 もちろんびっくりする母と王嵐黎。

 しかし他に幼児の私にどうすればいいというの。今にも母は立ち話を切り上げて、二度と彼を相手にしないかもしれないのに。


「春麗、この人は届け物を届けてくれただけで、パパじゃないのよ?」


 母が困惑しながらそう言い、王嵐黎はというと。


「あ、はい……その通りです……」


 とちょっと寂しそうにしながら苦笑いする。

 何か荷物を届けることを口実にやってきたのだろう。でもね、普通荷物を届けにきてくれただけの人は、ついでに花なんて持ってこないんだよ、母よ。

 いや母もわかってはいたのかもしれないが。


「すみません、本当に」

 あくまで他人行儀な母と。

 

「いや、いいんですよ。可愛いお嬢さんですね。ははは……今何歳なんですか?」

 なんとか話を続けたい様子の王嵐黎。が。

 

「今はまだ一歳ですわ。もう砂遊びでこんなに汚れて……。ではこの子を洗わないといけないので、そろそろ失礼しますね」


 そう言って、母は私を抱き上げると、そのまますげなく立ち去ろうとした。


 私は焦った。

 ダメ! それはダメ……!

 私はとっさにどうしていいかを必死に考えて、でも何も浮かばなかったので、唯一浮かんだ言葉をとにかく叫んだ。


爸爸パパー! 抱っこぉ!!」


 私を抱っこして、そのまま私を人質にしてもっと会話をしてー!


「抱っこおぉおーーー!!」


 ジタバタジタバタピチピチピチ。

 ここらへんは、私の日頃の鍛錬と技が光るのだ。

 つまりは全幼児の秘技、全力での抱っこ拒否!

 

 それは、女性の腕では支えきれないほどのピチピチとした大きな魚のような動きの大暴れで、決して抱っこさせまいとする、おそらく大抵の幼児が持つ必殺技である。


 私は! ここにいたい! あっち行かない!!


 そんな動きに大抵の親はうっかり取り落として頭でも打っては大変と、抱っこを諦める……はず。

 そして私は見事母の腕から逃れ……いや落っこち――


「危ない……!」


 まさにその時、王嵐黎は母の腕から落下しかけた私を抱き留めてくれたのだった。

 素敵! そう、この展開よ! 待ってた!


 ぴっとり。


 これ幸いと、全力で王嵐黎に抱きつく私。

 ついでに晴れやかな笑顔も披露して。


「爸~パーパっ!」


 もう離さないぞ❤

すみません、本当は小説にハートマークは使わない派だったのですが、今回だけはどうしても入れたくなってしまいまして……我慢できませんでした……ほんとすみません……

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