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高級路線でいこう

 

「いやそんな出るものは仕方がないのでは……。こんな薄着じゃなくて、もっと着込めばいいと思うの」


「いいえ王昭儀さま。殿方というものは、総じてこのような見えるか見えないかくらいがよいのでございますよ。特に王昭儀さまは色が白いのですから、それを存分に映えるようにするべきです」


「いや寒いし」

「主上のご寵愛にまさるものはありません。日々の努力が王昭儀さまを磨くのです」


 そう言って張り切る翠蘭に、私はいつも勝てないのだった。

 翠蘭も全力で私を皇帝に差し出そうとしているよね。


 風邪を引かないギリギリの薄着。

 翠蘭の有能さに舌を巻き、またこみ上げてきたくしゃみを我慢する私である。


 なので思ったのだ。


 薄着でないのに、そこそこ翠蘭が満足するくらいには色っぽさを出せるものはないのか。


 そう思って過去の記憶を遡ると。


 あるわね。

 前に、ものは素晴らしいけれど高すぎて、これではそれほど需要がないだろうと諦めた極上の布が。


 あの時は諦めたけれど、今回の顧客の候補は妃嬪である。となると、お値段なんて、それほど重要ではなくなるだろう。


 そうして早速取り寄せたのは一見すると薄い布地。

 目が詰まっているのに薄くしなやかで、女性が素肌に身につけると張り付いたように体の線を綺麗になぞってくれるのだった。


 北方の、とある地方で細々と作られている、高価だけど美しい布。

 高価すぎて流通はほとんどしていないものの、そのしなやかさは極上なのだ。


 前世の光沢のある化学繊維を思い出させるその布は、それでも天然素材のために色さえ選べば上品で、それはそれはなめらかな肌触りだった。


 ためしに取り寄せたその布を後宮の衣装を扱う部署に言って、シンプルな服に仕立ててもらう。

 そしてその出来上がった服を素肌に着てみると、なかなかに美しくもそこはかとなくなまめかしい感じが出て良いのだった。


 うん。これは後宮で売れるかも。

 あとはお金持ちの奥様とかにも?

 そういやこの国にお仕事としての愛人はいるのかな?


 なんて姿見の前でほうほうといろいろな角度から眺めていたら、いつのまに来ていた白龍陛下が、鬼の形相で大声を上げるから驚いた。


「なんだそれは! 脱げ! そんな格好でこんな表をふらふらするんじゃない!」


 思わずびっくり飛び上がって振り返る私。


「へ? 来てたの? いやこれ、売れるかなって思っていたんだけど」


「売るのはいい。だがお前が着るのはダメだ。それじゃあまるで下着じゃないか! 他の男が見たらどうするんだ!」


「いや下着じゃないし! でも綺麗でしょ? それにここには他の男なんていないし」


「綺麗かどうかは問題じゃないんだよ。もう少しどうにかならないのか? 俺はなにを試されている?」


「いやなにもあなたを試しているわけでは……。でもあなたがそんなに真っ赤になるなら、少なくともこの後宮の妃嬪には売れそうねえ?」


 そう言って私はくるっと回ったのだった。

 薄い布地がふわっと広がって、その後また体の線にそってぴったりと張り付く。

 うん、しっとり。肌触りもよくて大変良い感じである。


「……俺は試されているんだな? そうだな!? それともまさか誘っ……?」 


 ふむ、同じようなものを色違いで何枚か作ってみよう。




 その後、なぜか皇帝の命令でもう少しふんわりと作られたその服のサンプルは、後宮内で何人もの妃嬪にお買い上げしてもらえたのだった。


 最初は上級妃である私へのゴマすりとご機嫌取りだったかもしれないが、だんだんとその肌触りと美しい光沢が気に入られ、デザインも妃嬪たちの要望を取り入れて改良していくにつれどんどん洗練されていった。


 そして翠蘭がぽろっとあちこちで、この服を見て皇帝陛下が大変お喜びになったなんていう話を漏らした結果、しばらくしたら爆発的に人気になったのだった。


 なんと李夏さままでもがご注文だったので、きっとこの人気は本物に違いない。

 もちろん背の高い李夏さまの体型に合わせて特注で、ご要望通りのものを作らせていただきましたとも。


 心は乙女な李夏さまは、きっと書架に囲まれた寝室であれを着て眠るのだろう。肌触りいいもんね、うん。

 美貌の宦官が流れるような美しいシルエットの薄い夜着を着ている姿はさぞかし眼福だろうと思った。


 まあ、中身は薔薇小説と自分の出世と保身しか考えていないような人だけれど。泣き叫ぶ私に欠片も同情しないほどの俗物だ。


 ふとそんなことを思い出した私は、もう金はたっぷり持っているのだろうからと、しっかりたっぷりふんだくってやりました。おほほ、なにしろ特注ですから~。


 そして後宮で流行るものは、他の女性も気になるもので。

 そうして皇族や高官や他の皇宮の官吏たちの奥様からの注文が入り始め、そして庶民の中でもお金持ちの人たちへと広がっていく。


 最初は妃嬪が商売なんてと反対していた官吏たちも、さすがにその奥様にまで広がってしまうと勢いが削がれ、そうこうしているうちにその肌触りを気に入った奥様たちから、ちらほらと男性用の夜着の注文も入るようになってきた。


 とにかく皇帝の権威を背負っているので、非常に順調に事業が進んでいく。

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