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ループの二度目は後宮で ~逃げるための後宮でしたが、なぜか奴が皇帝になっていました~  作者: 吉高 花 (Hana)


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獏2

 しかし。

 うん、一向にどこかへ行く気配がないね。

 しかもかわいいったら。


 なんだかずっと足下から離れないで、たまに目が合うときゅうきゅう鳴く獏と何日も一緒に過ごすうちに、私はすっかりこの獏に情が移ってしまったのだった。

 ころころして、大人しくてなんてかわいいんでしょう。


 私はとうとう周りに誰もいないときに、思い切ってこの獏に触れてみようとした。

 撫でられるかな?

 そう思って手を伸ばしたら、獏の方から撫でられにきた。

 もうなんて可愛い……!


 だけれど私の手は獏の頭を通り過ぎ……。

 

 うん、触れなかったか。そんな気はしたよ。

 だって今でもちょっと半透明だもんな。

 

 でも当の獏は通り過ぎた私の手を物珍しそうに見てから、頭の位置を撫でられるのにちょうどいい場所に移動させて、そのまま私の手にスリスリするような仕草をしていた。どうもそれで撫でられた気になっているらしい。

 その仕草がなんとも可愛いのだった。


「バクちゃん、あなたはどうして私のところにずっといるの? 私が好きなの?」


 ついそう聞いた私のことを、そのつぶらな瞳でまっすぐに見上げ、そしてまた「きゅっ」っと鳴いたバクちゃんだった。

 なんだか嬉しそうだったけれど、残念ながらなんと答えたのかはわからない。


 だけれどその後も私から離れる気はないらしく、ほとんどの時間を私の足下でずっとうろちょろしているのだった。

 たまにふいっとどこかに行って、そして満足げに帰ってくるのは、もしかしたらどこかの誰かが見ていた悪夢を食べてきたのかもしれない。


 まあ誰にも見えてはいないみたいだし、それに餌やトイレの世話の必要もないならまあいいか。

 そのうち飽きたらまたどこかに行くのだろう。

 私はそう思って、今のバクちゃんとの生活を楽しむことにした。


 たまにちらりと目をやると、バクちゃんの方もそれに気がついて見上げてくれるのがなんとも嬉しい。

 私がにっこりと微笑み、そしてバクちゃんが嬉しげに「きゅっ」と鳴く。そんなやりとりが、まるで心が通い合っているようで幸せだ。


 うん、ペットというのはいいものだね……。

 私は後宮を辞したら、実家に帰ってペットを飼うのもいいかと思ったのだった。



 その後も私は呉徳妃からは無茶な注文をされるようになっていった。

 けれども私はできるだけ関わり合いたくなかったので、最初は「とにかく検品が厳しいのですが、それでもいいならやってみます」などと言って、のらりくらりと逃げていた。


 呉徳妃は高官である自分の父親に頼めばいいと思うのに、なぜか私を呼び出しては後ろ暗いものばかり手に入れようとするのはなぜなのか。

 まあ、後ろ暗いからだね……。


 それでもう最近は私も割り切って、あまり害のないものは融通するようになっていった。

 もちろん李夏さまへの報告は怠らないが。


 呉徳妃としては、まさか後宮のトップが呉徳妃の密かに所望するものを完璧に把握しているとは思っていないのかもしれないが、私もまさか一人でその責任を負うわけにはいかないのだ。


 後宮、それは怖いところ。

 すぐに人が死んだり殺されたりするからな……。


 下手に上級妃に気に入られてしまったようなので、私は最悪の事態を想定して、困った事態になったら父さまにでも無理矢理救出してもらえるような手立てを考えなければならなかった。


 間違っても阿呆な妃と連座で処刑なんていう未来は避けたいのだ。


 そんな考えでひたすら李夏さまにいちいち報告しているのだけれど、最近はなんだか同僚の中には私が李夏さまを誘惑しているように見える人もいるらしくて面倒なことこの上ない。


 徳妃さまから呼び出されたり、憧れの李夏さまとしょっちゅう話をしていたり。

 まあ上昇志向の強い人たちから見たら私は上手くやっているように見えるだろう。


 本当は単なる使いやすい便利な商人としてこき使われているだけなんだけれどね……。


 わかる、わかるよ。

 たしかに父親に頼むという公のルートでは恋愛小説やら百合小説やら薔薇小説やら、それに付随するあんな絵やこんな絵なんて注文できないよね。だいたい上級妃という立場だったら、普通の小説だって軽薄だからといい顔されないだろう。そんな世の中だ。


 ましてや百合や薔薇など。

 そう、この国では少々特殊な恋愛の隠語として「百合」や「薔薇」という言葉で表される分野があるのだった。実は私も内容はよくは知らない。

  

 でもその魅力にはまってしまったら、それはもちろん手に入れたい。好きなものは好き。好きなら手元に置いて愛でたいではないか、そんな気持ちはわからなくもない。

 そしてそんな時に私という便利な存在を見つけてしまったと。

 

 職務上守秘義務はあるし、気軽に呼びつけられて立場上逆らえないのに豪商が後ろについているから様々なものに伝手がある、そんな女官の私。

 うん我ながら便利だった。

 なんだか最近は、あの最初の注文品だった媚薬も皇帝に使うわけではないような気がしてきたぞ。


 呉徳妃、若いのに、いや若いからこその好奇心なのか……?


 しかしあまりそういう方面の専門家という印象がつくのも嫌なので、そういうものと一緒に他にもお高い化粧品やら珍しい布やら装飾品なんていうのもお勧めし、結果なんだかんだと良いお客様になっていただいている今日この頃。


 ええちょっと趣味性の高い小説は、そんな素晴らしいお品のついでにおまけしたものでございますよ。そういうことで。

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