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皇帝の花園


 上級妃なんて、なんとたったの二人しかいないのだ。


 しかも、なんと皇帝のお渡りが全くないらしい。

 どちらの上級妃にもまだお渡りが一度もなくて、単なるお飾りのようになっているという話だった。


 んんん?


 跡継ぎどうするの?

 と思ったら。

 事情通の同僚が言うには、


「前の皇帝の奥さん、つまりは先代皇帝の下級妃だった方の一人が離宮で息子を育てていらっしゃるから、このままいくとその皇子が跡継ぎだって言われているわね」


 とのことだった。

 

 ひたすら洗濯物をじゃぶじゃぶ洗っている間、口は暇なので井戸端会議になることも多い。

 おかげで見たこともない上の方の事情までやたらと詳しく耳に入ってくるのだった。


「なるほど、じゃあ家系が断絶する心配はないのね。って、でも普通は自分の息子が欲しいものなんじゃないの?」


 とつい聞くと。


「普通はそうだよねえ。だからさすがにそのうち作るんじゃないの? 今はどっちの上級妃の奥さんに産ませるか悩んでいたりして。なにしろどっちが先に皇子を産むかで政治とかが変わるだろうからさ」


 というのが、今の後宮の人たちの一般的な見解のようだった。

 上級妃、しかも一番上の四夫人である周貴妃と呉徳妃は、それぞれ高貴な身分のお嬢様なのだ。


 周貴妃は前皇帝の皇女。ただし先代皇帝が亡くなってからは今の後ろ盾は妃嬪だった母のみで、事実上の後ろ盾は身分だけ。

 対して呉徳妃は、今をときめく皇宮でも一番の権力者である高官の娘だそうだ。


 うへえ、頂上決戦みたいなものだね。

 となるとその二人しかいない上級妃の、どちらかに皇帝が通ったら、そのまま政治の情勢までもが左右されるのだろうか。


 だけどまあ、皇帝なんていう立場の人の真意なんて、私みたいなただの商人にはわからない。

 私は政治家じゃないしね。


 とにかく、皇帝が後宮を見向きもしないので、ある意味今の後宮は平和だった。というより必要以上に静かだった。

 

 それなのにどうして今回そんな後宮に女官が大量募集されたかというと、それは、最近になって下級妃を沢山後宮に入れたからである。


 妃の階級は山ほどあって、大抵は次代の皇帝の母として相応しい身分、美貌、教養、そして後見、それらを基準に選別されて、見事お眼鏡にかなうと上級妃としての位が授けられる。

 だから皇帝はその中で子供を作れば血筋も後ろ盾も立派な跡継ぎが出来るというシステムだ。


 ちなみに上級妃は四夫人の四つの位、そしてその下に九嬪の九つの位。しかしこの国の歴史上は九嬪といっても何十人もいたことがあるらしいので、実質人数無制限。


 そしてその下にはこの後宮では下級妃と呼ばれる、上級妃の位の何倍もの階級の位がまたある。

 もちろん皇帝の寵愛とか皇帝の子を産んだとか権力とか利権とか、そんな理由で下級妃が上級妃になることもあり。


 だから今回大量に後宮入りした下級妃たちも、全員が家柄、美貌、資質、全ての面で合格した素晴らしい女性たちである。


 でもさすが今の上級妃二人というのは、別格のような身分と立場だった。 

 もうどちらかが皇子を産めばみんなが幸せになるのだろう。


 だがそんな素晴らしいお膳立てがされているというのに、それでも皇帝にまでなると与えられた完璧な美姫が気に入らなかったり、気に入ってはいても他にもつまみ食いをしたいという人もいるのだろう。


 そして全く後宮によりつかない今の皇帝にも、二人の上級妃が気に入らないのでは疑惑が湧いたのかもしれない。

   

 とにかく早く跡継ぎを作らせようと、きっと周りが決めたのだろう、後宮大増員計画が持ち上がったらしかった。

 

 突然国中から美しい娘がかき集められ、厳しい審査の上細かく身体検査がなされ、基準を満たした娘たちが強制的に下級妃として大量に後宮に放り込まれたのだ。

 要は皇帝のつまみ食い用のお菓子というか、少しでも皇帝を後宮に通わせるための呼び水というか。

 

 あの時はうっかり私もその審査に送られそうになったのだけれど、もちろんそれは嫌だったので、役人さまにはちょっと袖の下を渡して見逃してもらった。

 こういうときにはお金というのは大変便利なものである。


 しかし普通はそんな逃げられるような手段を持っている人なんてほとんどいないので、結果全国から選りすぐりの綺麗で条件の良い娘が集まったのだった。なんとその数、約百人。

 全国の美女百人よ。なんて贅沢な。さすが皇帝。


 きっとそのうちその百の花が咲き乱れる後宮という園で、皇帝は気ままに花を摘むのだろう。

 わあすごい。


 そして同時に募集された私たちはそんな大量の妃たちのお世話をしているのだ。


 基本は仕事を求めて来た人が大半なのだろうけれど、中には妃嬪になる審査には落ちたのにどうしても諦められなくて、お手つき目的で女官になった人もいるという。

 すごいわねその上昇志向。

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