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好きなものを好きと言える僕と君―3

≪望月玲≫


「そういえばアキラさー。昨日告白されたんだよね?」


 親友である美弥にそう言われたのは、授業という鬱屈した束縛から解放される昼休みの時間だった。

 お母さんの作ってくれた美味しい卵焼きを突きながら、私は美弥の問いに答える。


「されたわねー。でも、美弥の情報とはちょっと違った人だったかも」

「あ、そうだったんだ? 単なるヤリチンじゃなくって、がっついてくるヤリチンだった?」

「そのヤリチン疑惑が間違ってたの! 食事中に変なこと言わないでよ」


 親友の言葉を選ばない会話に呆れながら、私は突いていた卵焼きを口の中に入れた。

 咀嚼しながら昨日の告白してきた男である上乃弦二を思い出す。

 美弥の持ってきた噂では「女の子をとっかえひっかえしてるヤリチン野郎みたい」という女の敵のような人物像が出来上がっていて、告白の前からそんな男にこれから告白されるのかとうんざりした気持ちで私は屋上へと重い足を運んだ。

 しかし、屋上で街の風景を見ていた男の子はまるで地味な容姿をしていた。もっと胸元を開け、髪を染め上げ、だらしない恰好をしているチャラ男が現れるのかと予想していたのだが、まるでそんなことはなかった。

 そして会話が始まってからの唐突な叫び。私も何度か告白された経験はあるけれど、あんな真っ直ぐに想いを伝えてきた人は初めてだった。


『何かに直向きに努力するきみはっ、とても美しいっ!』


 どうやら彼は私が図書室で勉強しているのを知っているらしい。図書室に出没するという時点で美弥の言っていた噂の信憑性が一気に失われた。


「ヤリチンっぽくはなかったけれど、じみ~な男だったわね」

「そうなんだ。でも、相手が誰だろうと断るつもりだったんでしょ?」

「まあ、ね」


 私は誰かと付き合うつもりなんてさらさらない。付き合った経験もないけれど、今の私にはやりたいことがあって特定の誰かに想いを寄せている暇なんてない。

 好きなものを好きでい続けるために、私は勉強しているのだから。

 何気ない日常会話を美弥と交わしていると、教室の片隅でオタクっぽい男子生徒二人が声を上げて熱狂している声が聞こえてきた。


「ドロォゥッ! 俺は『ハバムート』を召喚し、ターンエンドッ!」

「俺のターン、ドロォゥッ! 魔法カード発動! 『古よりの追放』! このカードはデッキからモンスターカードを五枚墓地へと送ることができる。そしてっ! 永続魔法『暴走蘇生』を発動している俺のフィールドには、墓地へ送られるモンスターがすべて特殊召喚されるぅ!」

「んなっ! 幻獣種が五体……まさか」

「フィールドに幻獣種が五体揃った時、プレイヤーはデュエルに勝利する。俺の勝ちだ」

「ふ、ふふふふっ」

「な、なにがおかしい! もう勝負はついているのに……」

「『ハバムート』の効果は相手がデュエルの勝利条件を満たした時……それを阻むぅ」

「ば、バカな……そんな効果を持っているモンスターがいたなんて……」

「阻め『ハバムート』」

「くそっ! どうすればっ」


 どうやら熱狂している様子だ。周りなんて気にもせず、夢中になって机の上に置かれたカードを捌き、難しそうな呪文やらを声に出して叫んでいる。


「アキラさー、ああいうのどう思う?」


 弁当を食べ終えた美弥が机の上に肘を置き、手の上に顎を乗せて熱狂している男子生徒を冷たい侮蔑の目で見ていた。


「どうって?」

「ああいうのってさ、小学生とかがやるようなもんでしょ? 高校生にもなってやることなの? いくら好きだからって言っても……」


 そして美弥は、私の目を見て苦笑いする。


「引かない?」


 そう聞いてくる美弥に、あたしは一瞬だけどう答えるかに悩んだけれど、このような質問は既に答えが決まっているようなものだ。


「引くわよねー。あの熱意を別の何かに向けられないのかしらね?」


 なるべく無心で答えた。なるべく――自分の心を痛めつけないように。


「ああいうの見ると、もっと高校生活をエンジョイしろよって、青春を謳歌しろよって、言いたくなるんだよねー。童心を忘れないのが大切だって言ってる奴もいるけどさー。いい加減大人の階段を登ろうとしろよって。カードゲームなんかただの紙切れ動かしてる遊びにしか見えなくなるんだからさー」


 美弥の言葉が私の心に突き刺さる。その痛みを表情に出さないように、私は心を穏やかに保ちつつ、美弥の言葉に平然と受け答えていた。

 しかし、そんな子供っぽいことを嫌う美弥を毎日相手にしながら、私の心の奥底ではいつも考えている疑念が蠢く。

 ――好きなことに夢中になって何がいけないんだろう?

 こうして表面上は仲良くしていても、私と美弥が心の底から分かり合えることは難しいのだと、そんな未来が見えるようだった。


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