第四話 輝く少女
仲良くなりたい。
でも、馴れ馴れしい奴と思われたくない。
ぐずぐずと、悶々と、ミチハルを見つめ続けて気が付けば六月になっていた。
最初の期末テストの前。ここ最近降り続けた雨も止み、グラウンドも乾き始めている。
三年生のみを集めた蒸し暑い体育館で、進路指導の和久井先生は額に汗を滲ませて
生徒に進学の重要さを説いていた。
薄い夏服のスカート生地が、汗ばんだ由真の太腿に張り付く。今日は真夏日らしい。
あれから一言も喋っていない。
あの日、あんなに人懐こく話をしていたのにミチハルは、用があるとき以外相変わらず物憂げな表情で譜面をさらっていた。
それからというもの由真はどうすれば良いのか本気で悩んでいた訳だが、五月の始めに朗報が舞い込んできた。
修学旅行
意識して近くにいれば、きっと話しかけるチャンスぐらいある筈だった。
きっと思春期の学校行事は、その為に在るに違いない。
「由真、由真!」
背の順に並ぶとすぐ後ろにいる詩織が、小声で話しかけてきた。
「何?」
「耳貸してよ」
「??」
『・・・由真はミチハルが好きなの?』
由真の心臓が跳ね上がった。
「ち・・違うよ!何で?!誰から聞いたの?」
「だって由真、さっきからチラチラ、チラチラ、ずーっと見てるんだもん。わかるよ」
「そんな事ないよ・・」
自分の顔が赤くなっているのが判る。
頭がくらくらして、その場に座り込んでしまいたくなった。
「タイプじゃないし・・私、背の高い人苦手だし」
「ふ〜ん」
ニヤニヤしながら、詩織は何度も頷いた。こちらの心情はお見通しのようだ。
「由真、なっちゃんと詩織で班組もうよ」
「え・・?修学旅行の?千裕も良い?」
「いいよ。じゃあ、あと二人はミチハルとたかみーで」
「え・・っ」
「 二矢内!! 水澤!! お喋りの時間じゃ無いのよ!!!」
担任の坂内先生の怒号が体育館に響いた。
三年生全員がこちらを向く。・・もちろん、ミチハルも。
完全に恐縮した由真とは対照的に、詩織は相変わらずニヤニヤしながら
「ごめんなさ〜い」
と、坂内先生に向き直った。
皆の緊張が一気に解けて、くすくすと笑い声が聞こえる。
壇上の和久井先生までもが、笑いながら話を続けた。
詩織のようになりたい。
由真はその時、初めて同年代の女の子に尊敬の念を抱いたのだった。
詩織にいつも無理やりさせられているお下げ髪も、誇らしく感じた。
そして、何より感謝した。
こんなにも簡単に、ミチハルが笑いかけてくれるなんて。
たった数秒だった。
斜め後ろ、由真から見て五人うしろに居たミチハルと目が合った。
まるで保護者のように柔らかく微笑み、”静かに”と云うように人差し指を唇にそっと当てた。
笑って、直ぐに由真は前を向いた。
―――今日はぐっすり眠れそうだ。・・いや、眠れないかも。
どちらにしろ、とても幸福な時間であった。