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第十五話 それぞれの夜

同じ時刻、高宮佑介は勿論心配していた。


同室の津山と戸田がそれぞれ持ち寄ったアダルト雑誌に齧り付いている最中、高宮は一人だけ悶々と部屋の中を歩き回っていた。

そんな物よりも、もっと気になるのは亜紀が無事かどうかなのだ。

ところが一人だけ参加しない高宮に、二人が声を掛けてきた。


「高宮は?」


「おいおい、優等生ぶってんのか?見ろよ津山の。すげー趣味だぞ」


「凄くはねーよ!そんなにマニアックか??」


今までそれどころでは無かったが、高宮も立派な中学生男子である。そこまでもったいぶられると、気になってしまう。

いかがわしい気持ちと言うより、好奇心で覗いてみた。


「見せろよ。どんなだ?」


「ほらコレ!縄とムチだぞ!!完璧にSMじゃねーか!」


「声でけぇよ!お前だって興奮してんじゃねーかよ!!」


いやはや、こんな所を亜紀に見られたら言い訳できないな。でも俺は亜紀をこんな風にしたいとは思ってないぞ。多分な。


”ピンポーン”と、やや大きめの音でドアチャイムが鳴った。時計を見る。10時5分か・・・先生だな、おそらくは。

急いで証拠隠滅をして、澄ました顔でドアを開ける。


しかしドアの向こうに立っていたのはミチハルだった。


「なんだミチハルか」


「佑介、先生来たらもう寝るの?」


「なんで?」


「詩織たちがトランプやろうって。由真も呼びに行くらしいよ」


「俺はいい」


ぶっきらぼうに答えた。今はそんな事より―――


「・・・あ!やっぱり行く!!」


目を離した隙に、もうミチハルが消えていた。

不思議に思って半開きのドアから頭を出すと、腰に手を当てた坂内先生とばっちり目が合ってしまった。



「どこへ行くつもりなの?」


ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべて、高宮に質問してきた。


「へへ・・・もう寝るよ。おやすみ先生」


「まったく、詩織たちの班は何かと問題が多いわね。津山!戸田!居る?」


急に声を張り上げたので、傍に居る高宮は縮み上がった。

部屋の奥で、二人が声を揃えて返事をする。

やれやれと言った感じでため息をつくと、先生は部屋を出ないように再三注意をして出て行った。

教職って大変だなぁ、と高宮は他人事の様に感じながら鍵を閉めると、多分まだ盛り上がっているだろう二人をよそに、早めに床に就いた。


・・もしかすると、その際高宮が亜紀の無事を祈っていたから、揉め事があの程度で済んだのかも知れない。

誰にも知る由は無かったが・・・。



そして聖書にもある通り、天は誰の上にも、どんな状況でも同じ太陽を昇らせる。

昨日、局地的に台風が襲来した1216号室も例外ではなく、分厚いカーテンの向こうには美しい早朝の風景が広がっていた。


あの騒動の後に詩織と千裕がこの部屋を訪ねた頃には、由真も亜紀も疲弊していて夜遊びどころではなかったため、丁重に追い返した。

なっちゃんはと言うと、お風呂から上がると一言も喋らずにベッドに入って布団をすっぽり被ってしまった。

1時間位浴室に立て篭もっていたのは、泣いていたからだろうか。

胸が痛む。流石に言ってはいけない事だった。


時計のアラームが鳴る前に目覚めた由真だが、二つのベッドの内一つがもぬけの空になっている事に気が付いた。

まだ時刻は5時を回って間もない頃である。亜紀は何処に行ったのか?

洗面台、トイレ、浴室を其々確認するが居ない。それとなくクローゼットを開けて中を覗き込むが、かくれんぼじゃあるまいし居る訳がない。


諦めてベッドに戻ろうとした由真が振り返ると、いつの間にか背後になっちゃんが立っていた。寝ぼけた様な顔で由真を見つめている。

どう接するべきか思案に暮れていると、ちょっと掠れ気味の声でなっちゃんは言った。


「あなた、本当に桜井が好きなのね」


「え・・・」


彼女の目に、昨日までの刺々しさは無かった。いつか体育の時に見た、チームをまとめる時の凛々しい顔つきに戻っている。


「寝言で言ってたわよ」


「・・・う、うそ?!ホントに?」


「嘘に決まってるじゃない」


軽く流して、なっちゃんはまたベッドに戻って行った。

狐に摘まれたような気持ちとは、おそらくこの状態の事を言うのだろう。

なっちゃんの思惑がさっぱりわからず、自然と眉が八の字になる。

暫くしてようやく試された事に気付いた由真だったが、そんな事で信用してもらえるなら安いものだと思ってもう少しだけ寝ることにした。


少しだけ、心が軽くなった気がした。




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