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魔法世界の回復役  作者: Se(セレン)
1章 勇者と魔法使い
6/20

1-6 龍の番所

 深い深い、洞窟の底。


 膨大な魔力を含む骸が生まれた。


 朽ちたそれは、際限無く周囲に魔力を溢れさせる。


 溢れる魔力は辺りに恵みをもたらし、災いをもたらした。


 空気は澄み、木々は茂り、魔物達を惹き。


 巨大な『死』の波動は更なる『死』を呼び寄せた。




 年月は流れ、その洞窟は死者の蔓延る魔窟と成っていた。




 ─────




 そんなおっかない洞窟に連れてかれる、一人の無力な青年がここにおるんですね。


 「話聞く限り、めっちゃ怖い。」


 「いーっすよ。突然強い敵に襲われてもぶっつけ本番で戦えるってなら。」


 「ユラさん冷たぁい! 行きますよ、行きますよ!」


 現在勇者様御一行は、龍が世界を見護っていたとされる番所の入口を前に立っている。


 「ていうか、都市のど真ん中に魔物がいっぱい詰まってる洞窟の入口て危なっかしいな。」


 「元々龍を中心として生まれて、大きくなった都市だから。寧ろこの都市の主要な建物はこの辺りに集まっているよ。」


 「それに、この洞窟は転移門で繋がれてますから。魔物等がいるトコと直接は空間繋がってないんで大丈夫っすよ。」


 ヨミは転移門なんて仕掛けに感心しながら入口を見上げる。洞窟とは言うが、人工的に建造された建物の様に見えた。


 「さ、行こうか。」


 ライクを先頭に三人は建物に入っていく。


 建物の中は、門をくぐってすぐに長い階段が待っていた。外観よりも更に人工的な景観が増した空間は、濁り無い白の壁で囲われている。


 「底の見えねぇ階段が見えるぞ。これ下んのかよ。」


 「僕もここに来るのは初めてだから。でも、きっとさほどはかからないだろう。」


 「でも、きっと、は根拠が無さすぎる。」


 さほどはかからない、と言う推測だったが、実際には1分程で最後の段に足を着ける。

 降りた先には未だ白基調の続く空間に、大きな魔方陣とその前に立つ一人の男性がいた。男性はこちらに気付くと、一礼をして口を開く。


 「いらっしゃいませ。本日の御用件は?」


 「魔物との戦いの実戦練習がしたい。という理由は駄目かな?」


 「いえ、その様な方もいらっしゃいますから。了解しました。どうぞ、ご案内します。」


 「ありがとう。」


 門番チックな人のマニュアル通りと言わんばかりの対応と応対した後、複雑な文字と幾何学に満ちた模様が細やかに画かれる魔方陣の枠の内へと案内された。


 「最初ここにきた時に通ったやつよりかずっとでけぇな。」


 「何か言ったか?」


 「いいや、何も。」


 そういえば、この世界に喚ばれた時も魔方陣を通ってきたな、と思い返す。あれに比べれば遥かにこちらの方が大きく、大人数でも移動出来る様に出来ていると思われる。

 しかしどことなく肌で感じる魔力の重みの様なモノは、最初の魔方陣には桁の外れた雰囲気がある気がした。やはり近い空間を繋げる事と別の世界を繋げる事とでは比べようもない差があるのだろう。


 「では、お送り致しますので。準備はよろしいですか?」


 「ああ。」


 ライクが短く応えたと同時に、魔方陣のなぞられた円と文字が三人を別の場所へと誘い始める。

 その光を浴びているうちに、視界が少しずつ削られていく。今見ている視界は違う場所へと送り届けられる。


 「お気を付けて。」


 うっすらとした感覚の中、その声だけを聞き届けた。


 やがて完全に視界が白に染まった所で、身体の全てがこの場所に無くなるのが解った。




 ─────




 身体が、再構築されていく。


 実体の持たない魔力へと崩された身体が、場所を変えて生まれ変わる。


 「──着いたね。」


 「うひー、転移の感覚ってなんか癖になりますよねー。」


 「俺は慣れそうにねぇや。」


 転移についての感想はさておき、送られてきた場所の把握をせんと瞬きをして視界をリセットする。広がる視界は、白を基調にした清潔な壁面から荒々しい岩肌へと変化していた。


 「なんつーか、すんげぇ洞窟って感じだな。」


 「ここからは整備とかしてくんなかったんすかね。壁が痛々しいっす。」


 「この洞窟は広いからな。それに、魔物の多い場所での作業は危険も多い。」


 その洞窟は、上を見るも先を見るも底が見えない程に深く、広い。辛うじて、進む道にはか細いランプが広い間隔で掛けられていた。


 「あっちに進め、って話か?」


 「そうらしい。というより、他に道もないしね。」


 「とか言っても、あのランプだけじゃやっぱ視界暗すぎませんかね。」


 ユラは、短く『顕現』を唱えて杖を出す。

 現れた杖の先には僅かな火花の弾ける音の後、すぐに目に余る程の火球を見せる。

 その光は、暗かった洞窟を一瞬にして明るく変えた。


 この手慣れた一連の流れを見て、魔法を使える様になったとは言え新米魔法使いのヨミには憧れに近いものを感じていた。折角杖も貰ったのだし。


 「なーなー、それってどーやるん。俺でも出来んの?」


 「いや、あなたは聖魔法以外の適性はひどいもんっすから。『焔』が使える未来はないと思います。」


 「ひどいもんって、ひどいもんだな!」


 ユラの正直な評定に苦笑を漏らすが、ヨミは洞窟に響くわざとらしい咳払いをして言葉を再選する。


 「違う違う、そうじゃなぁい。俺が聞きてぇのはその一瞬でひゅばっと杖出すやつだよ。」


 「あー、『顕現』っすか。そーいえばずっと肌身離さず握りしめてましたね。」


 ユラはヨミが手に持っている杖を見る。前日トルニアスから受け取った杖をずっと両手で抱えていたのだった。手汗が滲み、滑り落としかねないのがヨミである。


 「魔法使いの基本中の基本ですし、そんぐらいできないとっすね。」


 「え、そんな初歩なの。」


 「そんなったって、杖持ち歩いてる魔法使い見たことありますか。」


 「ないな。いや、魔法使い自体を一昨日初めて見た。」


 「そりゃ流石にないっすよ。この世界にいる限りどこにだっていっぱいいますし。まぁ、あたしみたいな? 勇者様にお仕え出来る魔法使いは? 滅多にいないっすけどねぇ?」


 「この世界にいる限り、ねぇ。」


 自分で勝手に浮かれ始めるユラを他所に、小声でぽそりと呟く。限らない人だっている訳で。


 「そんで? 俺にもサクッと出来ちゃう感じですかね?」


 「魔法が撃てりゃあ大体いけるんじゃないっすかね。魔法撃つときの感じで、魔力のイメージが大事っす。」


 「イメージイメージ、魔力をイメージ。」


 「杖を何て言うか、魔力の塊みたいに考えて。魔力を自分の中に仕舞い込む感じっすね。」


 「なんかちょっとムズいな。杖は魔力、魔力は俺の。」


 ぶつぶつとよくわからない言葉を並べ立てながら、持てる想像力を膨らませる。


 すると、手の中の杖の感触が僅かに薄れていく。硬い柄は間違いなく手中にあるのに、砂場に建ちたる城が如く形が崩れるのが解った。

 杖は光を帯び始め、握りしめる手の中に収まろうとする。只の魔力となった杖は、ヨミの身体の中へするりと潜り込み、力となって貯蔵された。


 「できるじゃないですか。それじゃあもっかい出してみましょう。もし出せなかったらあなたの意識を飛ばしてから引き抜いてあげますから、心配しないで下さい。」


 「意識絶たれるの?! 俺! くっそ、顕現せよ、ってな。てかしてください。」


 ヨミは右手を高く掲げ、その手中に杖が『顕現』するのを思い浮かべる。同時に首トンされる自分の未来も見えかけたが、大抵の事はすぐに小慣れるのもヨミの長所。それも一度引っ込めたものを出すのはそう難しくなかった。

 手先に光が集まり細長い形を造形していく。そうして完全に実体を持った杖をしっかり握りしめ、その感触を再度確かめる。


 「おぉ、すげぇなこれ。いきなり不意打ちとかに使えそう。」


 「あなたの発想の方向性はさておいて、『顕現』ってのは魔力を持った物質を魔力を扱える人間が生み出したり吸収したりする魔法なんです。この世は魔力を含む物質が殆どですから、大体の物は取っておけるって事です。」


 「他にも、魔力に生まれつき乏しい人が魔石から魔力を吸収して魔法を使う、なんてのもあるんだよ。」


 ライクは、指を立てて差す先にある空気を氷結させて見せる。


 「これ、思ったより便利な魔法なのね。何かまた一つレベルアップした気分。」


 ヨミは杖を持つのと反対側の手をキュッと固く締めて「テテテテッテッテッテー」と口ずさむ。


 その隣で神妙な顔をしているのがライクとユラである。


 「あ、これ地元でレベルアップしたときの定番音楽なんだが……そら知らねぇわな。」


 「いや、そういう事を考えていた訳ではなくて。」


 ライクとユラは顔を見合わせて互いに疑問に満ちた表情を交換する。


 「あなた、非常識ここに極まれりって感じなのにレベルとかは知ってるんですね。ほんと、不思議な奴っす。」


 「──え」


 え。

 え。というのは、心の底から漏れ出た言葉だった。


 「え。え、え。おま、この世界てレベルあんの。」


 「ここじゃなきゃどこの世界だってんですよ。今知ってる風に言ったんじゃないっすか。」


 まじか、まじかよ、まじですかい。やべぇ、めっちゃ気になる。すげぇ。


 「何々、どこでわかんの。どーやってみれんの。」


 「は、あなたに在る訳ないでしょう。」


 ギンギラギンに目を光らせるヨミの煩悩をばっさりと切り落とす。


 「知ってんだか知らないんだか。情報はもうちょっと確かにしてから持ち歩きましょうよ。」


 「へえぇ……」


 止めを刺される。切り落とされた希望に踏みつけられた足跡。ついの一昨日もこんな事なかったかな。


 「君の所の不思議な音楽が鳴るレベルは僕は知らないが、知識に相違があるなら説明しておこう。」


 しかしここでの流石のライク。話を正しい方向に持っていってくれる。


 「レベル、というのは僕の家系が持つ能力の一つでね。魔物探知と同じ様な物だ。」


 「じゃあ、お前だけレベル持ってるって事かよ。ずる。」


 「ずるいと言われても、むしろ代わって欲しいくらいだが。まあ、僕と前までの代の、二代目以降は確かに持っている力だよ。初代が持っていたかに関しては、神のみぞ知ると言った所だ。」


 勇者がレベル上げして魔王に立ち向かうってのもよくある話だしな。そーゆーのは仲間にも付けて良い位だと思うけど。


 「しゃーない、諦めるか。そんで、今代様は今何レベなん?」


 「何レベ、とは?」


 ヨミとしては普通の質問をしたつもりだったが、見当違いの質問をされたかの様に二人は二度目の疑問の表情を見せる。

 暗いその空間には、焔のぱちぱちと火が弾ける音だけが鳴り響いていた──。


 「いや、この俺のスベった感何よ。レベル幾つって話。」


 「いや、レベルは数字で表されるものでもないのだが。やはり、君の知っている『レベル』とやらとは少し違うらしいな。」


 「まじで、この世界創った奴何考えてやってん。文化の差に全く付いていけねぇよ。」


 「僕達の知るレベルというのは、自らが倒した魔物を『経験』として溜めて力にする。その働きそのものをレベルと呼ぶ、というのが『叡智』の記述だそうだ。」


 「何、経験値はちゃんとあるわけ。」


 「経験値、か?」


 「いやEXPの話だよ。エクスペリエンスなポイント。経験の値。俺のゲームから得た知識なめんなよ?」


 「……なるほど、な。」


 二人は三度目の顔を見合わせる。この光景、もう慣れてきた。

 それはもういいんだけど、俺が変なこと言ったかなって。いや言ったんだろうけど。


 「──ヨミ」


 「はい」


 「勇者一族の力は知られていないものも多い。それこそ、『叡智』の大図書館で1日中本を読み耽っていたとしても足りない程に、だ。本当に、君の知識源はどこにあるんだ。」


 「へ、へぇ……」


 「色々聞きたいのは山々々っすけど、」


 ユラが杖を振りながら話に入る。


 「あたしの魔力尽かせる気っすか。」


 「「あ」」


 ヨミとライクの視線の先には、そこそこの勢いがある火球が揺らいでいる。


 「終わったら話聞かせてもらいますから、さっさと進みましょうよ。」


 「……進もうか。」


 「せやな。」


 長話は一旦中断して、三人は奥へと進む。




 ─────




 薄暗い道、紅き灯火を頼りに進む。


 光の無く闇に覆われた場で強い灯りを見れば、人はそれに誘われてしまうものである。それが、頼るものも無い場での本能による生物としての自己防衛の手段なのだから。


 それは、魔物であれ例外にない。


 「魔物寄ってくる、すげぇ寄ってくる!」


 「ホラホラ、頑張って下さいよ。あたしは明るさ要員ですから。」


 ユラが杖をくるくると回すと、魔物達はそれに引き寄せられる。


 「アンデッド以外の魔物も少しはいるらしい。彼らに当てないでくれよ、回復されては敵わない。」


 「いやわかんねぇし!」


 「ヨミー、壁に腕掠りました。回復かけて下さい。」


 「ちょっとシャラップ!」


 叫び立てながら手当たり次第に魔法を撃ち込んでいく。たまに消えない奴がいるということは恐らくアンデッド以外の魔物だろうから、ライクに横流せばいいのだろうと考えて無視する。

 ユラは「てがはなせないなー」と言って壁際に寄っている。その杖も持たずに下げた左手は何で埋まっている。


 「なんて、聞いてる間もねぇ。」


 「思っていたより多いな。ヨミ、平気か?」


 「平気に見えるならおめでてぇよ。」


 ライクが剣を振るい、ヨミが魔法を乱打する。だが、ユラが掲げる炎のせいか魔物が減る気配はない。


 「あなた、魔法の練習に来たんですから。もうちょっと捻った技でも考えたらいいですよ。」


 「うぐぐ……」


 そもそも、この場所に来た理由は戦闘慣れである。だが杖が増えただけでやり方は先日の村での戦いとあまり変わっていない。

 要は何かしらの新技っぽいものが作りたい、という話である。


 「あーもう、なんかいい技、イメージだぁぁっ!」


 杖を掲げて適当なイメージを脳内に張り巡らせる。ヨミの想像力は、変な事になりやすい為不安要素が多いのだが。


 「くらえぇぇっ!」


 一瞬、ヨミの頭上にある杖先が強い光を放つ。隣のユラの炎を遥かに上回る程に。


 短い輝きの後、大量の光の弾が明滅する。


 「ちょっ!?」


 ヨミの放った魔法は、その場の全てに命中する。死者を還し傷を癒す。その魔法が洞窟の一角を埋め尽くした。

 放たれた光は壁面に反射して余計に輝きを強める。そのせいで術師自身の目にもダメージが入ってしまった。


 「どう、どうだった?!」


 「眩しいっすよ! 暗いとこで急にやるやつじゃないっす。」


 目を擦りながら光に慣れようと瞼を上げる。その視界は元のまま暗く静かな洞窟が広がっていた。

 と、いうよりも。


 「敵、めっちゃ減ってる。」


 「あなた、何したんすか。」


 「いやちょっと、全方位ショット出来るかなぁと。」


 杖の先から現れたのは、ヨミの魔力の籠る弾だ。それをヨミの底無しの力で大量に生み出し、適当にぶち撒けたのが今の技である。


 「名付けて、『ヨミさんバースト』」


 「ビームに次いでクソダサいっす。」


 ヨミのキメ顔はそげなくあしらわれるのは半ばお決まりのやり取りとなっていた。


 「あ、あたしの掠り傷も治ってる。」


 「えーと、アンデッド以外は寧ろ元気になってる訳なんだが、手伝ってくれないか?」


 「はい、勇者様ー。」


 若干しょんぼり気味のヨミを置いて、呼ぶ声へと向かう。燃え盛る杖を鈍器が如く振るっているのが魔法使いとしてどうなのか。

 対するは、角と牙の生えた、五頭身程の典型的な雑魚キャラだ。振るう木の棒も虚しく、ライクの剣とユラの焔に易々と払われている。

 こうなればヨミには出来る事など殆ど無い。少し離れた所で魔物の血が弾けるのを見ていた。


 「これで、最後の一体かな。」


 地面に伏した魔物の背中に剣を突き刺し、残りを探る。


 「なんとなく思っちゃいたが、中々にグロ注意な絵面じゃねぇか。」


 「最初はそうだったさ。だか仕事柄、慣れない訳にもいかないから。それよりも、ヨミが落ち着いている事の方が驚きなんだが。」


 ライクはちらとヨミを見る。ライクも疑問だった。ヨミも今の剣撃を目を離さず見ていたのだ。その目は、どこか恐怖を抱く眼差しであったのをライクは見逃してはいなかった。


 いなかった、が。それは血に慣れない『それ』ではなく、もっと遠くの景色に怯えている風だった。

 なのに顔色変えずに、隠す様に毅然と立っているのだ。それが、ライクにとって不思議でならなかった。


 「あー、まあ、な。俺だって流血沙汰の一度や二度、見たことくらいあるさ。」


 「そうか。僕は、自ら手にかける感覚には中々慣れなかったな。……いや、まだ慣れられてなんかいないかもしれない。」


 「そりゃあ、嫌な産まれをしたもんだよな。」


 歯を見せて返す。自虐に満ちたニュアンスで、なんて事は悟らせまいと思いながら。


 「人の傷を見慣れるなんて、良い事なんかありゃしないぜ。」


 「全くだな。」


 剣に付いた血を拭って、鞘に収める。その後、倒した魔物達に魔法で弔い合掌。


 「さて、奥に進もうか。」


 「まだ行くんすかー。」


 「まあまあ、ヨミの魔法もまだまだ荒削りだ。先程の技も、一発一発の精度を上げれば強力なのは間違いない。」


 「あれ、結構ノリでやったんだが……」


 しぶしぶ灯りの杖を掲げるユラを中心に、三人で更に洞窟の深みに踏み込んでいく。




 ─────




 その後、何度か魔物と相対しながらも先へ先へと進んでいた。


 道中、数々の新技とユラの「ダサい」コールが幾度も繰り返されながらも、洞窟の最深部へと辿り着いたのだった。


 「これで行き止まりか?」


 「どうやらそうらしいな。」


 そう言う場所は、入ってきた時よりも更に広く、見上げるほどの巨大な扉が構えられている。それを三人で押したり、魔法で強行突破しようとしたが、テコでも動きそうにないのが今の現状だ。


 「この奥に何か膨大な気配を感じる。この先に御視様の骸があるのだろう。」


 「きっとそうでしょうね。魔力の流れが尋常じゃないです。」


 魔力の流れ、というのは召喚後すぐのヨミにはいまいちピンとこない感覚だったが、今は少しずつ感じる様になってきた。

 それが、この扉の前に立って今、押し潰されそうな程のプレッシャーとなってヨミの全身を余さず包んでいる。


 「龍を殺したって奴はすげぇな。俺にゃ会う為に扉を開けるのさえ出来やしねぇとは。」


 「しかし、こうなればもう引き返す他に無いな。今日の所は戻るとしようか。」


 「さんせーっす。さっさと帰ってゴハンにしたいっす。」


 扉に背を向け、元来た道を歩き直す。扉の先の守り神にも興味はあったが、休みたいという気持ちの方が勝つ。


 そんなこんなで、後ろの巨大な魔力や今日の夕食に意識を向けていたから、




 「──っ!? 二人共、足下だ!」


 「──へ?」


 突如、足下がせり上がる。ヨミが何か反応する前に、襟首を捕み、引っ張られた。


 「ぐぇ」


 「何やってんすか、死にますよ!」


 ユラがヨミの首を引っ張り、高く跳ねる。それまで立っていた場所には、鋭い爪の様なものが露出していた。

 ユラの着地と同時に、荒く地面に叩きつけられる。


 「何だ何だよ!つかお前あんなジャンプできたのな。」


 「魔法の応用です。そんなのはどうでもいいですよ、あれ!」


 ユラが見る先に、地面から見えたのは、巨大な獣の姿だった。

 犬に似た四足歩行、目に深い傷があり、何よりもヨミの何倍もあるだろう大きさが、その場に這い上がってくる。


 「勇者様! 大丈夫ですか?!」


 「ああ、何ともない。それより……」


 後ろ脚まで露になった巨獣は、咆哮を上げてこちらを睨んでいた。その咆哮は岩肌に反響し、耳に突き刺してくる。


 「あれは──アンデッドだ。ヨミ!」


 「俺が相手しろってかよ! でけぇよ!」


 アンデッドが相手となれば、ヨミが攻勢に出る他ない。だが、この巨体に足がすくんでしまう。

 喚いている間にも、巨獣は凄まじい速度で迫ってくる。口の隙間から鋭い牙が見え隠れしていた。


 「なんだよあのわんわんお!滅茶はえぇな!」


 「あれは、わんわんおと言うのか?」


 「おま、その顔とその声でわんわんおとか言うな! 笑う!」


 唇を噛みながら慌てて突進を避ける。その獣の勢いに硬い土が抉られた。


 「くそ、笑ってる場合じゃねぇ。」


 「僕達もバックアップさせてもらう。頼むぞ。」


 「バックアップなんて横文字この世界にもあるのね!」


 ライクが剣を抜き、ユラが杖を構える。何とも言えない空気感の中、英語の浸透の確認もそこそこに、真剣な戦いが始まる。




 ──巨獣わんわんお戦が、始まる。

 冒頭が前日譚率が高い物語、6話です。

 今回のメインは『レベル』でしょうか。これは、代ごと現役の時期の勇者様にしか現れない現象です。

 魔物を倒せば倒す程、魔物に対してのみ攻撃力が上がり、魔物からの攻撃に強くなるという勇者様便利パワーの一つになってます。つよい。


 それでは皆さん、おやすみなさい。

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