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魔法世界の回復役  作者: Se(セレン)
1章 勇者と魔法使い
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1-5 むかしばなしとみらいばなし

 1000年を渡る昔のこと。


 世界が創られた時のこと。


 神は自らの力を以て4人の人間を創り出した。


 与えられた人間達は神を慕い、授かった力でさらに多くを創り出した。


 人間達は数を増やしていき、豊かさを追求して日々を過ごしてきた。

 それは、平穏に満ちた生活だ。


 仲間が出来、家族が出来、町が出来、国が出来、世界は大きな成長を遂げていった。




 だが、神が産み出したのは、人間だけではなかった。


 世界が現れて100の年を経た頃。


 人間達は脅威に曝される事になった。




 ──魔王が、現れたのだ。


 突如として現れた魔王は自らを『死神』と名乗り、次々と魔物を創り人間達の暮らしに侵食していった。


 これまで100年もの間、同族の暮らしをより向上させ、神にその成果を捧げるのみを天命として生きてきた者達だ。自らを脅かす敵が現れるなど、考えもしていなかった。


 結果、人間達の多くは魔物の糧となり、魔物は更なる力を得ていった。




 神が与えた物の中に、『叡智』を受け持つ人間がいた。その『叡智』の中には、武術に関する神託もある。だが、『叡智』は所詮只の『知識』であり、実際に扱い切れる者は居なかった。

 終いには、自身の終焉を悟り、神から受けた『叡智』を膨大な書物へと変換して自らがそれを護る大図書館となった。


 神が与えた物の中に、『天産』を受け持つ人間がいた。だが、『天産』は何も出来ない。『天産』はただ『自然』で有り続けるのみ。それを破壊する事は出来なかった。

 終いには、荒れ果てた大地の中心で、世の全てに届く程の咆哮を上げ、巨大な根を張りその地に宿存した。


 神が与えた物の中に、『星霜』を受け持つ人間がいた。『星霜』は『時』を操る。然れど、『時』を繰る力も、止める力も、その『時』を超えた先にある事象は寸分も違わない。

 終いには、遥かな『星霜』を超えた先の空間に人間である身体が耐え切れず、朽ち果てた。


 神が与えた物の中に、『聖寿』を受け持つ人間がいた。『聖寿』は皆の傷痍を癒そうと尽くすも、『命』は無限ではない。他の者の夢幻を削って人の『命』を繋ぎ留める行為は、結果人を救う行為には繋がらなかった。

 終いには、『聖寿』は、自身の夢幻だけをひたすら繕い続けて、どこか、どこか遠くへと身を隠した。




 人間達の間で頂点に立っていた4人が朽ち、人間達の生存は絶望的だった。




 ──そこに立っていたのは、たったひとりの少女だった。


 何の変哲もあるわけではない少女。彼女も、人間の絶滅に震えていた一人だ。




 ──ただ、ただ深く、底なしに神に愛されていた。ただそれだけの少女が。




 ある日、家に魔物が襲いかかってきた。少女は、自分も仲間達の所へと昇るのだろうと、そう思っただろう。

 しかし、そうはならなかった。なれなかった。


 神の御声が聴こえた。


 不思議と、戦い方が解った。


 恐らくは、神が手助けしてくれていたのだろう。魔物を確実に倒す一撃が、少女の美しい脚から放たれる。


 解る、解る。魔物の弱点が。剣を顕現させる方法が。どこに、魔王がいるのかが。これが、自分に何をさせんとしているのかが。


 その自覚を得ると共に、少女は金色の頭髪と鮮紅色の瞳を持つ『勇者』となった。




 ──只の少女は、人間達を背に立っていた。


 必ず、この地獄を終わらせると、大衆の前で語った言葉は今も残っている。神に愛された少女には、そう断言できるだけの自信があったのだろう。


 少女は、『叡智』から読み取った魔法を最も上手く使えた二人を連れ、魔王城へと旅立った。


 その旅路は、決して楽なものではない。だが、少女は負ける事が無かった。

 二人の魔法使いの力もあり、彼女らは魔王城に辿り着いた。




 ここから先の話は、語り継がれていない。誰も、この先を知らない。


 ただ解る事は、魔王城の周りには巨大な結界が張られ、魔物も、勇者達も二度と城からは現れなかった。

 そして、大戦の後に何処からか金色の頭髪、鮮紅色の瞳を持った赤子と、勇者の剣が見つかった。ただそれだけだった。




 生き残った人間達は、彼女らを『勇者』『魔女』『賢者』と呼び、4人の権能を持った人間に替わって敬い始めた。


 だが、神は一つ、新たに予言を下す。


 『900年後、暦1000年に、再び魔物は動きだす。その時、金色の頭髪と鮮紅色の瞳を持った者と二人の同朋が死神を討つだろう。』


 これを聞いた人間達は、見つかった赤子を大切に育て上げ、二代目の勇者として敬った。


 それからは、代々『魔女』『賢者』に代わる者を求めて二人の魔法使いを付け、勇者という家系を900年後の戦いに向けて継ぎ続けていった。




 100年戦争と、1000年戦争の、古い話である。




 ─────




 「という訳で、僕達は昔からの意思を継いで、魔王を倒す為に今も戦っているんだよ。」


 避難所の簡素なテーブルを囲って、ライクは話す。


 「ほー、そんで二人魔法使いがいるんだ。」


 「そーっすよ。でも、回復が得意な良い魔法使いが中々見つからなくって困っていたんです。」


 「そういう事だ。君ならきっと『賢者』にも劣らない力がある筈だ。」


 「そりゃありがたい評価だね。それで魔王は1000年に死ぬんだろ? 今って何年なんだよ。」


 「今は、この星の歴で1000年に当たるね。」


 「……へぇ、1000年、ねぇ。」


 ヨミは一度、ライクの言葉を噛み砕く。噛み砕いて理解した上で、改めて意味を考える。


 「それ、今年じゃねぇか?!」


 「そーいう訳で、今代の勇者様は期待されまくりの超注目のお方なんですよ。」


 「この様な年に産まれたというだけで重く掛けられる期待に、僕も潰れそうな程だ。」


 「て事は、俺は実際に魔王のとこに突っ込む訳で? 結構やばくねぇ?」


 「ああ、だからこそ、君の様な人物に逢えるのを心待ちにしていたんだよ。」


 「これは思ったよりやべぇの引き受けたかもなぁ。いや、元々魔王とは戦うんだろうと思ってたけど、900年溜めに溜めた戦いだとは思わんかったよ。」


 「あ、今更拒否はさせませんよ?」


 「ひぇぇ……」


 「頼りにさせてもらうよ。これからも、宜しく頼む。」


 ライクは手を差し出す。ヨミはそれを見て、少し恐怖もあったが、しっかりと手を握り返した。


 「くそ、やるんだったら、ぜってぇ勝つ。誰一人、失わせない。俺は無傷でいるし、いさせる男だ。」


 「実に頼もしい言葉だ。それじゃあ、ヨミの付き魔法使いとしての契約を確定する。いいかな?」


 「おう、魔王を殺るまで、絶対に全員で生きる。契約だ。」


 「これでやっと、『1000年目の勇者』のメンバーが揃いましたね。予言通り、あたし達で魔王をぶっ飛ばしてやりましょう。」


 三人は手を重ね、誓いを立てる。


 「『勇者様御一行、魔王狩りツアー』始まりだ!」


 「だから、あなたの名付けはいちいちやる気が削がれるんですよ。」


 こうして、世界中から注目をされる1000年目の勇者の仲間は確立した。




 ─────




 ヨミは、ライク達との話を終え、村の宿に泊めてもらっていた。

 襲撃の後で、少し外見に傷はあったが、中はしっかりと宿として泊まれる形が残っていた。


 「なんつーか、長ぇ1日だったな。なんか面白いイベントを期待してたってのはあるけど、ここまでの大イベントは想像してなかったな。」


 元々、学校に行こうと通学路を歩いていただけだ。それが急に知らない場所へと飛ばされて、知らない村を救う事になり、魔王と戦う事になった。これ、1日の出来事。


 「でも、やっと一人になれたし……」


 ベッドの上に寝転がって、大きく深呼吸をする。吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吸って、限界まで吸って。




 「ここ、どこだよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ?!」


 今まで溜めていた叫びが爆発する。


 「異世界だろうね!? 分かるけどね!? でも、唐突すぎやしないかな! 話の展開も早いし、ていうか通学鞄どっか消えてるし! いま制服だし! この世界の事全然知らんから常識知らずみたいになるし!? 何でこんな事態になってるの!? 謎が謎を呼びすぎて謎しか残んないんだけど!」


 言いたいだけ叫ぶ。夜はお静かに、良い子は真似、ダメ、ゼッタイ。


 というものの、ヨミの思いも最もである。

 本当にヨミは何もしていない。何もしていないのに、無理矢理に別の世界に引きずり込まれたのだ。寧ろ疑問しかない。


 1000年戦争に合わせて魔王を倒す力を持った選ばれし人間が喚ばれた、と言えば聞こえはいいのかも知れないが、喚ばれた本人としてはいい迷惑である。せめて説明をしてから飛ばして欲しい。


 「くぅ、結局流れに任せるしかない感じか。」


 ヨミは諦めた様に眠りにつく。ヨミが召喚される事は、きっと生まれた頃からの天命だったのだ。そう思う様にしておこう。



 ──ヨミの異世界生活1日目、終了。




 ─────




 「おはよう、ヨミ。良く眠れたかな。」


 「いや、全く寝た気はしねぇな。疲れだけは即刻で取れる体質だけどもさ。というか、ナニコレ。」


 起きれ来て外に出てみると、そこそこ大きめの馬車が数台停まっていた。


 「ああ、都の方に連絡して救援物資などを送ってもらったんだ。」


 「はえー、仕事が早いのね。」


 ヨミが感心していると、一人の男性が近づいてきた。

 きちんとした格好に、完璧な作法。という感じが溢れでている老紳士だ。


 軽やかな歩みでヨミの側まで来ると、恭しく一礼をする。


 「貴方がヨミ様、ですかな?」


 「ヨミ“様”かは知らないですけど、ヨミです。」


 「やはり、貴方がヨミ様。私はトルニアスと申します。私共々、魔王の討伐に期待していますよ。」


 「あ、えと、どうも。」


 「それにあたってなのですが、」


 「え、何か…」


 「ヨミ様は杖をお持ちでないとのお話でしたので。我々の方から御用意致しました。」


 目の前に現れた老紳士は、白い布に包まれた棒状の物を見せる。そこにライクが歩み寄る。


 「トルニアスさん、お久し振りです。」


 「これはこれは、勇者様。御壮健で。」


 「貴方も、お元気そうで何よりですよ。」


 「何、知り合いなの?」


 ラインが軽く挨拶を交わす。突然目の前で始まった年の差旧友トークに、首をつっこむヨミ。


 「ああ、彼は先々代の時からお世話になっていてね。誰よりも平和を望む、優しい方だよ。」


 「勇者様からそのような御言葉を頂けるとは、嬉しい限りですな。」


 トルニアスは、わはは、と笑いヨミに向き直る。


 「それで、杖の件です。付き魔法使いたるもの、杖を持っているに越した事はありませぬ。聖魔法に特化された杖をお持ちしましたので、どうか使って頂けると。」


 「まじっすか、ありがたいです!」


 正直、杖とかは結構憧れていたし、ユラの魔法を見て余計に欲しくなっていた所だった為、ヨミにとっては嬉しい話だった。


 「それが、こちらになります。」


 ずっと両手で抱えていた包みを開ける。中からは美しい宝石の嵌め込まれた立派な杖が姿を見せる。

 その珠の余りの美しさに、目を奪われて見入ってしまう程だった。


 「これ、貰っちゃっていいんですか?」


 「ええ、魔王の討伐の為です。出来る支援は幾らでもさせて頂きますよ。」


 「あ、ありがとうございます!」


 「僕からも礼を言わせてください。ヨミの杖をどうするかも悩んでいましたから。」


 「それは何より。では、私も配給をせねばですので、この辺りで。」


 「はい、頑張って下さいね。」


 「貴方こそ、きっといつか魔王を。」


 気品のある老紳士は、笑顔で立ち去っていく。


 彼の残していった杖は、ヨミの手の中でほのかに暖かい光を覗かせていた。


 「さて、僕達はそろそろ村を出ようかな。」


 「お? もう行っちまうのか?」


 「君には魔法に慣れてもらいたいしな。それに、一つ危機を退けたらまた一つ、他の危機に立ち向かわなければいけない。」


 「はえーカッコいいのね。」


 「とは言うが、魔物の報告も無いからな。ひとまずは君の魔法慣れが目的になる。」


 魔法慣れ、と言うのならば戦闘訓練の様な事をするのだろうか。それとも、魔法の勉強会とか。

 どうあれ、大変そうというのは目に見えている気がする。


 「あの、もう行ってしまうんですか?」


 未来の事を考えている横から、少女の声が掛かる。


 「おう、テトラ。それに……テトル、隠れてんなよ。」


 ヨミは、少女の後ろにいる弟に顔を向ける。


 「いちいち隠れやがるな、お前。どうだ、ちゃんと寝れたか?」


 頬をぐにぐにと触りながら問い質す。嫌そうに振る舞うが、それでも前日よりはずっと良い顔をしていた。


 「ヨミさん方のお陰で、安心して眠れたみたいです。それで何かお礼ができたらと思ったんですが、皆さんはもう発ってしまうんでしょうか。」


 「ん、そうみたいだな。俺はゆっくりくつろぎたい気持ちも無くはないけど。まぁこーゆーのは受け取らないのも変に気を使うしな。一つ、貸しにしとくぜ。」


 ヨミは、冗談めいた口調でテトラに言う。本心、この世界で無知もいい所のヨミには、貸しがあった方が何かと良い事もあるだろう。


 「分かりました。何か御用があれば言って下さい。私達に出来る事限りですが、何だって聞きますよ。」


 「助かるよ。俺は一人じゃなんも出来んからな。この村だって、テトラも、テトルも。村の皆が頑張ってたんだしな。」


 「そう、ですね。皆、頑張っていたと思います。」


 ヨミとテトラは言葉を交わし、厄の去った風景を見渡す。涼しく、暖かい風が吹き抜けていた。


 「でも、最後に一つだけ。」


 「お、なんだ?」


 「ヨミさんがいなきゃ、皆がどれだけ頑張っても駄目だったんです。あなた一人で本当に何も出来なかったのかは解りません。それでも、私一人よりもずっと誰かの助けになった、頑張って下さったのはヨミさんです。ヨミさんは村の、少なくとも私達の──英雄です。」


 ヨミは、テトラの真っ直ぐな瞳に、声が一瞬出なくなった。

 それは、ヨミが向けられた事もない様な目であり、言葉だった。今までも人からの感謝を受けた事はあるが、これ程深く、真っ直ぐに伝えられた事は久しぶりだ。


 「は……はは、ありがとな。」


 「お礼を言うのは、私達の方です。」


 「いーや、思い返せば思い返す程に大した働きしなかったし、助けられなかった人だっている。それでもこの俺を英雄だなんて言ってくれるってのは、本当に。」


 何故だろうか、笑顔が零れる。少し油断したら涙も出そうな程に。


 「テトルも、頑張ったよな。お前も、俺が英雄ってんなら、それになる切っ掛けだ。ありがとよ。」


 「お、俺も、助けてくれて、感謝してる。……お前はちゃんと、魔法使いだったよ。」


 「そりゃどうも、俺も魔法使いとして認められた訳だ。」


 「だから、俺もいつか、勇者様みたいになる。なって、人を助けるんだ。」


 「そこは俺みたいな英雄じゃねぇのかよ。ホラ、ちょっとライクがニヤ付いてんぞ。」


 後ろを振り向きながら、呆れる様に突っ込む。それも、どこか幸せのある会話な気がした。


 そんな感傷に浸っていると、すぐ側の宿屋の扉が開く。


 「ふぁーあ。おはようございまぁす。」


 「やっと起きたか、ユラ。これから移動になる。大丈夫か?」


 宿の扉から、よたよたとした足取りで出てきたユラ。まだ半分夢の世界。


 「はい、全然、どんとこいっす。」


 「こいつ、ホントにだいじょぶかよ……」


 「皆様、もう行かれるんですね。私達が引き止めるのも良くないでしょうし、そろそろ帰ります。本当に、ありがとうございました。」


 テトラは深々と頭を下げる。それに続いて、テトルも姉を真似てお辞儀をした。


 「またな、元気にしてろよ。」


 勇者様御一行が揃った所で、次の場所への移動が始まる。




 ─────




 移動する、と聞いてさっき見た馬車的なものを想像していた。

 実際みたものは、まぁ結構馬車っぽい。

 でも、決定的に違うのは、


 「馬、ドコ……?」


 馬がいないというか、馬を繋ぐ所も操縦席っぽいアレも存在しない。


 「まぁ安心してくれ。これは魔力で動かす類の車だよ。」


 「なにそれロマン広がるじゃん。」


 動力が魔法の車、ちょっとわくわくが広がるアイテムな気がした。


 「さっさと乗っちゃって下さいよー。どうせ魔力出すのあたしなんですし、さっさと着いてさっさとお休みの続きしたいっす。」


 「わかったわかった、超乗ってみたいし。」


 「連日魔力の消費が激しくて悪いな。向こうに着くまでは頑張ってくれ。」


 「はいはーい。」


 ヨミ達が車に乗り込むと、車内の前の方に大きな水晶玉の様なものが置かれていた。

 ユラがその水晶玉に触れると、淡く輝きを放ち始めた。どうやら、あれで操縦をするらしい。


 「じゃ、行きますねー。」


 ユラは、水晶玉に魔力を注ぎ込む。水晶玉の輝きが増すに応じて、車は動き出す。しかも、結構速い。めっちゃ揺れる。


 「ヨミ、舌は噛まない様に気を付けなよ。」


 「お、おう……これ、どんくらいかかるんだ……?」


 「何、ほんの半日程だろう。」


 「酔うて。」


 「そんぐらい耐えて下さいよ。早く着いた方がいいじゃないですか。」


 慣れた様に座る二人の側で、速攻気分が優れないヨミだったが、ユラの込める魔力は車輪をさらに加速させていった。




 ─────




 それから、数時間。


 「結構経ったよね、まだなんでしょか?」


 「まあ、半分くらいは越えたかな。」


 「うえぇ……」


 ヨミは、この質問を繰り返しながら外の空気を全力で吸い込んでいた。


 「と、言うか。これ、どこに向かってんの?」


 「あ、説明してなかったかな。」


 「されてねぇよ、突然だよ。」


 大声を出すと音以外が出そうな為あまり突っ込みに勢いが無い。それは関係ないのだが、


 「これから行くのは、龍護都市『オブザーブ』だ。龍護都市の名の通り、世界を見護る龍が住んでいた都市だよ。」


 「過去形は意味深っていう風潮。」


 「そう。今は龍は居ないんだよ。100年以上前に倒されてしまったから。」


 「護ってくれてる龍を、ねぇ……」


 「その龍は、世界の全てを視ていたんだ。だから、視ていて下さる守り神として、灰の鱗の御視様(おみさま)と呼ばれている。だから、御視様が居なくなってここ暫くの間、龍の住みかは魔物が増えてきているんだ。」


 「そこに俺をぶちこんで、特訓しようってか。」


 「あそこにはアンデッドが多く生息する。それにオブザーブ自体は中々大きな都市だ。世間にも疎いみたいだし、そういうのにも慣れてもらえると良いかな、とね。」


 「ぶちこまれる事の否定の言葉は……」


 「……」


 「返事が無い、と。」


 「実戦が一番自分を鍛えるには良いからね。」


 「そーっすか。それで、その御視様って奴はなんでやられたんだよ。守り神と戦うなんてバチ当たりな話だし、そもそも龍ってそんな簡単に負けるもんなのかよ。」


 「まあ、単騎討伐は難しいだろうね。ただ手段も動機も、解っていない部分が多いんだ。」


 「世の中おっかねぇやつがいたもんだよなぁ。」


 これから向かうオブザーブとはどんな都市なのだろうか。そんな事を考えながら話していると、少しでも酔いが紛れる様に感じた。




 ─────




 それから更に、数時間。


 「いやー、やっと着きましたねぇ。」


 「うぅ、うえぇ」


 「長時間ご苦労だった。暫くは休むといい。」


 「おふ、おろぉうぁ」


 ユラの運転していた車は、オブザーブに入り停められていた。すでに空は茜色に染まった後だ。


 「うぷ、おぇぅあ」


 「さっきからうるさいっすね。あたしは眠いんでさっさと宿行きましょう。」


 ヨミは長時間の走行によって、瀕死の状態に追い込まれている。


 「大丈夫だ。俺、体調不良とかはすぐ治るんだよ。」


 まだ若干息は苦しそうだが、顔色はみるみる回復していく。


 「落ち着いたのなら早めに行こう。皆お疲れの様だからな。」


 「はいよ。すぐ行ける。」


 ヨミは、何度か深呼吸をして立ち直る。


 「んじゃ、行くか。」


 「すごいっすね、さっきまで死にかけだったのに。」


 「俺って風邪なんかは発症する前に治るタチだからな。」


 「それ、風邪引いてんすか。」


 ゆっくりと歩きながら吸う外の空気に感動しつつ、三人は宿へとやってくる。


 「さて、今日は少し早いが休むとしよう。明日から龍の番所で戦闘だ。体力を温存しておこう。」


 「あいよ。」


 「りょーかいっす。」


 こうして、それぞれが自分の部屋へ入る。一瞬ライクに付いていくユラが見えた気がするが、3つ部屋をとった訳だし、気のせいだろう。追い出されてドアを叩くユラの声も、きっと疲れのせいだ。




 自分の部屋に入ったヨミは、まずベッドに倒れ込む。

 こうしてベッドの上に横たわると、その日の記憶が蘇ってくるのがヨミの癖だった。


 今日は、杖を貰って、テトラ達に元気貰って。そのあと、魔力で動く車に乗って、気持ち悪くなって……


 「あれ? 昨日に比べて中身のねぇ1日だな。」


 ずっと手に持っていた杖を見ながらそう呟く。昨日の中身が濃かっただけ、という可能性もあるが、今日は今日で殆ど何もしていない気もする。


 「まあ、別にいいか。平和に越した事は無い訳だし、明日はわざわざ魔物がいる所に突っ込むんだし。少しでもゆっくりしてよ。」


 そう今後の予定を思い起こすと、どっと疲れがのしかかってきた。

 その為、ヨミはすぐに寝付くのだった。

 いよいよ旅立つ物語、5話です。

 昔(暦100年)と未来(暦1000年)のお話。

 初代勇者(グランツェルちゃん)が金髪赤目になった日は雨だったりします。それが何かの伏線かと言われれば、そんな事もないんですが。

 あと、テトテト姉弟もまたいつか出番がある予定(あくまで予定)なのでおたのしみに。


 それでは皆さん、おやすみなさい。

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