シャーリー・デ・グレイプニル
「亜人の国の、王女よ・・・」
その言葉を聞いて、空気が固まった。医者などはかなり恐ろしい顔をしている。
「・・・というわけなんだ。救ってくれるか?」
「・・・分かった、確かにかなり特別なようだな」
少なくとも納得はしたようで、医者は治療に取り掛かった。テキパキとメスなどの道具を出し、色んな薬品を使い、魔法も駆使して、一時間ほどで少女の傷は塞がった。優秀な医者のようだ。
・・・王女と聞いた時の顔が気になったが、気のせいのようだな。
「あとはしばらく安静にしていれば治る」
「助かったよ」
「仕事だからな。・・・それと、治療後は栄養が必要だ。ただでさえ痩せ細っているのだから何か食べさせた方がいいぞ。ここに寝かせておくから果物か何かを買ってくるといい」
「わかった。任せたよ」
回復魔法の後は腹が減るというのも俺の世界の常識にあるので、納得して施設を出る。さて、露天らしきものは・・・
・・・と、そこで思い至る。今回の治療、どこかを切開する必要がある必要があるわけではないのに彼が最初に出したのはメスだった。
「・・・まさか!」
俺は急いで施設に戻る。治療室の扉を開けると、予想通り医者はメスで少女の喉元を突いており・・・すんでのところで少女はその一撃を止めていた。
「チッ。戻ってきたか・・・それに、腐っても亜人だな。あの傷で止めるとは・・・」
「ぐっ・・・けほっ」
少女は辛そうにしている。あの傷を治したばかりで治療魔法を受け、その上医者の体重をかけた突きを腕だけで止めているのだから当然だろう。・・・いや、傷が治っている保証すらない。
「『障壁』!」
俺は手に入れたばかりの『障壁』を少女の喉元にかけた。これで当面は大丈夫だろう。
「何故だ・・・!」
「何故?馬鹿か、お前。亜人の王女なんか抱えてるくせにわからないのか?」
医者はメスを突きこんだまま顎で俺の背中を指す。そちらを見ると、そこには指名手配書がある。そこには似ていない少女の似顔絵とーーー『シャーリー・デ・グレイプニル』の文字。
「こいつはここじゃお尋ね者なんだよ!こいつの首を持って行きゃ多額の報奨金がもらえるのさ!」
「金の、ため・・・か?」
「当たり前だろ!こいつら亜人は人間様に搾取されるだけの存在なんだからよお!」
---甘かった。
亜人に親とか妻を殺されたとか、そんな理由があるのかと思ってしまった。
異世界人が絡んでいて、まだ戦争なのだと思ってしまった。
ギル・ヴァイスがこの世界に降り立った瞬間。人間にとって亜人は、取るに足らない搾取の対象になったのだ。
話している間に医者のメスが『障壁』に届こうとしている。どうやら本気で殺す気のようだ。
「・・・もういい」
俺は腰の剣を抜いた。そして『誤認魔法』を使い、医者から俺が見えなくなるようにする。
「っ!?消えた・・・?」
「ここだよ」
医者の背中に回り込み、剣を突き付けて『誤認魔法』を解く。医者にとっては気づくこともできず背中に回り込まれたことになる。
少女に跨る医者を引きはがし、メスを持つ手を握りつぶして取り落とさせ、改めて剣を突き付けた。
「こいつへの治療は済んでるのか?」
「・・・!お前が見てたからな、最低限はやったよ」
「じゃあ死ね」
俺は医者の喉に剣を刺した。数度痙攣した後、動かなくなったことを確認して手を離すと、医者の体は支えを失い、崩れ落ちた。
少女・・・シャーリーはベッドに横たわったまま、その光景をじっと見ていた。
「なんだ?」
「別に・・・案外、冷酷なのね・・・」
「そうかもな。ともかくこうなった以上、騒ぎになる前にここを出るぞ。おぶされ」
「・・・うん」
とはいえ自分から体を動かせるほどに回復はしていないようで、俺は結局お姫様抱っこのような格好でシャーリーを持ち、施設を出た。
いや、本当にお姫様なんだが。
とりあえず安全な所を、ということで宿屋へと向かい、先ほどついでに医者の机からくすねておいた金で泊まる。もちろんシャーリーは奴隷の扱いなので、一人部屋だ。元気がないのか、あるいは諦めたのか、受付の際に奴隷と言われてもシャーリーは特にアクションを起こすことはなかった。
道中、先ほど買っておいた果物(医者の施設の前で一度落とした)を食べさせ、足りないようだったのでパンと干し肉を与えていたので栄養は十分らしく、宿屋のベッドに寝かせたら満足げに眠ってしまった。ベッドの脇の椅子で色々考えていると、俺もいつしか眠ってしまった。
彼女が目を覚ましたのは次の日の夕方だった。




