『イヴァンス』ブリーフィング
活動報告での裏設定、読んでいただけたでしょうか?読まなくとも大したことはありませんが、読んでいただければより深くこの作品について知っていただけるかと。
「次はイヴァンスっていう世界を救ってもらいたい」
「イヴァンス、ですか」
「そう。じゃあ特徴について説明するね」
二回目だが既にお馴染みの地図が出現した。世界地図はシンプルな形をしていた。海の真ん中に大きな大陸がある。それだけだ。
一応小島が周辺にあるが、転移先の表示がされていないということはその程度の場所なのだろう。下手をすると人が住んでいないのかもしれない。
「随分極端な地形ですね」
「そうだね。国の区別もものすごく単純だよ。はいこれ」
神が地図をなぞると、島がちょうど半分に分けられるような直線が引かれた。
「こっから上が人間の国。下が亜人の国」
「人間と、亜人・・・?人間以外の種族が居るんですか?」
「うん。亜人っていうのは動物の特徴を持った人間の総称だね。犬族とか鳥族とかもっと分けられた区分もされるよ。知能はそのままに、犬族なら嗅覚が鋭いとか、動物に応じた能力が備わっている」
「鳥族は飛べる・・・んですか?」
「鳥によるね。それに訓練次第」
なかなか常識が通用しない方々のようだ。案外一度に数人出産したりするのかもしれない。
・・・虫とか魚とか居たら気持ち悪そうだな。
「この二つの国はお互いに不干渉を貫いている。基本的には亜人の方が強いけれど、亜人は発情期にしか子作りできないために人間のほうが個体数が多くて実力が拮抗しているからね。戦争しても意味がないんだ。」
「外交とかはどうなっているんですか?」
「一応会議がごくたまに行われるけれど、険悪だね」
「なるほど・・・」
地形による資源の差が生まれるだろうから貿易はしているだろうと思ったが、そこまでして不干渉を貫いているのか。何か理由があるんだろうか?
「っていうのは過去の話で。人間は数が多いから領土に苦しんでてね。どうにか亜人の領土を奪おうと考えていたけど戦争したら被害が大きくて意味がない。話し合おうにも領土と引き換えにしてまで欲しいものが亜人には無い。どうしようかってところで出現したのが」
「・・・異世界人、ですか」
「そ。人間の国に出現したので言葉巧みに引き込んで亜人の国を滅ぼして、現在亜人はほんの小さな国の住人と奴隷と浮浪者しか居ません」
「なるほど・・・でも、そこから世界が滅ぶ未来が見えないんですが」
亜人が殺され、奴隷になったのは気の毒だが、どう転んでも亜人が絶滅するだけだ。人間だけの俺たちの世界に近づくだけで、世界が滅ぶとは思えない。
「まあ、上手くやればいいんだけどね。この異世界人ってのが癇癪持ちでねえ・・・正義と悪をハッキリ決めて悪を滅ぼすって考えの人間なんだ。で、人間は亜人を完全な悪として彼に話しているから彼は正義の名の下に亜人を殲滅してるんだよ。つまり人間と亜人が不可侵だったことがバレると・・・」
「ああ・・・暴れだすんですね」
「ま、彼からしてみれば騙されただけだから気の毒ではあるけどね」
「どうでしょうね」
人が正義とか悪とか決めていいはずがないし、悪ならば殺していい、正義なら殺してはいけないということでもない。正義も悪も、一人の人間の主観でしかないのだから。
そんなこと、神にしか許されない行為だ。
俺はーーーどうなのだろうか。
「じゃ、次ね。そういうわけで彼を消してほしい。名前はギル・ヴァイス」
「・・・結構歳いってますね。もっと若いのかと」
「最近は中年も見境なく飛ばしてるみたいでね。彼は人間の国に住んでいるんだけれど、周辺をいつも奴隷で固めている。女の子ばかりなのは・・・まあ、ご愛敬で」
奴隷か。俺の国にも制度としてあったが、どうも好きになれる制度ではなかった。借金をして奴隷になった連中は自業自得というものだが、さらわれて奴隷になった者のことを考えると、とても良い制度とは思えない。
・・・というか、奴隷?
「奴隷って、まさか亜人ですか?」
「そうだね。自分の奴隷にだけは割と優しくしているみたいだよ。だから忠誠心は割と高い」
「うっわ・・・」
それは・・・本人的には正義なんだろうか。
ああ、そうか。優しく扱うべき存在を貶めるのは悪だけど貶めるべき存在を優しく扱うのは正義なのか・・・いや、しかしその立場にしたのもギルで・・・
つまりは遠回りなマッチポンプ。
「・・・神よ、俺気持ち悪いです」
「自分で作った世界で一人で気持ちよくなってるんだから面白いよね」
流石、俺のようなただの人間とは価値観が違うようであった。
「・・・それで、ギルの能力は何なんですか?」
「ちょっと待ってね。ついでに奴隷の能力についても教えておくよ。えーと・・・まず、ギルの能力は『重力操作』。そのまま重力を操ることができる。ほぼ無尽蔵だけど、倍率でしか指定できないし、範囲指定しかできない。その範囲もある一点から半径2メートルってとこだから避けることはできるね」
「それは・・・当たったら死にますね」
考えたくもない。地面の赤いシミどころか、次元の狭間に消えそうなレベルだ。しかも攻撃範囲が見えないのがヤバい。魔力感知系のスキルとか『相殺』系のスキルを覚えていった方が良さそうだ。
「奴隷は犬族と狐族、鷹族が居るね。犬族は『狂猟犬』っていう、獲物を追っている間体力と魔力が微量に回復し続けるスキルを、狐族は『神隠し』っていう木の葉を消費して返信するスキルを、鷹族は『高所有利』っていう高度が上がるほど視力が上がるスキルを持っている。あ、それから鷹族の子は飛べるから逃げられないように注意ね」
「うーん・・・なんというか、ちぐはぐですね」
『神隠し』を使うためには木の葉の多い所に居なければならないのだろうが、『高所有利』は森の中などには不適だ。『狂猟犬』に至ってはパーティでの行動自体が向いていない。まあ、『神隠し』で使用する木の葉の量にもよるが・・・
「ま、基本的にはギルのハーレムだから、戦闘能力とか相性は二の次なんだよね。ギルが『|成長補正(コード:グロウス)』のスキルを持ってるからそこそこ強いけれど、ギルには遠く及ばない」
「結局ギルが居ればいいってことですか」
「そういうことだね。人間の国ですらそのスタンスなんだから、たかが1パーティなら当然そうなるよ」
とはいえ、仲間が居るということ自体が俺にとっては厳しい。
俺の『誤認』は気配を消すのではなく個人の認識をいじるタイプのスキルだ。同時に発動できるのは一人だけなので、敵が二人以上で固まっていると何の意味も為さない。少なくとも前回、『スクワイヤ』での一件の様にはいかないだろう。
さて、どうやって倒すか・・・
「悩んでいるねえ、リヴァくん」
一人で唸る俺に神がにやにや笑いながら話しかける。
「有効な策を教えてあげようか?」
「是非」
「彼の『重力操作』は範囲攻撃だから、人質作戦は有効だよ」
彼は俺のことを何だと思っているのか気になるところであった。
次回からは『イヴァンス』に入っていきます。流石に前回の様に早くは終わらないと思うので、長期戦覚悟でどうぞ。