『スクワイヤ』
本編と説明を同時に進めているため読みにくいかもです。
「ここが異世界、スクワイヤか・・・」
神に用意されたゲートをくぐると、辺りは見たことのない木に囲まれた森であった。
軽く体を動かしてみる。違和感はないものの、服が少し気になる。俺の世界のものよりも硬い生地が使われている・・・というか革だ。が、見たことのない動物のものだ。あるいはこれは魔物とやらのものなのかもしれない。
体の節々にはプロテクターも付いている。これはつまり、冒険者とやらに合わせたものなのだろう。
さて、折角標的の近くに出たのだから早く行動を起こしていきたい。おそらくそう離れた位置には居ないはずだが・・・
「『探知魔法』」
神からもらった魔法で標的を探す。脳に直接位置情報が示され、多少混乱しつつも位置を理解する。
---三時の方向、400メートル。
大した距離ではないが、早く行かなければジョンが移動してしまう。俺は真っすぐに走り出した。この程度の距離なら道など気にせずに突っ切った方が速いだろう。獣道を藪を切り飛ばしながら進んで行くと、十分ほどで目的地付近に到着した。
・・・居た。
ジョンは愉悦の表情で小さな人間の群れを蹂躙している。・・・あれは魔物か?であれば、随分と弱そうな魔物も居たものだ。
魔物は薄緑の肌をしていて、恐ろしく汚れた腰布と武器とも呼べないような短い棒を振り乱して懸命に戦っている。身長は約80センチほど。
それに対してジョンは素手でも受けられるような攻撃をわざわざ『絶対障壁』とやらで逐一受け止め、わざと殺さないように腰の剣を封印して五体のみで戦っている。一見身一つの武者修行に見えなくもないが、その顔に浮かんだ悪趣味な笑みがそうでないことを十分に物語っていた。
「・・・下種が」
思わず口に出る。距離的に届きはしないだろうが、俺は慌てて口を塞いだ。・・・俺の役目はこいつを殺すことだ。あの魔物に同情することではない。
音と気配を殺しながらジョンの死角へと移動する。その間にもジョン達の戦闘・・・虐殺は続いている。最初に居たのは20体ほどのはずだったが、ゆっくりと移動している間に一体、また一体と倒れ、まだ戦っているのはわずか3体だった。
「・・・そろそろか。こいつがキモチイーんだよなァ!」
と、ジョンが急に剣を抜いた。剣自体は俺のものよりは上等なものの大した代物ではなさそうだったが、しかしジョンの笑みが深くなるにつれてだんだんと光を帯び、力と魔力が集まっていくのを感じた。
どうする。
俺は自問する。確実を求めるならば魔物たちを屠った後、油断した隙を狙うのが一番だろう。しかし俺の感情はあの魔物たちが全滅する前にジョンを殺したいと叫んでいる。
魔物たちはおそらくここで生き延びてもすぐに他の冒険者に殺されるだろう。そもそもこうして狩っているということは、人間に仇なす存在である合算は高い。
ほんの一瞬考えて、俺はーーー
「『誤認』」
感覚的に一切の情報を絶ち、ジョンに近づいた。ゴブリンが気付いたようだが、もう遅い。
背後から短剣で一撃。
ただこれだけで、『絶対障壁』を持つはずのジョンは血を流し、地に倒れた。
人を殺すのは初めてではない。間接的には数百、数千人を殺してきた。
それでも頬に飛んだ血の寒気が走る温かさに慣れることはない。
だが。俺は足元にうずくまるジョンの喉をさらに突いた。ジョンの喉から漏れるかすかな呼吸は完全に止まった。
救ったはずの魔物も怯え、俺から距離を取る。それでいい。俺は感謝されたくてやるわけじゃない。
ただ、救うだけだ。
目の前のジョンの死体は光の粒子に包まれて消える。そして、その粒子は次に俺の体を包んだ。そして、気付くとそこは神の御前だった。
「・・・早かったね」
「時間をかけても無駄ですから」
「そうかもね」
・・・不思議だ。
以前は神の余裕として神々しく見えた神の笑顔が、なぜか今は白々しく見える。
むかつく。
そんな俺の心境を知ってか知らずか、神は話を続けた。
「ま、時間の流れがあっちとこっちじゃ違うから、もう一つ考えなきゃいけないこともどうにか決まったよ」
「それは、何についてですか?」
「君の報酬について」
報酬。・・・とはこの仕事についてだろうか。
「必要ありません」
「と、言うと思ったよ。まあ支援が増えるって感じで気楽に思っていればいい。報酬の内容は君に力を与えることだからね」
「力、ですか?しかし俺には与えられないのでは・・・」
「会議で可能なラインを探してね。とりあえず今回は、これ」
神が近づいてきて、俺の頭に手を触れる。すると、『探知魔法』の際の如く脳に直接情報が流れ込む。俺が与えられた力はーーー
「『障壁』」
発動すると、目の前に透明な壁が現れる。大きさは一定のようで、変えられない。腰の剣を抜いて思い切り切り付けてみるが、阻まれる。---しかし、二発目で壊れた。
「これは、ジョンの・・・」
「そ。『絶対障壁』のマイナーチェンジ版。強度はあれほどないし、一撃防いだらどんなものでも二発目は防げない。極論石を投げられてから攻撃されると壁にならなくなる。『絶対障壁』は攻撃を認識してさえいれば自動で防げたけれど、それはちゃんと能動的に発動しないと防げないよ」
『絶対障壁』を弱体化してその上報酬制にすることで俺に無茶な力を与えている、という印象を無くすってところか。まあ強くなれるのはありがたい。形はどうあれ、いただいておこう。
とはいえなんともピーキーな能力だ。種が割れれば使い物にならなくなる。試したところ二つ同時に出すこともできないようだ。一枚出したらクールタイムがある。
強度の実験ができないのが辛いところではあるが・・・しかし、俺の斬撃を防ぎ切ったことからそこそこの信頼は置けそうだ。
「さ、他の報酬についても説明しておこうか。まず前提として、君は私の眷属っていう扱いになっている。件の神は例外だけれど、眷属は五人までってことになっている。
つまり、君に四人まで仲間を作ることを許そう」
「四人・・・?世界を救う仕事は俺に一任するということですか?」
「うん。私の眷属は君の一行だけでいい。ま、五人バラバラに眷属を作っても戦力を分断させるだけだし、解決に他の神も動いているからね。それでいいさ」
随分と期待されたものだ、と俺は密かにプレッシャーを感じる。多くの世界を統べる神の手先。少し気分が高揚してくるが・・・
「とはいえ、仲間が四人集まるのは当分先だと思うよ」
「何故ですか?」
「何故って・・・君は自分の知らない世界を救うために自分の世界を捨てられるのかい?」
確かに。たまたま俺の世界が異世界人のせいで滅んだから俺はやる気だが、俺が今から行く世界は滅んでいない・・・俺が行く以上今後も滅びない(と思われる)世界なのだ。友も家族も仲間も居る世界を捨ててまで行こうとはなかなか思わないだろう。
「失念してました・・・」
「ま、君は特殊だからね。そしてもう一つ。君に今回与えたみたいに報酬として標的が持っていたスキルを弱くして譲渡するつもりだけれど、スキルを得る者はそっちで決めてくれて構わない」
「それは、つまりこの『障壁』を仲間に渡せるということですか?」
「ちょっと違うね。一回誰かが覚えたスキルを他の人に渡すことはできない。仮にその仲間が死んでも回収は無しだ」
「死んだ仲間の補充は?」
「できるよ。好きにしていい」
本当に全権移動されているようだ。神にやる気がないのか、それほどまでに買われているのか。
「さて、じゃあ次の世界についての説明に移ろうか」
現在持っているスキル:『探知魔法』『誤認魔法』『障壁(New!)』




