プロローグ
「が・・・ふっ・・・」
胸には大きな剣が刺さり、中から血と臓物が流れ出る。治癒魔法をかけようにももはや手遅れだ。
どうやら俺は死ぬらしい。
「・・・勝って、下さい。お父様・・・」
---そう、最後の願いを呟き、俺は目を閉じた。
ーーーーー
「ここはーーー」
「気が付いたかね?」
目が覚めると、なにやら一面真っ白な世界に立っていた。目の前には一人の老人が居る。彼が助けてくれたのだろうか?
父に刺された胸を触る。が、穴のようなものは見つからない。相当高位の治癒魔法をすぐにかけてくれたのだろう。
「ありがとう、ご老人。私はリヴァ=コード。王家の者だ。この礼はーーー」
「いや、そういうのはいい。君は死んだのだから」
「なーーー」
気負うこともなく衝撃的な事実が告げられた。
「するとあなたは、神・・・?」
「そうだ。・・・何故君が死んだのか、教えてほしいかね?」
「え、ええ」
「よかろう」
ぽん、と老人ーーー神の手の中に一つの巻物が出た。それをしばらく読むと、神は俺に向き直る。
「まず、君の祖父が英雄だったのは知っているな?」
「はい」
「彼は英雄として讃えられた後、自分の国を建国し、非常に多くの女性と子を成した」
「ええ、そして彼の死後に王位の継承を巡って戦争が起きた、と聞いております」
「うむ。そして君は留学という名目で戦火を逃れていた。しかし戦況は悪化を続け、君も召集される。そして初陣でーーー」
殺された。
相手は指揮の訓練を積んだ指揮官。ただ血だけで指揮を任された俺が勝てるわけはなかった。
無駄にしてしまった。俺に命を預けてくれた兵たちの命を。後悔は次々に押し寄せるが、もはやそれは何の意味も為さない。
そして、おそらくーーー
「結果としては、君の父は敗けて処刑された。王位は君の叔父が継いだよ」
「・・・そうですか」
やはり、そうか。半ば覚悟していたことだが、やはりショックは大きい。俺を信じてついてきてくれた兵も、俺に兵の指揮を任せた父も、そして俺も、死んだ。共に留学していた母も、おそらくは・・・
「・・・なんでこうなったんだろう」
「教えてやろうか?」
ばっ、と神を見る。神は俺を見下ろして笑っている。
「原因は英雄となった君の祖父だ。彼は力を付けすぎた」
「・・・どういう、ことですか」
「君の祖父が造った国は世界有数の大国となり、彼が広めた独自のメソッドでどんどん豊かになっていった。だというのに彼は自分の欲を満たすために後継者を定めず、己が死ぬその時まで王の座を譲らなかった。君、彼の最期の言葉、知っているか?」
「・・・一応、『王国に光あれ』と」
「違うね。彼は二日前に見初めた女を呼んでいたよ。沢山の嫁たちが見ているというのに」
ゴッ!
大きな音が鳴り響く。それは俺が思い切り地面を蹴った音だと気づくまでには随分と時間が必要だった。
俺は。父は。この戦争は。
そんな屑から生み出されたものだというのか・・・?
「・・・うそだ」
「疑うなら映像を見せてやろう。これだ」
「うるさい!」
気付けば俺は神の胸ぐらを掴み、顔を殴りつけていた。数度殴った後、引き寄せて神の目を睨みつける。手ごたえこそあったが、効いてはいないようだった。
「なんなんだあんた!それを俺に聞かせてどうする気なんだよ!」
「世界を救ってほしい」
「なんとか言えよ!どうせろくに理由なんて・・・え?」
神の言葉に驚いて掴んだ胸ぐらを離してしまう。神はふわりと着地し、俺に触られた部分をぱんぱんと手で払った。
「ったく、神を殴るとか・・・人間じゃ初めてだ。君、誇っていいぞ」
「いや、・・・え?何て言った?」
「だから、救ってほしいんだよ、世界を。君の世界じゃあないがね」
神が指を鳴らすと、目の前にはいつの間にか黒い板が現れていた。神がそれを指でなぞると、白く文字と絵が現れる。
「世界はいくつも存在する。君が居たような剣と魔法の世界、化学が発展した世界、獣が人のように発達した世界、変わったものじゃ人類と虫の立場が逆転している世界なんてのもあるが・・・その中に『地球』という世界があって、その中にさらに『日本』という国がある」
よくわからない説明が為される。が、ともかく口を挟まずに聞いてみることにした。
「『日本』という国の人間は色んな世界を妄想している。そして特に魔法に対して強烈な憧れを抱いているんだ。そして、ある神がそれに目を付けた。
神っていうのも一枚岩じゃなくてね。何人も何人も居るんだ。もちろん良い神も悪い神も居る。この神は悪い神だったんだ。
彼は日本人を言葉巧みに転生させ、その際に与えた大きな力で世界を滅茶苦茶にするよう仕向けたんだ。・・・言ってる意味、わかるかい?」
わかりたく、ない。しかし。
我が家には曽祖父が居ない。祖父より上の代は存在しない。
祖父は圧倒的な力を持った人間だった。
祖父は時々訳の分からないことを言ったり、常識が通用しない人物だった。
祖父は国を発展させるために発明としか言えないほどの技術をいくつも打ち出した。
祖父はーーー
「異世界、人・・・」
「そう。それが君の祖父の正体だ」
どうやら、俺の体に流れる血の四分の一は『日本』という国の人のものであるらしかった。