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七話 悩殺

「悩殺だ! 全員意識を集中して奴と目を合わせるな! 教えた見切りを思い出せ!」


 フィトームの異名である〈悩殺〉を使用する行動に出たので、テンドウはオイトールとカゲマツに指示する。赤い瞳を輝かせ悩殺ポーズを取ろうとしていたフィトームは口元を笑わせて佇んでいた。


「ふーん。やっぱり悩殺対策はしてるようね。でも初見で完全に見切るのは無理よん♪」


 まさか今のは悩殺見切りを持っているかを試すブラフだったのか? と思いつつも三人は警戒を解かない。悩殺見切りがあっても、もし油断した状態ならばマインドコントロールされてしまうからである。


『……』


 先程までの高速戦闘が嘘のように両者は沈黙している。海風が強くなり、栗色の長い髪をかき上げ両手を広げるフィトームは全神経を研ぎ澄まし、龍宮島のモンスター達に集合の合図をかけた。


「山の中のモンスターは狩られても、海の中にもモンスターはいるのよ。龍宮城付近の警護に当たっていたから、気付かなかったでしょうけど……?」


 すると、異様な感覚を神経の先に感じ取った。


「……なにこの異様な感覚。あの男……まさかこの場所にいるの?」


「何だ? 何を話してる。仲間の増援でもしたか」


「増援もあるけどその中でも最強の増援ね。何とアンタの大好きな――」


「! 何だ……」


 瞬間、フィトームは唖然としているテンドウに氷の一角獣・ブリザードユニコーンを叩き込む。テンドウを庇ってドクターと侍は吹っ飛んだ。すぐさま立ち上がるカゲマツは右腕が上がらずに刀を持つ事が出来ない。


「チッ、拙者の肩が外れた。ドクター処置を頼む」


「僕なんて足が折れてるよ。まったく、物見遊山では戦えない相手だ。それよりテンドウ君の今の隙は何だ? 奴に何を言われたんだ?」


「知らぬ。今考えるのは魔の五風十雨を倒す事のみ!」


 そうだね……と口を動かすとカゲマツの外れた肩を治し、自分の折れた足も回復魔法で治療する。すると、ザワザワ……と龍宮巫女の儀式が行われる海岸に無数のカニプリンやイルカルンなどが集まって来た。水属性の遠距離魔法を持つ連中を見たオイトールは白衣の汚れを払いながら頬を叩いた。


「こっちのモンスターは僕達が相手するからテンドウ君は魔の五風十雨よろしく!」


 言いつつオイトールの手先はオペをするように動いている。それを聞いたテンドウは一人でフィトームに肉薄する。氷の刃を展開したフィトームはテンドウとの斬撃の応酬を始めた。ガリガリと削れる氷に足を取られないよう最終将軍は攻め続ける。


「たかだか人間風情が私とやり合うだけの力を持つなんてね。千年かければ人間もそれなりに強くなるのねぇ」


「あぁ、所詮人の生み出した生物は人間に屠られる運命なのだ。それが魔族」


 一閃した青き聖剣セラヴィがフィトームの氷の剣を砕いた。バランスを崩して決定的なチャンスを得たテンドウは叫ぶ。


「隙あり!」


 セラヴィを引き、一気に突きを繰り出そうとしたテンドウは背後に嫌な冷気を感じた。目の前のフィトームは何やら魔法操作をしているのに気付いた。剣の攻防により欠けた氷が一本の槍となり、テンドウの背中目掛けて進もうとしていたのである。


「くっ――」


「もう遅いわよ愚かな最終将軍」


 半身になり遠心力で背後にセラヴィを一閃させようとするが、完全にタイミングがズレていた。決定的な死がテンドウに襲い掛かろうとしていた。ここで最終将軍であるテンドウが死亡すれば能力継承である〈(リング)け継がれし輪廻(ユニバース)〉は行う事が出来ず、アマテラス王国初代将軍・テンドウラショウの意思を託された千年の歴史は終焉する事になる――。


「はぅ!?」


 テンドウの耳にはその素っ頓狂な言葉が聞こえた。死を導くはずの氷の槍は砕け散り、フィトームの脳天に矢が刺さっていた。その矢を引き抜き、血塗れになりながら美しき魔の五風十雨は攻撃主をギリッと見据えた。


「誰だぁ横槍入れたのはぁ! これはあのドクターの矢? あの二人はモンスター相手をしてるはずじゃ?」


「ドクターは嘘付きなんでな。あの男は信用しない方がいい。信用するのは生娘ぐらいなものだ」


「きっ! 貴様も信用出来るかぁ!」


 一瞬の恥じらいの後に我を忘れたような怒りを爆発させると、今度は雨のような矢が降り注いで来た。


「くっ――どこから矢が? あのドクターは見えない矢を持ってるの?」


「斬り捨て御免」


 瞬間、テンドウの追撃に備えていたフィトームは真横に現れた侍を見た。


死宮真赤斬(しきゅうまっかざん)!」


 ジジジと地面に刃を這わせた反動を利用した昇竜の如き一撃がフィトームの下半身から胸元にかけて決まった。すでに周囲のモンスターを倒していたオイトールは相変わらずの微笑みを崩さない。


「ドクターの矢に囚われていては拙者の斬撃はかわせまい。厄介な相手故、その姿のまま散れ」


 上空に舞うフィトームは自分に向けて迫る人物を見据えていた。跳躍する武者鎧を着た最終将軍は聖剣であるセラヴィを振りかぶっている。その千年をかけて自身を鍛え上げ、様々な調査をし、魔の五風十雨を倒す為にテンドウになった最終将軍は叫んだ。


「テンドウ七人衆は魔の五風十雨を滅ぼす! 覚悟しろ悩殺のフィトーム!」


「フン、これがテンドウ七人衆のコンビネーション……」


「四天発光! 四天魔斬(してんまざん)――!!!」


 セラヴィの鍔にある青いオーブが発光し、火・水・土・光の属性全てを無効化する一瞬四斬が放たれた。

 直撃を受けたフィトームは海に落下する。地面に降り立つテンドウは、左右に立つオイトールとカゲマツと共にフィトームの最後を見据えた。スウゥ……と浮かび上がる死体の瞳は天を見ていた。血溜まりは水面に広がって行き、死が近いのは感じるが三人は微かな不安が湧き上がっている。


『――!?』


 そして、その水面に浮かぶ死体寸前の瞳はギョロリとテンドウ七人衆の三人を睨んだ。


「……人間は強い敵と戦う事で新しい技を開眼する。そして四天魔斬からの派生は無いわね。四属性無効化は確かに凄い技だけど、テンドウラショウでも無ければその先は不可能。無駄な千年ご苦労様」


 もう必殺技を見切られたのか……と思うテンドウは流石に顔色を変えた。数多のテンドウ達が練磨して覚え、磨き上げた必殺技をたった一撃で見切られるなど、考える事は出来なかったからだ。その魔の女は赤い瞳を嗤わせて言う。


「いい事を教えてあげる。天魔文書は生物の身体の中にしか存在出来ない本。生きた人間の魔力を媒介にする生きた歴史書。だから貴方達には手に出来ないわ。全てを天魔文書の為に数百年を過ごした私を出し抜こうなんて甘すぎるわよテンドウちゃん……アヴァヴァ……」


 ぶくぶく……と水中で笑った為に息苦しそうな声を上げた。

 そして、不気味な笑みを浮かべたままフィトームは海の中に消えた。テンドウは無言のまま立っていてオイトールはその横顔を伺う。一歩前に出るカゲマツは冷や汗を流しながら呟く。


「フィトームの奴はあの致命傷で何をするつもりでござる? 仮死状態なら龍宮城の老化の影響は受けるのかどうか……」


「! それだよカゲマツ。フィトームは強い奴から致命的なダメージを受ける為に、毎年レアアイテムを用意して龍宮舞踏祭を開いていたんだ。自分を瀕死にして限り無く生命力を低下させ老化現象を限り無く無効化。そしてアンデッド達を使って得た龍宮城宝庫に侵入して天魔文書を奪う。こすい女だね全く」


 ここですでにテンドウは一つの答えを出していた。この世の歴史書とされる神器の天魔文書が必要な以上、龍宮城へは行く必要がある。人間の体内に組み込む必要があるなら尚更だ。魔王復活阻止の為にも天魔文書は必ず手に入れねばならない。


「二人共、俺は龍宮城へ行き天魔文書を手に入れ、妨害があればフィトームも始末する。森の中で防衛線を張るサギリとラビが来たら必ず戻るから龍宮城には来るなと伝えてくれ。俺は一人で龍宮城へ行く」


『何だって!? 龍宮城は――』


「そう、お前達が思うように龍宮城を出たら老化で死ぬかも知れん。考えるのは天魔文書を手にしてからだ。テンドウは外法を使える。何か策はあるはず。皆、ここは任せたぞ」


『最終将軍!!!』


 テンドウはフィトームの始末と天魔文書を求めて海の中へ飛び込んだ。目指すは人の住めぬ楽園・龍宮城である。

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