第6章 「指人形の新しい余生」
「それで、コメンタリー付き上映会の日取りの方ですが、5月18日の土曜日の正午過ぎを予定しておりまして…」
「あの、靭手上級大尉…18日のその時間帯、堺電気館には別の催しが企画されているはずですが…」
慌てて私は靭手上級大尉を制すると、内ポケットからチケットホルダーを取り出して、そのうちの1枚を応接セットのテーブルに広げたの。
それは、堺電気館で5月18日に予定されている「アルティメマンアース&アルティメゼクス 甦る超古代魔獣」のリバイバル上映と、科学攻撃隊サトナカ・ユミ隊員を演じたアクション女優の雪村志帆さんのトーク&サイン会の前売り券だった。
サトナカ隊員は私が特命遊撃士になるきっかけになった人物だから、発売開始のタイミングで即買っちゃったんだよね。
「あっ!さすがですね、枚方京花少佐!やっぱり少佐に打診して正解でしたよ!実は、この日のプログラムは『ガーディアン特報』と『アルティメマンアース』の劇場版の2本立てになっていて、枚方京花少佐と雪村志帆さんの対談式トークショーが企画されているんですよ。」
靭手上級大尉のこの言葉には、私も驚いたよ。
「えっ?そんな大任、私でいいんですか?」
「何しろ雪村志帆さんは特命遊撃士OGですからね。現役特命遊撃士の然るべき方と対談して頂こうかと考えました所、アルティメマンシリーズの熱心なファンである枚方京花少佐が最適だと存じた次第です。」
ここまで言われたら、私だって黙ってはいられないよ。
‐私のアルティメマンシリーズへの愛と熱意がどれだけの物かが、今まさに問われている。
そんな気がしたんだよね。
「お任せ下さい、その大任!この枚方京花少佐、特命遊撃士の名に懸けて必ずや成し遂げる所存であります!」
私は再び靭手上級大尉の右手を取ると、力強く握り締めたの。
あくまで、私の熱意を伝えるためだよ。
「あっ!あうっ…!ち、力を…緩めて下さい、枚方京花少佐…」
苦しそうに顔をしかめる靭手上級大尉を見て、私は大慌てで手を離したね。
何しろ靭手上級大尉は広報課担当で、最低限の訓練しか受けていないもの。
それに対して私は、度重なる戦闘訓練や実戦経験で鍛えられているからね。
危うく力加減を誤って、靭手上級大尉の右手を握り潰してしまう所だったよ。
ミシッという変な音が聞こえたような気がしたけど、大丈夫かな…
「痛ぅ…トークショーの進行などは、堺電気館の七瀬三四子館長と打ち合わせて下さいませ。連絡先をお伝え致します…」
握り潰されそうになった右手を労りながら、靭手上級大尉が私に堺電気館の連絡先が書いた紙を手渡してくれる。
可哀想な事をしちゃったな…
と、ここで私は面白い趣向を思い付いたんだ。
「トークショーの進行って、マニュアルみたいなのはないんですか?ある程度は、私の裁量で進めても大丈夫そうですかね?」
「七瀬館長がおっしゃるには、過去のトークショーの段取りはあるみたいですが、ある程度はアドリブが利くみたいですよ。その点は、事前の打ち合わせの際にお問い合わせ頂ければ大丈夫かと…」
未だに痺れる右手を庇いながら応じた靭手上級大尉の答えに、私は満足気に微笑みを浮かべたんだ。
広報課オフィスを退室したその足で、御幸通19番地に位置する堺電気館に赴いた私は、まだ年若い七瀬三四子館長と軽く打ち合わせを行ったの。
当日のトークショーの構想を伝えると、両手を挙げて賛成してくれたから、私の笑みはますます深まったね。
さっき私が思い付いたあの方法を使う事が出来れば、ダブりの怪獣指人形を有効に役立てられるね。
中古ホビーショップに二束三文で投げ売ったり、いつ落札されるか分からないネットオークションに出品したりするよりも良い使い道がね。
今からトークショーの当日が楽しみだな、私…