第5章 「職種選択の結果」
「失礼します。枚方京花少佐、出頭致しました!」
「お疲れ様です、枚方京花少佐!」
オフィスに入室するや否や、広報課勤務の子達の顔が一斉に強張り、綺麗な最敬礼の姿勢を取るもんだから、こちらとしても気が引き締まるよね。
まあ、広報課の子達にしてみれば、少佐である私は高位の上官になる訳だから、無理もないかな。
特命遊撃士としての適性が認められて人類防衛機構に入隊しても、全員が戦闘に参加する訳じゃないんだよ。
優しくて気弱な性格が原因で、戦闘に恐怖心を抱く子もある程度は存在するの。
基本的には、養成コースに編入する時に、私達の身体を戦闘に相応しい物に改造する目的で投与される生体強化ナノマシンで、人格も好戦的な物に改良されるんだけど、それでも例外はあるみたい。
私の友達の英里奈ちゃんは、特命遊撃士にしては内気で気弱な子なんだけど、戦闘に参加出来ているだけでも、充分な気骨の持ち主だよ。
でも、特命遊撃士としての適性があるという事は、特殊能力「サイフォース」を発現させている事でもあるから、おいそれと野放しにも出来ないよね。
万に一つにも、テロリスト共に拉致されて洗脳の末に鉄砲玉にでも仕立てられでもしたら、面倒だからね。
そういう戦闘には向かない性格の子は、一応の戦闘訓練は施されるけど、養成コース終了間際に行われる職種選択の時に、本人の希望や適正を審査して、戦闘とは無関係の安全な部署に配属されるんだ。
例えば、オペレーターとか事務課とか。
私が今こうして出頭している広報課も、そういった安全な部署の代表例だね。
まあ、確かに戦闘とは無縁だから安全なんだけど、武勲を挙げる機会もないから昇格も遅いんだよね。
この広報課には、私よりも年上の特命遊撃士が何人も配属されているけど、階級は全員、私よりも下なんだ。
私立鹿鳴館大学や関西大学堺キャンパス、それに白鷺にある堺県立大学に通う女子大生の人もいるけど、精々が大尉止まり。
最高責任者である広報課長ですら、上級大尉だよ。
最前線で戦う私が中学生のうちに飛び越えた階級に、未だに留まっている訳だから、この手の部署が如何に昇格と無縁かがよく分かるよね。
「さてと…それでは、今回の出頭要請の用件をお伺い致しましょうかね、靭手久乃上級大尉。」
応接セットのテーブルに置かれた湯飲みに口をつけながら、私は広報課長を務める靭手上級大尉に用件を話すよう促した。
「はっ、枚方京花少佐!今回、少佐に御足労お願い致しました理由につきましては、堺電気館における『ガーディアン特報』のコメンタリー付き上映会の件でございます。」
「ふむ…」
緊張した面持ちの靭手上級大尉から切り出された用件を聞いた私は、軽く目を細めて頷いた。
これでもにこやかに応対したつもりだけど、緊張させちゃったかな。
私達人類防衛機構の活動内容の喧伝と一般市民の理解と共感を深める目的で制作されている、プロパガンダ用ニュース映画。
それが、「ガーディアン特報」だ。
ネットでも配信されているが、人気が高い特命遊撃士の活躍を大画面で見たいというニーズに応える形で、支局の管轄地域内にある映画館で上映されている。
フィルム内で特に活躍する特命遊撃士を招いての生コメンタリー付き上映会も行われていて、特に人気の高い特命遊撃士が来場する時は、まるでアイドル歌手の握手会のような盛況なんだよね。
「私に上映会のコメンテーターを依頼したいという事ですね、靭手上級大尉。堺電気館なら、支局とは目と鼻の距離ですので、私としても大助かりです。」
「おっしゃる通りです、枚方京花少佐。上映予定作品としては、先日のつつじ祭りで行われた『皐月の演舞』の記録映像が候補に挙がっておりますが…」
毎年ゴールデンウィークに開催されている、堺県第2支局の地域祭。
それが、「つつじ祭り」だ。
地域住民の理解を深める広報活動の一環なので、自衛隊の基地解放デーや駐屯地祭りとコンセプトは同じかな。
ただ、現役の特命遊撃士である私達や特命機動隊の子達が、模擬店をやったり研究発表やイベントをしたりするので、女子大とその付属高校及び付属中学校の合同学園祭といった趣があるんだ。
そして「皐月の演舞」というのは、つつじ祭りの最終日に行われる目玉イベントの1つで、特命遊撃士や特命機動隊の曹士達が、各々の習得した武術の型を披露する趣向なの。
近接格闘術として習得した空手や拳法に、個人兵装の技術を応用した槍術や居合い抜きなどをね。
そして私は今年度の「皐月の演舞」に、居合い抜きで出演したんだ。
赤い桜柄の着物と青い袴という和装で本番に臨んだんだけど、あの和装には我ながら自信があるんだよね。
私の個人兵装はレーザーブレードだから、居合い抜きも同じ要領でやればいいと思っていたんだけど、そうは問屋が卸さなかったね。
まあ、じっくり練習しただけあって、我ながら上手く出来たから良かったけど。
「あの居合い抜きを上映するんですね!あの演舞には私も思い入れが深いので、熱く語らせて貰っちゃいますよ!練習の時とか、着物とか!このお話ですが、もちろん引き受けさせて頂きますよ!」
「あっ!お受け頂けますか…それは助かります!ありがとうございます、枚方京花少佐!広報課一同、心より感謝致します!」
喜色満面の私にいきなり右手を取られた靭手上級大尉は、感謝の意を伝えてはいたものの、若干引いていたね。
ちょっと悪い事をしちゃったかな…