第2話『妹の嘘と青春の涙』
どうやら、ローレンシアさんはこの世界で他に行くところがなくて困っていたようだ。それに、鈴音の風貌で深夜に外出されても、未成年だと思われ補導されたら婆ちゃんに迷惑がかかるだろうし。ローレンシアさんが鈴音じゃないと言っても誰も信じないだろうから、これは間違った選択ではないだろう。
第1.5話『妹の代行者?』ー終ー
「でも……どうやって、この家に来たの?」
「昨日、コスプレフェスに取り残されて泣いてたら、私のことを知っていると言う、マツリという人が、送る約束してたから家まで送ってあげるということでこちらに送ってもらいました。」
知らない人に着いて行ったというのか……確か鈴音もマツリちゃんの話をしてたなぁ……こっちに越してきてできた友達だとか、マツリちゃんが鈴音と共犯かは、まだわからないけど、自分の代わりにあえてローレンシアさんをこの家に向かわせたとしか思えない、その鈴音の約束からしてやはりこれは計画的犯行としか思えない。
何より、鈴音が他人になりすまし、不法滞在までさせているなんてことは、絶対にバレるようなことがあってはならない。
ていうか、これは俺まで不法滞在に加担していることになるのか?
(嗚呼! 鈴音、なんてことをしてくれたんだ!)
(ローレンシアさん……本当に申し訳ない)
「あーっ、そうなんだー、なるほどねー。なんで、いなくなった妹と君が似ていることを知っているのか不思議だったんだよー。つまり妹の友達でも見間違えるくらいだから、兄の俺でも、妹の鈴音とローレンシアさんを見間違えてると思ったわけだね!……ところで、異世界からわざわざ日本のコスプレを観に来てたの?」
(悪いがこの話は変えさせてもらう。しかし、妹のフリをするような悪い子だったら完全に気付かなかったなぁ)
「そうですよ! 世界数多とは言え、アニメかつコスプレなんて文化はこの地球にしかありません!そして私の住んでた星、ヴァーフルでは、空前絶後の日本ブームなんですよね!!」
「あーっ そうなんだ……」
なんなんだ? この熱量のギャップは、さっきと全然違う。
「それに、観光案内と言っても! 観るだけじゃなく、カバネヤマ観光は体験をメインにしているんです!」
「じゃぁ、コスプレをしていたの?」
そんな気はしていた。つまり、異世界の住人がコスプレの会場を闊歩していても多少違いがあっても誰も不思議に思わないというわけか……
「あーそうです!今回は、コスプレックス2024の、「なりきり百鬼昼行コスプレツアー」だったんですよ!」
(ん? コスプレックス……)
「元ネタは、あの『〈異界珍道中〉誰でも今夜は百鬼夜行』でして、この私の着てる衣装も、百鬼夜行のおたすけヒロインガイドをしている、桃川千歳さんのバスガイド服なのです!」
何故かテンションの上がるローレンシアさんを見ていると自然に笑顔になってしまう。
最近は、妹のこんな表情をみることがなかったからなのだろうか。
その百鬼夜行のアニメは知らないけど……
「あっ、そうなんだ。じゃぁローレンシアさんはガイドだからピッタリのコスプレだよね!」
ローレンシアさんが急に下を向いた……
「私は、ガイドになる前からバスガイドが好きだったんです」
「へーぇ、うちの母さんもバスガイドしてたんだ。」と言いつつローレンシアさんのテンションがすごく下がっているのを感じた……
「知ってます」
「えっ?」
これは、今日何度目か……この世界がスローになるというか、止まりそうになるような感覚、ゴーッと頭の中で何かの音がなる……
次の言葉が、何故かこわい。
こう言うことがたまにある、最近は親父が再婚することになり俺たちと離れて暮らすと言ってきた時も。
これは、嫌な傾向だ。
「私に、日本のことを教えてくれた人が、昔、バスガイドしてたから、コスプレするならバスガイドしかないって思ったんです!」
デジャブか?……昨日も似たような話を似たような顔の妹から聞いた気がする。
(ん?なぜ?それで俺の母さんがバスガイドしてたって知ってる?)
日本語を教えてくれた人が、バスガイドをしていたって……
(まさか、異世界で母さんが生きてる?)
「え? 母さんが生きてるってこと!?」
「さっき、気づいたんですけど、後ろの写真……あれは宮子さんじゃないですか?」
後ろを見なくても、そこには、母が亡くなる少し前に撮った、あの鈴音の入学式での写真があるのはなんとなくわかった。
そう、母は神谷宮子であっている。
そして、その鈴音が母の手を握っている写真を手に取った。
「そうか……鈴音は母さんに会いに行ったのか」
心の声のつもりがこぼれたのは、いつぶりだろうか……少し安心したような……
((鈴音は大丈夫))
急に、思い出が込み上げ、溢れだす想いに肩を震わせた。
少し、みっともない……鈴音に似た少女がそこに居るのに、こぼれおちるその涙を止める術はなく。
徐々に、息は荒く辛くなった。
そんな時、ローレンシアさんは優しく俺の背中に手を当てた。なのに、俺はほっといてくれと言葉にならない声で、その手をふりはらった。
自分をますます嫌にった……静かに膝からくずれる。
今、辛いのは恐らく優しさを踏みにじったからだ……
安心したから泣いているわけではない。鈴音と母が会ってしまったらもう帰ってこないかも知れないと思ったんだ。
そうやっていつも、みんな俺から離れていく……
それなら始めから優しくはしないでほしい。
放っておいてほしい、文句を言われてもいい……
こんなとき優しくされると……何故か涙が止まらなくなるのは知っていた。
だから、嫌われていた方がよかった。前からそうやって心にもないことを願っている。どれだけ強く目を閉じてもこの涙は止まらない。
涙でにじんだ視界にあらわれたのは、ローレンシアさんのはずだが、いつかの母のように優しい表情で両手を広げていた彼女の胸元に吸い込まれるように、気がついた時にはその腕に包まれていた。
震える背中を手の先で優しくたたき始めたローレンシアさんは、まるで母のようだった。
なぜ……俺は彼女の優しさを裏切ったのに、また、こんなに優しくされているのに、呼吸も楽になり、涙も止まってるのだろうか。
この、やさしさをわすれることはないだろう……
○ 追記 ○
※ これは、案内人ローレンシアによる特設コーナーです !
〈 ローレンシアの勝手に世界案内 〉
『コスプレックス2023』とは! (あれ?2023だっけー?)
2023年の4月8日(土)と4月9日(日)
2022年の春から春葉原の東京世界展示場で開催された、アニメ界の復活祭。
2年目にして、2日間で100万人超の来場者が集うモンスター級イベント!
その経済効果は、500億(お金じゃない)とも言われている。
人気なのは、eスポーツ世界大会『スーパーファイト』、コスプレ兼VR異種格闘技『ワールドエンド』、アニメイラストコンテスト『カミ・ガカリ』である。
そして、断トツで人気なのがコスプレのミスコン!『パーフェクトタイム!』
そのコスプレはそっくりそのまま、誰がどう見ても完全にアニメキャラに見える瞬間がある!
ミスコンとは言っても、その魅力は完コピにある。よって、ただ綺麗で、歌が上手くて、スタイルがよくて、特技があればいいと言う問題ではない。
特徴的なのは、2つ。
無差別級 年齢、国籍、既婚、性別問わず、声質、演技力、どれだけ完全に成れるかが問われる。
無法地帯 国策で当日に限り、超法規的措置が取られ、アニメに登場する武器や兵器も製造、装備が可能である。
パーフェクトタイムの優勝賞金は、コスプレックス全体の純利益(お金じゃない)で、シンデレラガールを発掘するため世界からコスプレイヤーと取材が殺到してます。 (異世界からも来てます!)
ヴァーフルの情報と現地情報誤差ありますが、鈴音のパンフレットを完コピしました!笑
〈 ローレンシアの勝手に人物紹介 〉
名前 神谷 春恵 (神谷家の主様ですね!)
由来 春に生まれた恵みだと、先々代の当主に名付けられたらしいです!
生年月日 1952年(昭和27年)『辰』4月16日『おひつじ座』 (満)71歳
身長 目測148cmくらい?
体重 直感39kgくらい?
靴 19cmですね! (下駄箱で確認済み!)
座右の銘 と言うものはないけど『花鳥風月』や『山紫水明』のように美しい言葉は好きなようです。
長所 神谷家の口秘を握る者です!(裏の顔がありそうですねっ!)
短所 老化はさけられませんっ!(畏れ多い)
特技 伝書鳩・矢文・読唇術・筆跡鑑定 ← 特殊スキル多いー忍者か!?
メモ いやぁ、只者ではないとは思いましたけど、何か神谷家には秘密が隠してあるようですね!家紋があるんですけど『隠家の紋』っていうらしくて……それが神の谷と書いて神谷に変わったようですね!
理由は、わかりませんっ!
これ以上知りすぎると、暗殺されそうですっ!
以上! ちょっとだけネタバレ観光ツアーでした!
情報のチラリズムの味はいかがてしたか?
ごあんない……下手でしたよねっ?
ゴホッゴホッ……
実は連日連夜、全力で詮索したんですけど……お婆ちゃんは情報を隠すのもプロ級で……お手上げです!
カバネヤマ観光 新入社員 境界先案内人 ローレンシア・ジュリエット・ラナ・シスターが一生懸命、御送りしましたぁ!
まったねーっ!