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才色兼備の少女が隣の家に引っ越してきたんだが  作者: 江谷伊月
第二章.凡人と天才の憂鬱
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37.英語の授業後。とある男の将来の目標

 英語の授業も終わり、昼休み。今日はいつもの男三人に園神と葵も加わり、五人で昼食をとっていた。


 姫宮さん……じゃなかった。涼花は、なにやら用事があるらしく今は一緒にいない。まぁ、あの人はクラス委員長の仕事もあるだろうしな。


 桃すけもいないが、まぁ他のクラスの友だちとでも一緒にいるのだろう。最近あってない気がするが、もっと遊びに来ればいいのに。


 とにかく、それでこのメンバーなわけだが、一人顔を赤くして悶えているやつがいた。


「ああああ恥ずかしい! あの性悪教師め、わざと超難問を出して僕に恥をかかせに来やがったな……!」


 それは、さっきの英語の授業で醜態をさらした武志であった。


「何言ってるのよ。genesの読み方と意味なんて超難問どころかサービス問題じゃない。結局はあんたがバカなのが悪いのよ」


「少しは気を使おうと思わないの!!?」


 傷ついている武志に追い討ちをかけるように辛辣なことを言う葵。さすがに可哀想なので、助けてやるとしよう。


「そうだぞ葵、言い過ぎだ」


「あら、あんたがこいつをかばうなんて珍しいわね」


「おぉ、さすがは親友だ……!」


 武志が感動したようにこちらを見る。ここは優しくフォローすることで、彼の心を癒してあげよう。


「あぁ。複数形だというところは合っていたんだ。あとは単語の意味と読み方とスペルを覚えるだけじゃないか」


「それってほぼ全部じゃない」


「まぁそうだな。悪い武志、頑張ったんだがフォローしきれなかったわ」


「いや頑張った割には諦めるの早すぎだろ!!」


 失敗。一生懸命フォローしようとはしたが、惜しくもできなかったようだ。


「……茶番はともかく、神田くん。あの程度の問題も分からないようじゃ進学なんてできないわよ? もうちょっと危機感っていうのを覚えた方がいいんじゃないかしら」


 園神がちょっぴりキツめに現実的なことを言う。そうだ、今まで気にしていなかったけど、武志って進路とか決めてるのか?


「あぁ、その点は大丈夫だよ。僕、進学するつもりないから」


「あら、そうなのね」


「うん! まぁ、卒業できればいいかなってところだね」


「……武志の場合は卒業できるかどうかもあやしいけどな」


「だまっとけ駿樹。卒業くらいできらぁ!」


 こいつが卒業できるかどうかはともかく、進学しないならなおさらどうするつもりなのだろう。まさか公務員を目指してるとか……いや勉強嫌いのこいつに限ってそれはないか。


「進学しないならあんた、将来なにやるつもりよ」


 ここでちょうど俺が気になっていた質問が葵から出てくる。


「お、気になるの? 僕はね、漁師になるんだ!」


「「漁師??」」


 思わず皆とハモる。武志の口から漁師なんて言葉、初めて聞いたぞ……?


「お前魚とか好きだっけ?」


「んーん、そうでもないかな。普通だ! あ、でもさばの味噌煮とかは好きだぞ!」


「はぁ……? じゃあなんで漁師になろうと思ったんだ?」


「それがね、僕の親戚に漁師の人がいてさ。進学しないならうちに来ないかって誘われたんだよ」


 なるほど、魚なんて興味もなかったこいつが漁師になろうとする理由には、そんなエピソードがあったわけか。


「へぇ、それで了承したのか」


「まぁね。どのみち他にやりたいこともないし、僕の頭じゃロクなところ以外進学できないしさ」


「自覚はあるんだな」


「うるせ。んでさ、漁師ってのは肉体労働だし、勉強が苦手な僕に向いてる仕事じゃん? 体動かすの好きだし! それにさ、船に乗ってでっかい魚とるってすげぇ面白そうだろ!」


「……おう」


「だから、漁師になるって決めたんだ!」

 

 楽しそうに語る武志に少し気()される。なんというか、今の俺には武志が輝いて見えた。


「……武志も武志なりに進路を見つけたみたいだな」


「そうね。あんたあまりにも勉強しないからちょっと心配してたけど、なりたい仕事が見つかったみたいで安心したわ」


「へへ、僕だってちゃんと将来のこと考えてるんだぜ! その証拠にほら、力仕事に向けて、何年か前から筋トレだってしてるんだ!」


 そういって腕をまくり、上腕二頭筋をアピールする武志。確かに、いつも一緒にいるので気づかなかったが、体全体を見ても明らかに前より少しゴツくなっていた。マッチョというほどではないにしても、腕を見た感じボクサーのような引き締まった筋肉を(まと)っているようだった。


「ほんとだ、腕硬いわね……! ホントに鍛えてるんだ!」


「……ちゃんといい身体になってるな」


 駿樹と葵もそれぞれ評価しているようだ。


「ハッハッハ、そうだろうそうだろう! 二人とももっと褒め称えてもいいんだぞ?」


「こら、調子に乗らないの(グイッ)」


「ぎぁぁぁ痛い痛い!? 調子に乗ってすみませんでしたぁぁ!!」


 腕を捻られ、武志が悲鳴をあげる。いくら鍛えられた腕でも、捻られればひとたまりもないようだ。


 それにしても、「僕だってちゃんと将来のこと考えてるんだぜ」か。確かに言う通り、武志は漁師になるという目標を決め、それに向かって筋トレという努力をしているようだ。バカだと思っていたこいつも、進路に向けて着実に進んでいるんだな……。


 それに比べて俺は、目標も決めれずにあれこれと足掻いている状態。こいつと同じ土俵にすら立てていない。こいつをバカだという資格もないのかもしれない。


 なんだか、武志が自分より、ものすごく高いところにいるような気がした。


「武志」


「いって~……。ん、なんだよ零人」


 やっと葵から解放された腕を押さえながらこちらを向く。


「俺、なんかお前のこと見直したっていうか。ちょっと尊敬するかも」


「な、なんだよ急に。ちょっと上から目線なのはともかく、尊敬されることなんてしてないぞ?」


 戸惑いの表情を見せる武志。確かに進路に向けて努力することは当たり前なのかもしれないが、それができてない今の俺にとっては十分尊敬に値することだった。


「私も。正直どうしようもないバカだと思っていたけれど、目標に向かってちゃんと努力してるのね。バカかどうかはともかく、私なんかより人間として立派だわ」


「そ、園神さんまで。そんな立派なんかじゃないって! ……てか二人とも普段僕のこと下に見すぎじゃないですかね! あー褒められてるのか(けな)されてるのか分かんなくなってきた……」


 二人から若干の毒舌ジョークが混ざった褒め言葉を受け、やつは動揺し頭がこんがらがっていた。


 でも今はそんなやつを、進路を決めてすらいない俺たち二人は見直さざるを得ないのであった。


 閲覧ありがとうございました。軽口を言い合える友人っていいですよね。一緒にいて楽しいというか。お互いを信頼しているからこそできる所業ですね。

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