33.姫宮さんとデート(中編)。卓球で勝負
合流し、駅前を歩く二人。
「ところで姫宮さ……じゃなくて涼花。もう何をするのか決めてるあるのか?」
「あ、はい。そのことなんですけど」
何か思い付いたような仕草をする涼花。
「零人くん、葵ちゃんから聞いたんですけど、その時はゲームセンターで勝負して遊んだんですよね?」
「うん、そうだね」
「じゃあ……私も高崎くんに勝負を挑みます!」
「えぇ、涼花も!?」
俺の周りの人たちは勝負師か何かの血を引いているのだろうか。
「はい、私も楽しそうだと思ったので。ダメですか……?」
うぅ、上目遣いでお願いしてくるのはずるい……! まあ勝負自体は好きだし、全然いいんだけどね。
「そんなわけないじゃないか。受けてたつよ」
まさか涼花も勝負を挑んでくるとは思わなかったけど、幼馴染みたちと違ってあまり競ったことがない人と勝負できるというのもそれはそれで楽しそうだ。
「ありがとうございます、とっても楽しみです! 負けませんよー!」
「おう、俺も容赦はしないからな」
涼花も楽しみなのか、随分燃えている。気合い十分みたいだ。どんな勝負をするのか、わくわくするな。
―――――――――――――
勝負の場所として選ばれたのは、近くにあったスポーツセンターだった。
「ここで何をするんだ?」
「それはですね、卓球で勝負をしたいと思っています!」
「卓球か……」
そこそこできるつもりなので、結構自信はある。
「はい、私ゲームはそんなに得意じゃなくて……。卓球なら友達とよくやるので、勝負になると思います!」
「なるほどね。俺結構自信あるけど、本気でやっても大丈夫かな?」
わざと挑発気味に言う。勝負事特有の煽りだ。
「はい! 私も自信ありますから、遠慮なく来てください!」
俺の煽りが全く効いていない。そんなに自信があるのか、あるいは煽りと気づいていないのか。まぁどっちでもいいか。
「言ったな? 後悔しても知らないよ。じゃあルールは一本先取の11点マッチでいい?」
「はい! それと負けた方が勝った方の言うことを聞く、っていうのも追加してください!」
「お、おっけー。それなら余計に負けられないな」
自分からそんなルールを追加するなんて、相手は男子だというのに随分強気だな。これは勝負が楽しみだ。
「それじゃあ、試合を始めるか! 俺がサーブ先攻だ。いくぞ!」
「はい! どんとこい、です!」
こうして勝負は始まった。
さて。最初だし、まずは様子見として緩めのサーブを出してみるとしよう。
「よっと!」
俺は出したサーブは高めにバウンドしながら相手側に。この返しで涼花の実力がある程度わかるだろう。
すると、涼花はスマッシュの構えをした。なんだ、まさかいきなり……!
「えいっ!」
バシュン!!
「なっ……!?」
振り向いてみると、いつのまにかボールは俺の背にあった。くそ、本当にいきなりスマッシュをしてくるとは……! しかもめちゃめちゃ強烈だ。
「ふふっ、手加減しなくてもいいって言ったじゃないですか……」
「くそ、やるな!」
これで1対0。なるほど、さすが自信があっただけはある。やっぱり涼花も運動神経いいんだよな。
「だかもう油断はしないよ。こっからは正真正銘全力でいくからな!」
「はい! こちらも本気でいきます!」
その後はお互いに全力の、熱い卓球バトルが繰り広げられた。
――――――――――――
「「はぁ、はぁ……!」」
試合もとうとう終盤となった。現在の得点は10対10のデュース。全くの互角だった。
「強いな、涼花……。これは簡単には勝てそうにない……」
「高崎くんこそ……。さすがの運動神経です……」
両者共に実力を認めあう。ここまでいい勝負をして、認めないわけにはいかないだろう。それでも試合なので、決着をつけねばならない。
実力が拮抗している勝負特有の緊張感が俺たちをおそう。ここまできたら意地でも負けられない。それはきっと相手も同じだろう。
そして今はデュースなので、2点連続でとらなければ勝ちにならない。この緊張に負けずに集中することも大事になってくるだろう。
いよいよ試合が再開される。サーブは涼花からだ。
「はぁっ!」
鋭い回転がかかったサーブ。ここにきてそんなサーブを出してくるなんて……! それでもちゃんと返さなければ……。
「くっ……!」
苦し紛れの俺のレシーブ。回転におされ、なんとか相手コートに返ったもののボールは緩い。
「もらいましたっ!」
バシュン!!
涼花は、このチャンスを待ってましたと言わんばかりの完璧なタイミングでのスマッシュを打ってくる。
「くっ!」
俺はなんとかボールをとらえようとするものの、結局間に合わず。
「やったー、まずは一点目です!」
「くそ、次は絶対取り返してやる…!」
涼花の得点となり、相手にリードを許してしまった。よって11対10となる。
次にまた取られると負けてしまう。絶対取り返さないと。
サーブが入れ替わり、今度は俺からのサーブだ。
「やっ!」
俺渾身のサーブ。さっきの涼花のサーブに負けないくらい鋭い回転がかかったボールを繰り出すことに成功する。
「せいっ」
しかし涼花はそれをしっかりとレシーブしてくる。さすがだ。
ボールが俺のコートに返ってくる。さて、これをどこに打とうか。相手の逆をつきたいところだが、右と左どっちにすればいいんだ?
……相手の方をよくみると少しだけ左に重心が傾いていた。よし。これは右だ!
「そりゃっ」
俺は右サイドに打つ。ボール狙い通り、相手の右サイドに返る。
「あっ……」
どうやら逆をつくことに成功したのか、返しはするものの反応が少し遅れる涼花。返ってくるポールも甘い。これは……もらった!
「せいやぁっ!!」
ドシュン!!
俺の会心のスマッシュが炸裂する。これはいけたか。
「きゃっ!」
反射神経が働いたのか、涼花はラケットにボールを当てることはできたものの、完全には反応できなかったようだ。よし、さすがに取り返せたかな。
ボールが、山なりに弧を描きながらはこちらのコートの方に返ってきた……と思った次の瞬間。
カンッ……
ボールはなんとこちら側のコートの端っこに当たり、横に勢いよく跳ね返っていった。
つまり……エッジボールだ。
「な……なんだと……?」
エッジボールということは、涼花の得点。つまり……。
「わ、私の勝ち、ですか?」
「そ、そうなるね……」
12対10で、この勝負は涼花の勝ちとなってしまった。マジか、こんな負け方あるのか……!
――――――――――――
「何だか申し訳ない勝ち方をしてしまいました……。すみません」
「いや、運も実力の内さ。負けたよ、いい勝負だったね」
「はい……! ありがとうごさいます!」
最後はハプニングが起きてしまったが、基本的に白熱した試合で楽しかったな。
でも、負けは負けだ。俺は涼花の言うことを一つ聞かなければならない。
「さて、涼花。勝負に負けたからには、何でもやる覚悟はできてるぞ」
「あ、そうですね、言うことを聞いてもらえるんでした。じゃあついてきてください!」
「おう」
俺らはスポーツセンターを離れ、別の場所へと移動した。
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