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才色兼備の少女が隣の家に引っ越してきたんだが  作者: 江谷伊月
第二章.凡人と天才の憂鬱
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30.まさか二人で帰宅。園神夏音の苦悩

 とある放課後。俺は園神と共に、課外活動の説明を受けてきたところだった。


 そして宿題として、資料を大量に渡されて、一週間やるからまずはこの資料に書いてあることを参考にして進路について調べろ、と言われた。


 これが進路の調べ方らしい。やりたいことがない俺たちに、やりたいことを見つけさせるためだとか。


 一応資料も鬼山なりに俺たちにあわせて作ってくれたみたいだ。ここまでしてくれている以上、やるしかないんだが、量が多いのでどうしても面倒だという気持ちがでてくる。


 はぁ、進路を決めるってめちゃめちゃ大変なんだな……。


 説明が終わってそんなことを考えながら、教室に戻ってきた。


「なあ園神。どうせ家隣なんだし、一緒に帰らないか」


 なんとなく、隣にいた園神に話しかける。どうせ断られるだろう。


「……別にいいけど」


「分かってるよ……。って、まじ!?」


 断られるとおもって返事をしたので、驚いてしまう。まさか断らないとは意外だ。


「いいって言ってるじゃない。帰らないの?」


「お、おう! 行こうか」


 おかしいな。『絶対嫌よ』とか言いそうだったのに。ある程度打ち解けて素直になってきているってことか? だとしたら少し嬉しいが。




――――――――――



 

 帰り道。いつもは馬鹿二人がいる隣に、今日は何故か園神がいる。なんというか、違和感だ。


「そ、そういえば、お前進路は決まりそうか?」


 なんとなく落ち着かないので、話しかけてみることにする


「決まらないからこんなことになってるんじゃない……」


「そ、そっか」


「えぇ」


「……」


 なんだよ、反応はいつもどおり冷たいままじゃないか! くそ、会話が続かない……。こうなったら俺がむりやり話を繋げるようにするしかない!


「い、意外だな。お前何でもできそうだから、いくらでも見つかりそうなのに」


「できるだけじゃだめなのよ」


 俺の言葉に対して、ほんの少し、沈痛な面持ちをしながら答える園神。なんだ? もしかしてまずいこといったか……?


「どういうことだよ?」


 園神の機嫌を伺いながら質問をする。


「……あなたは、できるからといって全く興味がないことを進んでやる?」


「そ、それは……」


 言葉を詰まらせてしまう。いい答えが思い付かなかった。


「……まぁ確かにあなたの言う通り、私は大抵のことはできるわ」


「自分で言うかそれ」


「事実だもの」


「っ……」


 全く誇っている様子もなく言われたので、思わずたじろく。本当に自慢でもなく、ありのままを言っているのだろう。


「でもできることとやりたいことは別よ。私には将来やりたいこと、なりたいものがないの」


「……そうだったのか」


「えぇ。例えばサッカーとか、スポーツができる才能があったとしても、興味がなければ部活にも入らないでしょ」


「……そうだな」


「それと同じ。私はいくつもできるものがあるけれど、経験した中ではどれにも興味をもったことがないの。すぐにできてしまうから。だから進路を決めたくても決めれないのよ」


「なるほどな……」


 できることが山ほどあっても、すぐできてしまってそれらがつまらない。だからやりたいことがないから決まらない、か。


 今まで俺は、才能さえあればいいと思っていた。でも今の話を聞くと、才能があるだけじゃ進路は決められないらしい。


 そうか、才能があるだけじゃダメなんだな……。何事もやりたいことを見つけられない限りは、進路を決められないのか。そしたらキリがないじゃないか……ってだからこんなことになってるんだったな。


 俺みたいに突出してできるものがないから決まらないのとは違い、何でもできてしまうが故に進路が決まらない。理由は共通してやりたいことがないから。


 だから、そのやりたいことを探すためにこういうことをさせられているのだろう。園神も一緒に課外活動をしている理由がこれで分かった。


「ごめんなさい、つまらない話をしてしまったわ」


「いや、いいんだよ。そういうことだったんだな」


「えぇ……」


「……」


 なんだか雰囲気が重い……。そうだ、話題を転換させよう! えっと、何か園神が食いつきそうな話題は……。


「は、話は変わるけどさ。葵や姫宮さんとは仲良くやれてるか?」


 これしか思い付かなかった。頼む、食いついてくれ……!


「え、えぇ。仲良くさせてもらっていると思うわ」


 お、悪くない反応。このままいい方向に話の流れを持っていこう!


「休みの日とか、三人で遊んだりするのか?」


「えぇ。何度か」


 お、もう遊びにいったりする仲なのか。相当仲良くなったんだな。


「へぇ、それは良かった。二人ともすごく優しいやつらだからな。これからも仲良くいろよ?」


「えぇ、言われなくてもわかってるわ。……やっぱり、あなたたちって変よ」


「なんだよ急に人のこと変って」


 馬鹿にしている様子ではなさそうだ。


「だって、こんな私を受け入れてくれるなんて、本当に変わっているもの」


「そうか? 確かにお前は変わってると思うけど、悪いやつじゃないからな」


 俺にはめちゃめちゃ辛口にいってくるけど。


「そ、そうかしら?」


 少し驚いた様子の園神。別に驚くようなことは言ってないつもりなんだけどな。


「あぁ。受け入れるというより、二人の方から仲良くしたいんだろ。だから改めてよろしく頼むぜ。あの二人と、ついでに俺たちもな」


「……」


 園神は驚いたまま動かない。そんなに受け入れられたことが意外なのだろうか。


 やがて気がついたようにはっと意識が戻る。


「そう……。こちらこそ、というべきかしら。あの二人に出会ったことを感謝しないといけないわ」


「おいおい、俺たちのことも……」


「そうね」


 俺の言葉を遮って言う。


「もちろん、高崎くんたちにも感謝しているわ。……特にあなたには」


「おう! って最後何ていった……?」


「二回言うつもりはないわ。それじゃあね」


「お、おい!」


 いつの間にか家についていたらしく、園神は早足で帰ってしまった。


 最後、聞き間違いじゃないよな……。園神があんなことを言うなんて。いつもの毒舌もないし、春も終わりごろだというのに雪でも降るのだろうか?


 なんだよ……。とても良いことのはずなのに、変な感じだ。

閲覧ありがとうございました!感想よろしくお願いします。


投稿時間をちょっとだけ変更しました。11時、19時、21時のどれか一つ、またはどれか二つに投稿します。

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