29.プレゼント会。姫宮さんの誕生日
放課後。3年1組の教室にて。
「スズ、誕生日おめでとー!!」
「わぁ、ありがとうございます!」
パァン!!
葵がクラッカーを鳴らす。今日は姫宮さんの誕生日。皆でささやかなお祝いとプレゼントをしようと、葵からメールがきたのだ。
俺の他にも、武志、駿樹、園神もいる。ももすけの奴は用事があるようで、申し訳なさそうに先に帰っていった。
「葵、お前な。いくら放課後でも教室でクラッカー鳴らすなよ」
俺達の他に誰もいないとはいえ、マナーってものがあるだろう。
「いいでしょ、このくらい! それより早速プレゼント、皆用意してきたわよね?」
皆が頷いた。
「おっけー! じゃあ順番にプレゼントタイムといこうじゃない!」
「え、皆さんプレゼントを用意してくれたんですか?」
「そうだよ! 姫宮さんにはいつもお世話になってるからね!」
武志がここぞとばかりに胸をはる。そうだな、それには同感だ。
「嬉しいです……! 皆さん、本当にありがとう!」
とても嬉しそうな顔をする姫宮さん。この幸せそうな顔をももすけにも見てもらいたかったな。残念だ。
「(ねぇ、高崎くん)」
ヒソヒソ声で話しかけてきたのは、園神だった。
「(なんだよ急に)」
「(なんで私までここに呼ばれたのかしら)」
「(は? 当人の友達が誕生日を祝うのは当たり前のことだろうが)」
「(友達……)」
園神が考え込む仕草をする。その顔はほんの少しだけ嬉しそうだ。
「(そうだよ。お前は姫宮さんと友達になっただろうが)」
「(それはそうだけど、あなたたちの方が付き合いは長いはずでしょ)」
うわぁ、こいつ可愛くねー。どんだけ素直じゃないんだよ。普通に参加すりゃいいのに。
「(細かいことはどうでもいいんだよ。それにお前だってちゃんとプレゼント用意までしてきて、祝う気満々じゃねーか)」
園神の手には小さな箱がのっていた。おそらく葵に聞かされてプレゼントをもってきていたのだろう。
「(な、これは……! 葵がいうから仕方なくよ……!)」
こうは言っているがちゃんとプレゼントを用意するあたり、姫宮さんの誕生日のことを大切に考えているのは明白だ。案外優しいところもあるんだな。俺にはあんなに口が悪いのに。
それに、いつの間にか「葵」って呼び捨てで呼ぶようになってるみたいだし、だいぶ溶け込んできているみたいだ。
「おーい、二人とも何コソコソしてんだー?」
小声で話していると、武志に不審がられる。皆も不思議そうにこちらを見ていた。
「なんでもないよ。さぁ、プレゼントタイムといこうぜ!」
「お、おう! そうだな!」
半ば強引に流すと、雰囲気はもとにもどっていった。
「(ほら、いいからちゃんと参加しろよ)」
「(分かったわよ……。何かあなたに諭されたみたいで嫌気がさすわね……)」
「(何でだよ……。ホントに可愛くねーなお前ってやつは……)」
「(は? 調子に乗らないでちょうだい。口には気を付けることね)」
「(はいはい……)」
ホントに、可愛くない。こんな調子で一緒に課外活動なんてできるのかよ……。前途多難だなぁ……。
――――――――――
いよいよ、プレゼントタイムとなった。
「じゃあまず一番手は私からね! はいこれ、改めておめでと!」
葵が、リボンつきで包装されたそれを手渡す。中身は先日一緒に購入したリップスティックや化粧水などだ。
「嬉しいです……! ありがとう、葵ちゃん!」
「喜んでもらえてよかった! 今度使い方とか教えてあげるわね!」
「うん、お願いね!」
「よーし、次は僕の番だ!」
こんな感じで、一人一人順番に渡していく。そして、俺の番となった。
「誕生日おめでとう、姫宮さん」
俺は、葵と一緒に買ったキーホルダーを差し出した。
「うわぁ、このキャラすごく可愛いです! ありがとうございます……!」
姫宮さんは、目をキラキラさせてそのキーホルダー見ていた。喜んでもらえてよかったな。一応買うとき葵に見てもらってよかった。姫宮さんが好きそうかどうかを葵に訪ねながら選んでいたのだが、さすがは親友、見事好みを的中させたようだった。
「礼なら葵にも言ってやってくれ。実のところ俺一人じゃ姫宮さんの好みがわからなかったから、葵にも選ぶの手伝ってもらったんだ」
「そうだったんですか! 葵ちゃんもありがとう……って高崎くん!?」
葵にもお礼をしたかと思ったら、急に何かに気づいたように驚く姫宮さん。
「ど、どうしたの?」
「葵ちゃんに手伝ってもらったってことは、その、一緒に買いに行ったってことですか……?」
「う、うん、そうだけど」
なんだ? 姫宮さんの様子がおかしい。何かへんなことをしたか?
「それって……二人きりで行ったんですか?」
「まぁ、そうだね」
「…………!」
俺が答えると、一瞬ショックそうな顔をする姫宮さん。そしてだんだんむくれたような表情になって俺をじっと見ている。なんだ? さっきまであんなに幸せそうな顔をしていたというのに。
「(二人きりでデートだなんて……。ずるいです葵ちゃん……)」
「ん? な、なんて?」
「高崎くん!」
「はい、なんでしょう!?」
いきなり勢いよく呼ばれ、思わず敬語になってしまう俺。
「今度は私とデートしましょう!」
「えぇ!? 姫宮さんと!?」
「いいですね!」
「ちょっ、なんで」
「い・い・で・す・ね!?」
「はい! もちろんいかせていただきます!!」
考える暇も与えられずに答えさせられる俺。どうして俺の周りの女性たちはこんなにも強い人ばかりなんだ……。
「(スズったらあんなに大胆に……! こりゃ私もうかうかしてられないわ……)」
葵が面白くないといった顔をしていたようだが、あまり気にしないようにしよう。
「よ、よし! 最後は園神の番だな!」
この変な雰囲気を断ち切るために、強制的に進行させる。
「ん、誕生日おめでとう、涼花」
照れくさそうに言いながら、プレゼントを渡す。
「ありがとう、夏音ちゃん!」
笑顔で受けとる姫宮さん。いつもどおりの平和が戻ってきてよかった。
「その、何をあげればいいのか分からなくて……。ケーキを焼いてきたの」
「これ、手作りなんですか! 嬉しいなぁ……!」
手作りケーキまで作ってきておいて参加するのを躊躇ってたのかよ……。気持ち入りまくりじゃないか。
「そ、そう? 友達の誕生日を祝うのなんて初めてで……。これでよかったのかしら?」
初めてで慣れてないながらも、園神なりにちゃんと祝おうと考えたのがしっかり伝わってくる。やっぱり、根はめちゃめちゃ良い奴なんだよな。
「はい! 私はとってもうれしいですよ!」
「そ、それなら良かったわ」
安堵の表情をする園神と、心から幸せそうな姫宮さん。そしてそれを嬉しそうに見る葵。この三人は、これからも絆を深めあっていくことだろう。本当に、二人に園神を紹介してよかった。
おっと、とてもいい雰囲気なおかげでわすれるところだったが、俺にはまだ違う奴にプレゼントをしなければならないんだったな。
「おい武志」
「んー?」
「お前にもプレゼントがあるんだ」
「え、まじ!? やったあ! やっぱり持つべきものは親友だな!」
「あぁ、お前にも世話になってるからな。ほら」
そういって俺は大きい袋を取り出した。武志の喜ぶ姿が目に浮かぶ。
「おお、ありがとな……ってメイド服じゃねーか!?」
「まだあるぞ、ほら、ゴリラの被り物だ」
「いらんわこんなもん!!」
折角あげたメイド服とゴリラを床に投げ捨てる武志。
「なんだよ、似合うと思って買ったのに」
「誰がこんなの似合うんだよ!? 完全に変態じゃないかあ!!」
ゴリラを被りながらメイド服を着ている武志……おえ。想像したくもない気持ち悪さだ。
「そうだな。だからド変態なお前に似合うとおもって」
「誰がド変態だこの野郎……! 悪意しか感じないぞてめえ……!」
「悪意しかないからな」
「キーッ!! お前を天国にプレゼントしてやる!!」
ガンを飛ばしあう俺と武志。
「お前ら落ち着けよ……」
駿樹が止めに入る。確かに、ここで喧嘩なんてしては姫宮さんに申し訳がたたないな。
「仕方がないな。今回は許してあげるよ零人」
「そうだな。喧嘩した詫びにゴリラとメイド服はくれてやる」
「いらないっていってるでしょ!?」
いらないといわれてしまったので、俺は渋々ゴリラとメイド服を袋にしまう。今はくだらない争いをするよりも、誕生日を祝うことが先決だと、冷静になってから判断する。
思い返せば、なんてしょうもない争いだったんだ……。
「悪い、姫宮さん。騒いじゃって」
「いえいえ。いつもどおり賑やかで楽しいですよ。ふふっ……」
これがいつもどおりなんて、やはり俺たちの感性はものすごく変わっているのかもしれない。
「何はともあれ、これでプレゼントタイムは終わりね! 最後にまた、皆で祝いましょう、せーの!」
「「「ハッピーバースデー!!」」」
いきなりにもかかわらず、皆、息ぴったりに声がそろう。事前に葵から聞かされていたからだろう。
「はい、皆さんありがとうございました! 最高の誕生日です……!」
感動したように喜ぶ姫宮さんの机の上は、プレゼントでいっぱいになっていた。
こうして姫宮さんの誕生日プレゼント会は、終わったのだった。
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