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才色兼備の少女が隣の家に引っ越してきたんだが  作者: 江谷伊月
第二章.凡人と天才の憂鬱
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21.苦悩。新たな不安?

 6時限目の終わり直後の休憩時間。次の授業が終われば週末を迎えるため、クラスメート達は若干浮かれ気味になっている。


 しかし俺はそんなクラスメートたちをよそに、未だ心のもやもやを引きずっていた。


 クラスメート達がそれぞれ行動する中、俺はただ黙って席に座ったまま考え事をしている。もちろん、進路希望の件についてだ。提出したいのは山々だが、書くことがない。今まで考えてこなかったわけではないのだが、いまいち決まらないのだ。


「ね、ねぇ零人、ちょっと話があるんだけど……」


 三年生という時期や面談のことを考えればもう適当なことは書けない。しかし、進学については行きたい大学がまずない上、行くと決めていない大学を書くわけにもいかないだろう。


 就職にしたって同じだ。やると決めていない仕事を書くわけにもいかない。


「え、ちょっと無視!? ねぇ零人ってば!」


 俺は何をやればいいんだろうか。進路希望に何を書けばいいのだろうか。


「……もしかして、あたしに気づいてないの?」


 優柔不断すぎるのは自覚している。将来のことも決めずに高校生活を過ごしていたなんて、甘すぎるということも。


 でも……。どうしても先が見えない。


「……いい加減、気づきなさいよ!!」


 ゲシッ


「痛ぁぁ!! 横腹に謎の痛みが!? ……ハッ!?」


 右腹部辺りを蹴られたような感覚に、思考状態から現実に引き戻される。


 いやそれより! 一体誰なんだ、人の腹部を平気で踏みつける(やから)は!?


 蹴られた方に視線を向けると、そこに立っていたのは。


「葵!?」


「ふん、やっと気づいたわね」


 少し不機嫌な表情の葵が仁王立ちしていた。


「お前なぁ、いきなり蹴ることはないだろ!?」


「あたしが何回呼んでも返事すらしないあんたが悪いんでしょうが!」


「え、お前俺に話しかけてたのか?」


「ええ、何回も! あんたったら全部無視するから、仕方なく強行突破したってわけ!」


「そ、そうだったのか……」


 強行突破にしても、もう少しやり方があったのではないだろうか。


 でもどうやら嘘はついてないみたいだし、葵を無視してしまった俺にも非がある。ここはちゃんと謝ろう。


「悪い、考え事してて気がつかなかった」


「ホントに気づいてなかったわけ? はあ……。まぁいいわ」


 よし、無事解決。葵の表情からも不機嫌な様子はなくなった。


「それより、俺になんか用か?」


「あ、うん! それはね……」


 すると、急に葵の様子が変になる。なんと言うか、緊張している、というか落ち着きがいつもよりなくなっているような。気のせいか?


「その、日曜日のことなんだけどさ……。そういえば場所も時間も決めてないなーって」


 あぁ、今日は金曜日。葵と出掛けるのは明後日か。


 そういえば荷物持ちにされること以外は何も知らされていなかったな。


「もう明後日か。そっちは何か決めてるのか?」


「うん、一応考えてきたけど」


「よし、なんでもいってくれ。俺はそれに付き合うから」


 というか、そういう約束だしな。


 俺がそういうと、葵の表情がパッと明るくなった。


「ほんと! あのね、いろいろ考えてみたんだけど、やっぱり駅前が一番無難かなって」


「え、いろいろ考えたって……」


「え!? あ……!」


 その瞬間、葵がしまった、と言わんばかりのリアクションをする。やはり葵のやつ、とんでもない量の荷物を俺に持たせる気か……! そうに違いない!


「ち、違うの! いろいろ考えたっていっても別に楽しみにしてたとかじゃないから!!」


「葵、頼むから両手で持てる量にしろよ?」


「…………は?」


「いやお前、いろいろ考えたってことは、いっぱい買って俺に持たせるってことだろ?」


「…………」


 さっきまで焦ったような様子だった葵が、急に黙った。若干呆れたような表情をしている。なんだろう、何か間違ったことでも言ったか?


「そうね、腕が4本ぐらいあれば足りるかしら?」


「俺はカ◯リキーか!!」


 やっぱり俺は間違ったことなど言っていなかった。

 

「冗談よ。いくら何でもそこまでの量を持たせたりはしないわ。全く、あんたってやつは……」


「よかった……って、俺がどうかしたか?」


「なんでもない!」


 そういう葵は少し不機嫌そうではあるものの、いつもの調子に戻っていた。


「とりあえず駅前ね! 集合は13時、分かった?」


「お、おう」


「おっけー。じゃ、あたし席に戻るから。ちゃんと来なさいよー!」


「分かってるよ」


 葵が席に戻って間もなく、次の授業の先生が入ってくる。授業を受けながら俺はまた、進路希望のことについて考えていた。


 書くことがないといっても、進路関係の物なので、近いうちに提出しないと鬼山に怒られるだろう。……あー、憂鬱だ。


 こんな気分で遊びにいっても、相手に失礼だろう。その相手が幼馴染みの葵とはいえ、沈んだ気分を持ち込んでいく訳にはいかない。


 早くなんとかしなきゃな、と思い始めた時、ちょうどチャイムが鳴った。



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