エピローグ ある少女の物語1
これは、誰かが語るある少女のお話です。
あるところに、とても美しい少女がいました。
その少女は、あらゆる才能を持っていました。
何をやらせても人並み以上、いや、常人を遥かに凌ぐ能力を発揮し、スポーツや芸術など、さまざまな分野において幾度となく賞を獲っていました。
まるで見るものすべてを惹き付けるかのように容姿も美しく、絶対的と言っていいほどいくつもの才能にも恵まれたその少女は――――
まさに、「才色兼備」の具現化のような少女でした。
そんな彼女を、大人達は称賛しました。
しかしやはりと言うか、その大人達の称賛を、少女の周囲の人々が妬み始めました。
少女はその国有数の名門校に通っており、そこにいる生徒は皆、互いが互いを蹴落とし合わねばならないライバルのような関係でした。
そんな中でも抜きんでて秀でていた少女を、周囲は妬まずにはいられなかったのです。
それでも一部の生徒は、少女と仲良くなろうと近づいて行きました。
しかし、そうして近づいていった生徒は、成績を含め、すべてにおいて少女に大きな差をつけられ、ボロカスにやられていきました。
そして、圧倒的な才能を目の当たりにし、心を折られ、逃げるかのように少女の元を去っていきました。
こうして、少女のもとを訪れるのは、金儲けを企んだ汚い大人だけとなりました。
少女には、仲間と呼べる存在がいなかったのです。
何かをすれば無自覚に周囲を傷つけ、仲間を失っていく。心の支えなどなかった少女の心は、虚無感のようなものと共に廃れていきました。
しかし、そんな少女の傷心を欠片も知らない大人達は、まるで追い討ちをかけるかのように少女のやりたくもないことを強要していきました。
やがて、少女は完全に心を閉ざし、家に引きこもるようになりました。
すべてに絶望したとか、大人達に嫌気がさしたとかの理由ではありません。否、少女にとってそんなものは些細な問題であり、もっと別に理由がありました。
別に好きでもないのにやればすべて出来てしまい、傷つけたくもないのに勝手に人を傷つけてしまう。そんな少女を気づかう事もなく、大人達はただ自分勝手な汚い欲望のためだけに少女に自分の理想を強要する。そんなことはもちろん、少女は望んでいませんでした。
しかし、かといって少女には、自分の望みが一体何なのかが分かりませんでした。
少女は、すべてを持っていたが故に、ただ一つ、本当にやりたいことや欲しいもの、つまり夢を持っておらず、ただ、途方に暮れていたのです。
私は一体何をしたいんだろう。何をすれば良いのだろう。何を望んでいるのだろう。何を欲しているのだろう。
少女はたった一人ぼっちの空間で、まるで記憶喪失になった筋金入りの哲学者のような自問自答、いや、ただの自問を繰り返し、こう嘆きました。
才能なんていらなかった、と。
次回から第二章みたいな感じです。
これからもよろしくです。




