13.警泥。皆で遊ぼう(中編2)
昇降口前、つまり檻の中。俺は捕まってしまったので、ここに収監されている。
捕まってしまった以上、俺一人ではどうすることもできない。助けが来るのを待つのみだ。
「意外だな、零人が最初に捕まったか……。挟み撃ちでもされたか?」
おそらく見張り役であろう駿樹が話しかけてくる。どうやら俺が捕まった経緯を知りたいようだ。
「いや違うよ。簡単に言えば、隠れているところを見つかって捕まったってところだ。いや、正確には違うが……」
「正確には……?」
不明瞭な俺の言葉が気になったのか、駿樹が不思議そうに首を傾げる。くそ、思い出すとまた奴への思いか込み上げてくるぜ……!
「なんでも、武志の野郎が園神にチクりやがったらしいんだ。俺が隠れている場所をな……!」
「つまり、仲間に売られたってことか……。それは御愁傷様……」
駿樹は合掌して、同情したようにそう言った。
武志め、自分が確実に助かるためにこんなことしやがって。協力しようと言ったばかりだったのに。あの人でなし。
ま、今そんなことを考えていても仕方がないか。ここで怒りに震えていても、捕まった俺にはどうしようもないし。
「だが、園神も滅茶苦茶速かったぞ。葵より速いかもな」
もともと追い付かれる危険があったから隠れた訳だしな。
園神は、女性とは思えない程のスピードを誇っていた。部活はやっていなかったと言っていたし、何のトレーニングもしていないっぽいのに、速い男子(武志など)に匹敵する足があるとは、やはり園神は天才というやつなんだろう。本当に凄い。
「そうらしいな……。因みに100m11秒台を記録したことがあるらしい」
「化け物じゃねぇか!」
下手すりゃ女子高校生で日本トップクラスじゃないか! ガチで陸上をやれば全国制覇だって狙えそうだ。次元が違うってこったな。
「なんにせよ、俺は結局捕まっちまったし、復活しなければゲームが終わった後に武志にほんの少し復讐をするぐらいしかやることなくなった」
「フッ……。俺がいる以上、復活なんてありえない。大人しくゲームが終わるのを待つことだな……」
自信満々な駿樹。確かに相当なことがない限り、こいつが見張っている中での脱出は難しいだろう。
「お前見張りか? 普通に足は速いんだし、追いかける側だと思ってたんだけど」
実はこいつも身体能力が高い。正直桃よりは追いかける側に向いていると思う。
「んー、そうだな。勝利のためだ……」
「だったらなおさらだ。なんで自分で追いかけないんだ? お前準備体操もして走る気満々だったじゃないか」
妙にやる気に満ちていたはず。なのにどうして他人に任せるようなやり方を?
「なんとしても勝つため冷静に考えてみたんだ……」
「うん」
「園神は楽しめるように走らせるとして。桃すけは足は速いわけではないから見張りでもいいかもしれんが、見張りをさせたらドジる可能性がある……。少し、いや言っちゃ悪いがかなり信用出来ない……」
「そんなにか?」
「あぁ。ミノムシ程度なら信用できるが……」
「全然信用してないなお前!」
「だから結局、俺がやるしかないだろ……」
「そうかよ。じゃあ葵は?」
「彼女は、追いかける側の方が良いらしい……。理由は聞くな」
「? ああ、分かった」
葵のやつ、そこまで鬼をやりたかったのか?
とにかく見張りがいるのでは、味方は俺を救出することは難しいだろう。
俺はただ黙って、皆が逃げ切ることを祈ることしか出来ないのか?
――――――――――――――――――
葵&桃サイド(葵視点だよ)
prrr……。
メールが来たみたい。誰か捕まりでもしたのかしら?
『高崎零人を捕まえたわ from 園神夏音 』
「え、本当に捕まえちゃったの!? さすがね……」
私と桃はまだ何も動いていない。ってことは、一人で捕まえたってこと……!?
しかも、二手に分かれてから、あんまり時間経ってないのに……! こんな短時間で零人を捕まえるなんて、夏音、恐ろしい子……!
「わ~、凄いね園神さん! 僕も負けてられないや! あと三人、がんばろ~!」
桃にも同様のメールが届いたらしい。夏音の活躍に触発されて、やる気が上がったみたいだ。
「そうね! でも……」
正直、零人は私が捕まえたかったな……。捕まえたっていう口実で腕とか組んだりくっついたりできるかもしれなかったし……。
だからほんのちょっと悔しい。なんて、言えるはずもないけどね。
「どうしたの葵ちゃん? ちょっと元気なさそうな顔してるけど、大丈夫?」
「い、いや、何でもないわよ?」
桃に心配されてしまった。今の表情にでてたのか~……。
ふう……。よし、今はしっかり気を取り直そう。
「一人捕まったのは喜ばしいわね! 私たちも活躍したいけど、まだこっち側では誰も見てないわね……」
「うん。敷地が広いからかな? 隠れてる人もいるだろうし」
なるほど。もし隠れている人がいたら、二人で大きな道を歩いていても見つかるとは思えない。
とはいえ、二人で隠れていそうなところを探してもキリがないような気がするし……。
「そうねー。私としては、別れて行動してみたいけど……」
「えっ! ひょっとして僕、邪魔だった~……?」
「え!?」
アホ毛がしなっとなり、目をうるうるさせてショボーンとする桃。うわ、そっちの趣味はないけど可愛いわね……。
いやいや、その前に誤解を解かないと!
「違うわよ!? 私達のどっちかが泥棒が隠れていそうな場所を探すのはどうかなってこと! 決して邪魔とかじゃないわ!」
「ホント?」
「もちろんよ!」
「なあんだ、よかった~」
分かってくれたようだ。素直でいい子ね。
「それでどっちが、隠れてそうな場所を探す?」
「うーん……。じゃあ僕がやるよ!」
「え、いいの?」
「うん、僕の方が足遅いし……。あんまり広いところだと捕まえられないかもしれないから~。大丈夫、もし敵を見つけたら、一生懸命がんばるからね!」
「そう……。分かったわ、任せるわね!」
「うん! じゃ、ばいばーい!」
ブンブンと手を振りながら、桃は私から離れていった。じゃあね、と手をふりかえす。
さて、一人になった訳だけど。
「とりあえず、校舎の周りを一周してみようかしら」
私も私でやることやるしかないし、とにかく頑張って、この警泥を勝利で終わらせましょうか!
――――――――――――――
姫宮&美奈サイド(姫宮さん視点だよ)
「高崎くんが捕まってしまいましたか……」
メールには確かにそう書いていましたが、何だか意外です。でも、一緒にいたはずの神田くんは無事ということですか……? 片方だけ無事だなんて、ますます不思議です。
「あ」
「あら?」
「…………無事でなによりです」
この子は確か……。美奈ちゃん、だったはずですね。高崎くんの妹さんです。こんなところで会うなんて。
「美奈ちゃんも無事でよかったです」
「うん。えっと……」
あ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。
「姫宮です。姫宮涼花。お兄さんのクラスメートですよ」
「そうなんだ。よろしくです、涼姉ぇ……」
「はい、涼姉さんです。よろしくお願いしますね」
「うん……」
ふふっ。やっぱり可愛らしい子です。でも、高崎くんの妹にお姉ちゃんみたいに呼ばれるのは、何だか不思議な気分です……。
「ねー、兄ぃ達とはなんで一緒に遊ぶようになったの?」
「えっと、高崎くん達とは去年クラスが一緒で、そこで知り合って仲良くなったからです」
本当の理由は少し違うんですけどね。まあ、嘘ではないですし……。
「そうなんだ……」
「はい。お兄さん達とはいつも楽しく過ごさせてもらっていますよ」
「うん、これからも兄ぃをよろしくです……」
「はい! こちらこそ、です!」
何の変哲もない、平和な会話。これから美奈ちゃんともっとお話して、仲良くなりたいな。
「ねーねー、ちょっと気になることがあるんだけどね……? ひとつ質問していい?」
「はい、いいですよ?」
「えっと……」
言いにくいのか、ちょっと言葉に詰まる美奈ちゃん。何か気になることでもあるんでしょうか?
「じゃあ……。突然だけど涼姉ぇって兄ぃのこと好き?」
「ふぇっ!?」
唐突にインパクト抜群どころじゃないレベルの言葉が飛び出して来た。
うう、思わず素っ頓狂な声を出してしまいました……。好きって、急にどうしたんでしょう……?
「……?」
「いやいや、別に好きとかじゃないですよ……?」
「じゃあ嫌いなの?」
「い、いえ? 友達としては好感は持てますが。急にどうしたんですか?」
「……作戦会議のときずっと兄ぃのこと見てたから」
「え!? そ、そんなことなかったと思いますよ?」
ば、バレてないと思ってたのに……! この子、凄い観察力です……!
「そうなんだ……。急にごめんなさい」
「い、いえ。全然大丈夫です……」
本当はあまり大丈夫じゃないですけど……。主に心臓が。
いや、だめですよ涼花。今はこの警泥に集中しないとです!
「それより、これからどうしましょう? 高崎くんを助けにいきます? それとも、無理に行動せず逃げ続けますか?」
話題転換も兼ねて作戦を話し合うことにする。
「兄ぃを助ける……」
お、即答です。美奈ちゃんは優しいですね。
「分かりました。何か作戦があるんですか?」
助けにいくと行っても、さすがに無策では難しいです……。
「うん……。こんなこともあろうかと用意してた」
「凄いです! どんな内容ですか?」
「まずは―――――」
恐らく(中編3)もあります。(長いな...)




