11.警泥。皆で遊ぼう(前編)
日曜日の11時半頃。今日は皆で遊ぶ予定の日だ。
俺は昼食を摂るためにリビングへ向かう。そこにはいつも通り、母さんと妹がいた。
「あら、零人。もうお昼食べるの?」
「うん。今日は午後から予定があるんだ」
「そうなの。じゃあ、ちょっと待っててね~」
俺は母さんに宜しく、と返す。
そしてソファーの上で寝ぼけている妹に話しかける。
「よう、我が妹よ。どうした? そんなに寝ぼけて。今起きたのか?」
「ん、みゅ……。あ、兄ぃ、おはよ……」
「おはよう。って、もうおはようって時間じゃないと思うが……」
どっちかというと「こんにちは」だろう。まぁそんなことどうでもいいか。
「おい、あんまり寝てると夜に寝れなくなってまた明日起きれなくなるぞ」
「大丈夫、早起きには自信がある……」
「嘘つくんじゃない」
昼頃に寝ぼけている人のセリフじゃないだろう。入学式の時も危なかったしな。
「寝坊したら兄ぃが起こしてくれる……」
「こらこら、俺に甘えるんじゃない。昼寝なんてしないでちゃんと夜に寝ればいいだろ?」
「むぅ。だって今日やることないんだもん……」
「そうなのか……」
美奈が可愛く口を尖らせながら言う。今日は一日中暇のようだ。
「じゃあ、兄ぃ遊んで?」
「え?」
「寝ちゃだめなんでしょ? だったら遊んで……?」
上目遣いで俺に遊んでとねだる妹。うわぁ……。なにこれ凄ぇ可愛い……!
何度も言うけどシスコンじゃないよ?
「……だめ?」
「えっと、いや……」
美奈が目をうるうるさせる。どうしよう! 凄く断りにくい! 何か打開策は……あっ、そうだ!
「そうだ美奈! 警泥とかでもいいか?」
「え……? 遊んでくれるなら何でもいいけど、二人じゃ出来ないよ?」
「二人じゃない。今日の午後から武志達と遊ぶ予定なんだ。結構人数いるけど、一緒にどうだ? 知らない人も少しいるかもしれないから、よかったらなんだけど」
美奈がちょっと考え込む。するとやがて、首を縦に振った。
「…………行く。武兄ぃ達もいるなら大丈夫。でも美奈も行って良いの?」
「大丈夫だよ! 武志達がお前を嫌がる訳ないだろ? じゃあちょっと待っててくれ」
よかった。美奈が人見知りをしない子で。俺は早速スマホで武志に電話をする。
プルルルル……ピッ
『もしもし? どうしたの? 零人』
「よう武志。今日の午後だが、美奈も入っていいか?」
『マジで!? 俺は大歓迎だよ! 美奈ちゃんなら、他の人も良いって言うと思うしね!』
「そうだよな! 俺もそう言ってくれると嬉しいよ」
やはり心配はいらなかったようだ。俺は美奈にグッと親指をたてる。すると美奈は『良かった……』と微笑む。
『しかし一緒に遊ぶの久しぶりだな! 可愛いよなあ、美奈ちゃん! 武兄ぃって呼んでくれるし! へへ……』
武志が興奮した様子で言う。何かこいつが言うと気持ち悪いな。
「………………悪い。武兄ぃが気持ち悪いからやっぱ行かないって」
『美奈ちゃんはそういうこと言う子じゃありません!!』
やはりこいつに美奈を会わせるなんて事態は、極力避けるべきか。
『とにかく、美奈ちゃんがいればメンバーも8人になる。そうなればチームもちょうど4対4になるし、デメリットなんて皆無だ! だから是非とも連れてこい!』
「武志。無理して英語を使わなくてもいいんだぞ?」
『無理してませんけど!? お前どんだけ僕をバカだと思ってるんだよ!』
何をいう。英単語を三つも使えるようになったなんて、大きな進歩じゃないか。
「じゃあ、Bから始まる英単語を一つ言ってみてくれ」
『えー? 何だよいきなり』
「バカじゃないならすぐ答えられるだろ?」
『あ、当たり前だろ……! えっと………。あ、思いついた!』
「お、じゃあ答えてくれ」
『はぁ……。こんなの簡単だよ』
武志は半分あきれながら、余裕綽々といった声で答えた。さすがに簡単すぎたか。
『vegetable!』
やっぱりバカじゃないか。
「まぁいいや。じゃあ昼飯食べたら行くわ」
『急に適当になった!? 何だよ、まるで僕の答えがおかしいみたいじゃないか!』
「ウン。ソウダネ」
みたいじゃなくて本当におかしい事に気付いていないらしい。
『はあ……。とにかく連れてこいよ? 絶対だぞ?』
「分かってるよ。じゃあな、また後で」
『おう!』
ブツッ
よし、この機会だ。皆に美奈を紹介しとくか。
「じゃあ美奈、昼飯食べたら行くぞ」
「うん! 分かった……」
こうして、美奈も一緒に遊ぶ事となった。
――――――――――――――――
13時頃。学校に着く。
すると他のメンバーはもう集まっており、俺と美奈が最後だったようだ。
因みに園神とは、家が隣同士だが別々に行く事にした。一緒に行こうと思ったが、武志達に何か言われると面倒なので誘わなかったのだ。
「お、来た。よう零人! そして美奈ちゃん!!」
「よう武志、それに皆。待たせたか?」
「お待たせ……」
「ううん、全然待ってないよ~? 久しぶり~! やっぱ美奈ちゃんは可愛いね~!」
武志がデレデレした様子で言う。うわ、正直気持ち悪いな……。
「うわ、正直気持ち悪いな……」
「今何て!?」
おっと。口に出てしまったようだ。気を付けねば。
「あ~! 美奈ちゃんも来たのー? 久しぶりー!」
「元気だったか……?」
「葵姉ぇ、駿兄ぃ……! うん、元気だったよ」
葵や駿樹も寄ってきた。このふたりも以前からの付き合いで、美奈とも仲が良い。
「んー! やっぱり可愛いわね! よしよし~」
「えへへ……♪」
葵が美奈の頭を撫でる。美奈も嬉しそうだ。
すると武志が顔をしかめて近づいてきた。
「なぁ零人。美奈ちゃん大丈夫かな……? 頭握り潰されたりしないかな?」
「おい、そんなこと言ってたら……」
「へ~、聞こえてるんだけど……? あんたの空っぽの頭粉々にしてあげましょうか……?(ガシッ)」
「え?」
武志終了のお知らせ。
「握り潰してあげるわ……!」
「ぎゃああああ! 頭が! 頭に通常聞こえてこないような亀裂音が……(ミシッ)いだだだだだ!」
葵のアイアンクローが炸裂。何故こいつは思ったことをすぐ口にしてしまうのだろうか。
ようやく解放された武志がフラフラとこちらに来て、恐怖に満ちた表情で言う。
「ほ、ほらね? やはり奴は危険だろう……?」
「いや今のはお前の自業自得だろ」
それに葵は相手構わず暴力を奮うようなやつじゃない。……ほとんどの場合武志だけだ。
「高崎くん。その子は誰?」
「見たところ私達より年下に見えますが……」
皆も集まってきた。そうだ、自己紹介がまだだったな。
「皆、紹介するよ。俺の妹の美奈だ。年は2つ下の15。高校一年生だよ」
「宜しくお願いします(ペコッ)」
美奈もちゃんとお辞儀をする。さて、皆の反応は。
「高崎くんの妹だったのですか! 礼儀正しくて可愛い子ですね~」
「零人くんの妹……! うん、宜しくね!」
「高崎くん、妹がいたのね。こちらこそ宜しく」
良かった。三人とも嫌そうな感じは微塵もない。最初から分かっていたことだが、やはり良い人たちで助かる。
すると園神が美奈に近づいていった。珍しい。
「こんにちは。私は園神夏音。えっと、高崎さんじゃ微妙に被ってしまうから……。美奈さんでいいかしら?」
「ううん……。美奈でいいよ……」
「あらそう……。でも呼び捨てでは呼びにくいから、美奈ちゃん、でいい?」
「うん……。美奈も夏音姉ぇって呼んでいい……?」
「いいわよ。フフッ、いい子ね……」
おお。コミュニケーションが苦手な園神ですらあっという間に仲良しに! 恐るべし美奈のコミュ力。
「どうだ、my sisterは可愛いだろ」
「えぇ。本当にあなたと血が繋がっていることが疑わしいものだわ」
「はっきり言うなよ……。まぁ自分でもそう思うけどさ」
言って俺と美奈はあんまり似てないと思う。一緒なのは髪色位か。ちなみに黒。
「よし! 皆揃ったし、美奈ちゃんの自己紹介も終えたところで早速やるか!」
いつの間にか回復していた武志が言う。
「おう。そうだな」
皆が一斉に武志の方を向く。
「一応改めてルール説明だ!ルールは……。
1.制限時間は30分、警察4人と泥棒4人の鬼ごっこ式の対決
2.フィールドは校舎周辺全般。但しこの学校の外には出てはいけない。
3.泥棒は捕まったら、昇降口前(檻)に警察と一緒に行く。
4.泥棒は檻からは出られないが、仲間から触れられたら行動可能。
5.勝利条件は、警察の場合は泥棒全員を捕まえること。泥棒の場合は制限時間まで逃げ切ることとする。
これでどうだ?」
皆が頷く。なんの問題もないようだ。
「それじゃあ、じゃんけんで役割を決めよう! 勝った人が警察。負けた人が泥棒だ。……いくぞー、せーの!」
「「「じゃんけんポン!」」」
―――――――――――――――
じゃんけんが終わった。結果は以下の通り。
警察チーム
木村駿樹
園神夏音
遠山葵
白井桃
泥棒チーム
高崎零人
神田武志
姫宮涼花
高崎美奈
俺は泥棒チームになった。
チームが決まり、それぞれ仲間同士で集まる。
「泥棒チームは俺と武志と姫宮さんと美奈か。とりあえず宜しくな」
「おう、任せろ! 絶対逃げ切ってやる!」
「私、走りにはあまり自信はありませんけど、頑張ります!」
「頑張る……」
皆、やる気充分のようだ。これは俺も、本気で取り組まねば。
「じゃあ、まず作戦会議といくか。と言っても俺には作戦って程の考えもないんだけどな。とりあえず固まってても意味はないから、基本的に俺と武志以外はバラバラで行動しよう」
「いいけど、何で僕と零人だけ一緒なんだよ?」
「いざって言うときに盾にできるから」
「酷すぎません!? 僕、嫌なんですけど……」
「冗談だ。作戦を思いついた時に、一緒に実行する人がいないと不便だからだよ。携帯で連絡してもいいが、時間がかかるし移動中に見つからないとも限らないしな」
「何だよ、そう言うことか……。ならいいぜ!」
武志も賛成してくれる。
「やっぱりいろいろ考えているんですね。さすが高崎くんです」
「さすが兄ぃ……」
「いや、そうでもないと思うけど……。後は、何かあったときには携帯で連絡するってことだけだな。俺が考えたのはこのくらいだが、他に策は無いか?」
「いいえ。ないですよ」
「兄ぃので意義なし」
二人ともないなら、これでいくか。
「僕も無いぜ!」
「お前には別に期待してない。二人に言ったんだよ」
「何だと!? ……ま、そうはいっても何もないけど。へっ、どうせ僕はバカですよーだ」
わざとらしく拗ねる武志。さて、親友が落ち込んでいるわけだが……。
「そうだな。特にフォローはないぞ」
「少しは気を使えよ!?」
当然、気を使う義理は全くない。
「フフッ……」
そんな俺達のやり取りに、姫宮さんは微笑していた。
「本当に仲が良いんですね。なんだかチームワークで勝てるような気がしてきました」
「いや、今のは僕がいじめられてただけなんですけど……。チームワークの要素皆無なんですけど」
「嫌だな。いじめなんてしてないぞ? 一緒に頑張ろうな、マイシールド!」
「お前やっぱ僕を盾にする気だろ!?」
「フフフッ……! やっぱり二人は面白いです」
「いや僕は全然面白くないんだけど……」
「まぁとにかく、勝てるように頑張ろう……!」
「はい!」
「おう!」
「ま、いいか……」
美奈の呼びかけに皆が団結した。
――――――――――――――――
作戦会議が終了する。
「そっちの会議も終わったのか?」
「えぇ。それは終わったのだけれど……」
何だ、まだなんか問題があったか?
「どうした?」
「この勝負って、賞品とか無いのかしら?」
「賞品……か」
「えぇ。この事は木村くんが提案したのだけれど」
「そうした方がやる気が出ると思ってな……」
なるほど。確かに賞品があればモチベーションも上がるか。
「じゃあ、勝ったチームは一人ひとつ、負けたチームのメンバーを選んで命令できるってのはどうだ?」
「いいわねー! そういうの燃えるわ!」
「ふむ、それでもいいんだが……」
葵を含め皆が賛成のようだが、駿樹だけは少し腑に落ちない様子だ。
とりあえず近くにいた武志に相談する。
「どうしたんだ? 駿樹のやつ、何か少しやる気ないぞ。どうする?」
「さあ……。あ、良いこと思いついた! いやでも……」
「なんだ?」
「はあ、しょうがないか……。まぁ見てな!」
武志が何か閃いたようで、駿樹の元に行く。そして何やら耳打ちをした。
『(お前が勝ったら、俺の持ってる中でもベストの巨乳物の聖典やるよ!)』
『(何……? 本当か!? でも良いのか、お前の宝物を……)』
『(いいってことよ、俺達は親友だからな! それに俺は負けるつもりはない!)』
『(そうか……! よし、ならば俺も全力でお前に応えよう……。我が盟友よ……!)』
おお。駿樹の顔がやる気に満ちた顔に……。おっと、膝の屈伸運動をやり始めたぞ! 準備体操までするなんて、よほどやる気になったようだ。
戻ってきた武志は、何故か『悔いはないさ……』と清々しい表情で呟いていた。
「武志、お前何て言ったんだ?」
「いや大した言ってないさ……」
「それにしては、お前ちょっと涙流してないか?」
「いや、これは……訳は聞かないでくれるか?」
そういう武志は、まるで何か大切な物を譲った時のように、清々しくも悔しいといった表情をしていた。
何だろう、これ以上聞いてはいけない気がする。いや、聞いたとしてもきっとどうでもいい事だろう。
「駿樹もやる気になったことだし、早速開始するか! 警察は1分たったら動いてくれ」
「分かったわ」
「それじゃあ、皆準備はいいか?」
「「「「おう!」」」」
皆揃って答える。準備万端のようだ。
「では……。開始!」
ダッ!
泥棒が一斉にダッシュする。さぁ、警泥の始まりだ。
この話は長くなりそうです。
次の話で開始なので、宜しくお願いします。
感想、アドバイスなどありましたらどうぞ!




