第23話 封印
オサムの言葉によるものかも知れないが、大陸南西の国々の一部で民衆が暴動を起こしているらしい。
「民を大事にしろ」という言葉が間違って伝わっている可能性があった。
オサムはロウに使者を飛ばし大量の紙を持ち帰らせた。
そして各国の文字でこう書かせた。
”我グレイス帝国皇帝は戦から民を救うのみであり、各国の定める法に干渉せぬ”
”国家への不当な要求に対しても同様である。騒乱に対してはグレイス帝国の知る所にあらず”
”各国はグレイス帝国に属する国家ではなく、我グレイス皇帝に無用な気遣いは不要”
それをクライアンに印刷させ、各国の街にバラ撒いた。
オサムはこうなることも少し考えていた。
グレイス帝国の属国も含め内政に干渉しないのもそのためだった。
各王達が勝手に拡大解釈してオサムの理想を履き違えて信じてしまっていたのだ。
「馬鹿共はつけあがる、いつの時代も権利権利と言って義務を果たそうとしない」
オサムは腹を立てていた。
直接国々を周り、王に会い真意を伝え、戦による蛮行がない限りグレイスは態度を変えないと告げた。
その文書を見、オサムの言葉を聞いた各国国王は正常な国家運営に戻そうとした。
時には苛烈な処分も行われたが、オサムにとってはそれは自業自得でありただの馬鹿である。
この中世の時代に民主主義など存在出来ない。絶対王政が支配する時代だ。
フランス革命のようなものを目指しても政府は機能しないだろう。
オサムの行動により民衆の過酷な扱いはすでにほとんど無くなっていた。
トチ狂った民衆のリーダーは国家のガン細胞であり早期に治療する必要がある。
それにこれはただの強訴だ、権利だけの主張をオサムはひどく嫌悪していた。
数ヶ月もすると民衆は鎮圧された。各国に有るオサム達の領内に逃げ込む者もいたが放り出させた。
この暴動で何百、何千人が死罪となったかにはオサムは関心がなかった。
行いの責任はその身をもって償わねばならない。ただそれだけのことである。
グレイス皇帝は後ろ盾ではないと知った民衆は元の生活に戻っていった。
このオサムの行いに対しリムルは
「民におやさしい陛下が何故このようなことを?」と訊いてきたが
「帝国領土でない国の法まで曲げるわけにはいかない」とだけ答えた。
そしてこのことはクイード達8人にも徹底させた。
この意味を一番深く理解したのはやはりハンビィだった。
何を捨て、何を残すか。ロウが行った皇帝一族殺しの一件である。
あのときオサムは止めようとはしなかった。そういうことだ。とハンビィは考えた。
「陛下の軸は振れない、まっすぐに天を指している。」
ハンビィがクイードとタキトスに言った。
「我々にはわからぬな、しかしそれで良いわ、我等は陛下のために働く」
クイードは豪快に言い切った。
「少なくとも陛下は俺が正しいと思える道を歩んできた。俺もその道を陛下の背を見て歩く」
タキトスもそう言った。
その頃、オサムは不思議に思っていた。
砂漠地帯や森林地帯はともかく旧シャングール領内にモンスターは居ないのか?
ジャグアはロードナイトのレベルを50まで上げている。
初級冒険者が倒せる程度のモンスターそれに強力なダンジョンは南方にいくつも存在する。
思い立ったらオサムの行動は早い。すぐに単騎でロウの屋敷へ向かった。
予め巨大な庭を作らせておいたのでそこに降り立ち「ロウは居るか」と誰かを呼んだ。
ロウは気が付いたのだろう、庭に出てきた。
「皇帝陛下、本日は何事かございましたか?」ロウはルアムールに異変かと思った。
オサムは
「大した用ではないが、聞きたいことがあってな、良いか?」と言うと
「ここで立ち話も何でしょう、庵に行きましょう。」そう言ってロウは案内した。
近くには家令や執事が居り、使用人5名程が大きな屋敷から茶や菓子等を持ってきた
「陛下のおかげで東は安定しきっております。北方騎馬民族も全て同化させました。」
「オアシスや北方森林地帯も見て回った限り民達は平和に暮らしております。」
「これも慈悲深く聡明なる陛下あってこそのことです。」
ロウはあらためてオサムに礼を述べた。
「そうか、俺も見て回っているが年々良くなっていっている。」
「この屋敷と庭園は落ち着くな、昔を思い出す。それで聞きたいことなのだがな?」
オサムが話しだした。
「この国、いや、旧シャングールや北方にはモンスターは居ないのか?」
オサムが不思議そうに聞くと
「シャングールの初代皇帝が化物の巣穴を全て塞いだためここ200年は見かけぬようです」
ロウを見ると確かに剣士でも騎士でもない。ジャッジマスターと言う見慣れない職業のレベル70だ。
「場所は分かるか?興味がある」オサムが言うと
「地図を見ればわかりますが、敢えて巣穴に?」ロウが疑問を投げた。
「そうだな、また塞ぐとして少し見て回りたい、地図は有るか?」
と言うとロウが地図を持ってこさせた。
オサムはそれを見て
「やはり多いな、全て封印されている、か」オサムが言うと
「初代皇帝はこれら全てを廻った後に封印したとか、それまでは化物が数多く居たと聞きます」
物腰柔らかな長髪の美男子で有るロウは全ての所作が優雅である。
「そういうことか。封印はまた行うので開けても良いだろうか?」と尋ねると
「陛下の国です、しかし民が襲われるやもしれませんので」
ロウは心配している様だったので
「数名と調査に来るだけだ。神聖魔法を使った分厚い封印用の鉄の扉を用意させる、それでどうだ?」
とオサムが訊くと
「それでしたら問題は無いでしょう。」とロウは承諾した。
オサムは一旦帝都に帰り、クイードたちを呼びその件を話した。
「見知らぬモンスターが居るだろう、手伝ってくれ。」とオサムが言うと
「では私達も」と全員が同意した。
「まずは見て回って、入口の大きさの鉄の扉を作る。ダンジョンに入るのはそれからだ」
オサムが言い、東側ダンジョン攻略が始まった。
全てのダンジョンを見終わるには2ヶ月かかった。
攻略するには同じかもっと多くの期間が必要だろう。
入り口調査中の期間を使って次々と扉を作らせておいた。
封印用の扉は神聖魔法やマジックアイテムを使いオサム達にしか開けられないように作った。
まずは全てのダンジョンの封印を誰にも開けられない扉に変える。
恐らくこのままでは封印は解けてしまうだろう。
初代皇帝が考えたのかは分からないが、ダンジョンは街からかなり遠かった。
恐らく住民が近付けないようにしたのだろう。
封印の扉の設置にまた2ヶ月を掛けた。
慎重に準備を行い、オサムだけが冒険に出た。
と言うのもヒマだったからだ。
「最初は全部俺ねー」と言って飛び出していった。
昼だけダンジョンに入り、眠るのはロウの屋敷だ。
「この国は日本とも中国とも微妙に違うんだよなぁ、西洋人の考える日本みたいなもんか」
屋敷を見て料理を食い、寝て。冒険をする。
オサムは毎日が楽しかった、グレートドラゴンに匹敵する敵も居た。
何回も何回も同じダンジョンをクリアし、10箇所クリアすると帝都に戻った。
大体隔週毎に通う感じである。
これでまた多くのレアアイテムが手に入った。
2週間もするとクイード達も順にやって来ていたので相当な量である。
塔もあったのでその上下をクリアした。
地下100階層にはグレートドラゴンではない強力なオロチというモンスターが居たが、
オサムは一撃で斬り倒した。
リムルやロレーヌ、ファシリア達は「また新しい遊び場所を見つけたんですね」
とだけ言って楽しむオサム達を送り出していた。
オサム達は一通り遊び尽くすのに半年以上を掛けた。
そしてその後何者も出入り出来ないように固く封印をして終わった。
しかし帰ってきても9人は北のあのダンジョンのボスがどうのとかあのモンスターは等で盛り上がっていた。
その一方女性たちは、
クラウドの妻メリルス、アンカールの妻ラーラ、ギルビィの妻フォーセリア、レオンの妻シュレイヌ、ジンの妻イサベル
この5人が加わっており、総勢10名で茶会を行っていた。
始めの頃は侍女であったメリルスとラーラ、特に花屋の町娘であったイサベルは遠慮していたが、
オサムが5人全員に帝国子爵位を勝手に与えて貴族にしてからの婚姻である。
ロレーヌとリムルが直接屋敷まで呼びに来るので茶会に出席していた。
しかし時間が経つにつれ気遣い無用の雰囲気が醸成されていったため気楽に10人が集まり
そして各夫の話や自分達のことで話は尽きなかった。
しかし全員が思っていたのはオサム達9人が居なければこんな穏やかな日々は無かっただろうということだった。




