第11話 グレイス帝国の運営
夕方に3人はグレイス王国に帰ってきた。
ドラゴンから降り、オサムはクイードとハンビィに
「嫌なことをやらせてしまったな、すまん」
と頭を下げた
「おやめください陛下、我等3人グリオン王国との戦での一騎駆けを見ております」
「陛下が心を傷めながら人を斬り、悩むことも知っております。
今回はああするしか無いとご判断されたのでしょう?」
ハンビィがオサムの気持ちを汲んでくれた。
「そうだな、あの帝国は巨大だ。ああする他無かった・・・」
「皇帝一族は陛下が手を下されたわけではありません、ロウ・ウェンの指示です」
クイードはそう言って
「北方の残された女子供のこともお考えになったではありませんか」
「苦しむのはおやめください」と言ってくれた。
「そうだな・・・うん、すまぬ、助かった。もう少しで夕食の時間だな、もしよければ今日も城でどうだ?」
オサムは2人に居てほしかった。
「わかりました、タキトスにも声を掛けて城へお伺い致します。食事室ですね」
と言い、走って帰っていった。
オサムは城に戻り、ハロルドに
「今日もあの3人と夫人が来る、リムルとロレーヌと俺9人で食事するので円卓の準備と料理の手配を頼む。ロレーヌにも伝えてくれ」
と言って階段を上がっていった。
何故か迷わずに部屋へ戻れたので甲冑と剣をリビングに脱ぎ散らかしたまま平服に着替えた。
「おかえりなさいませ陛下」
とリムルが来たので
「今日はクイード達と食事にするから食事室に行くよ、いいかな?」
オサムは疲れながらも元気なフリをしてリムルを誘った。
リムルが
「なんだかお疲れのようですが、平気ですか?」と訊いてきたが
「うん、少し疲れたけど大丈夫だよ、リムル。今日のメニューはなんだろうね?」
と返した。
「行けばわかりますよ、ロレーヌもご一緒ですよね?」
楽しそうなリムルの声だけでオサムは癒やされた。
食事室の円卓で待っていると、クイード達がやって来た。
「陛下、お呼び頂きありがとうございます」
タキトスが言った。
「俺たちが居ない間問題なかったか?」とタキトスに訊いて
「何も無かったですね、ご安心ください」と言われて安心した。
「そうか、では頼む」と侍女に言うと食事が運ばれてきた。
「今回は少し疲れたので皆の顔が見たかった、急ですまぬな」
とオサムが言うと
「いえいえ、私共3名も陛下にお会いしたかったので」
ファシリアが答えた。
「そうか、ハンビィにもクイードにも今回は苦労を掛けた、ねぎらってやってくれると助かる」
「陛下こそ今回一番働いたではありませぬか」
ハンビィはそう言うが
「俺は王なのでな、こういうときは一番に働かねばならない、二人共ご苦労」
と言ってオサムの表情が緩んだ。
オサムはこの場で今回のことを記憶の片隅に追いやることが出来た。
「そういえば陛下、こやつら3人揃って何やら茶会などをしているらしいです」
タキトスが言うと
「お前達もメラススの塔のことで談笑しているじゃねーかよ」と笑った。
「出来ればリムルやロレーヌにも声を掛けてやってくれないか?
俺もこの3人も戦いや冒険ばかりで話が合わんのだ、不満は言わないが楽しく過ごさせてやりたい」
オサムがそう言うと
「陛下は本当にいつもお優しいですね」ヴィオラが言った。
「陛下、ヴィオラを私から取り上げないでくださいよ?」タキトスが冗談か本気かわからないことを言って皆を笑わせた。
オサムはこの食事会で心がほぐれた。やはり自分には過ぎた家臣だと改めて思えた。
次の日から例の茶会はロレーヌの部屋で行われていた。
身重であるため3人が気を遣ってのことだが、ロレーヌもリムルも楽しく過ごせていた。
リムルは時々スウェンを連れていき、子供の事を話す。
初めこそ王妃陛下と呼ばれていたが、途中からリムル様と呼ばれるようになっていた。
庶民出身のリムルとヴィオラは偶然の幸運を手に入れただけだと今でも思っていたようで
貴族令嬢から宮廷の事や夜会のことなどを熱心に聞いていた。
リムルやロレーヌは子供のことを話し、自分たちがどれだけ幸せかと毎日感じていた。
一方クイード達3人はまだ塔での競走を続けていた。
今のところトップはハンビィだが、気を抜けない競争だった。
最強のダンジョンで有るはずなのだが3人にとってはもはや遊び場と化していた。
そこにオサムも加わると言うと「不公平です」や「ハンデが必要です」と言われる。
何も無い日の男連中は腕比べの毎日を過ごしていた。
3ヶ月もするといよいよ換金所の国庫分が100億枚になってしまった。
丁度良い機会だ、ということでオサムが5億枚を持って旧シャングール帝国
今のグレイス帝国に向かった。
グレイス帝国は元々豊かな国で、周囲の敵が居なければ内政は安定する。
オサムはロウに会って国内情勢の事を尋ねた。
漆黒の甲冑姿で宮中を歩くオサムを見て皆が驚いていた。
「そうですね、大体は収まりつつありますが、抵抗勢力が1つ
そこに数万人が集まって睨み合いの状態にあります。」とロウが言うと
「案内してもらえるか?どうにか出来るやも知れぬ」
オサムには数万人程度は関係ない。
「それがかなり強固な要塞で、城壁も2重になっていますが、ご案内しましょう、陛下」
「では飛んでいこう」と言ってグリフォンを呼んだ。
「大体で良いので教えてくれるか?」とロウに訊くと
「この先の・・・あ、あの要塞です、我が軍が囲んでいます。」
ロウが言った場所に降り立った。
「あの、陛下、先程の鳥は?」と訊かれ
「グリフォンと言うもので2人乗るには丁度良いので呼んだ」
オサムは答えて、要塞の前に陣取った。
「ロウよ、あの要塞には女子供は居らぬのだな?」
オサムが尋ねると
「旧皇帝派の残存兵のみです。
そう聞いてオサムは安心した
「グレイス帝国に歯向かう愚か者達よ!今なら赦す!1時間待つので出てこい!」
と大きく響く声で
「グレイス帝国皇帝からの最後の通達だ!今より1時間どうするか考えよ!」
とは言ったが
「どうせ出て来ぬわ、1時間見張っておけ、ロウ」
と言って岩を背に座って待っていた。
「陛下、1時間経ちました」とロウに呼ばれたので起き上がり
「要塞の向こう側の兵を避難させろ」
と言い、西側を空けさせた。
「貴様達の心意気に免じてグレイス帝国皇帝の力を見せてやろう!」
そう言って要塞に歩いていった。
また矢が雨のように降り注いだが、気にせず背中の大剣を軽く肩に担ぎ
炎系の最強呪文の1つフレイムスパークを剣に込めて一閃
巨大な炎と剣撃が城壁と要塞を真っ二つに引き裂き炎に包んだ。
更に容赦なく魔法を乗せた剣撃を打ち込むと城壁と要塞はただの瓦礫と化していた。
炎の勢いは止まらず城壁内に居たものをすべて焼き尽くした。
「簡単だろう?この程度」と呆然とするロウの肩をひとつ叩いた。
「陛下・・・貴方は一体何者なのですか?」とロウは震えた。
周囲を囲む兵達も自分の目を疑っているようだった。
「よし、では帰ろう。他に何か案件はあるか?」
とオサムは言ったが、ロウの耳に届かなかったらしい。
「終わったなら帰るぞ、ロウ」と言われ
「はい!少々お待ちを」と言って
「全軍戦闘態勢解除!戻るぞ!」と指令した。
未だに自分の見たものが信じられないロウはオサムに対して畏敬を覚えていた。
「陛下は神ですか?」とロウに訊かれたが
「わからぬ、自分ではな。どう思おうがお前の勝手だ」とだけ答えた。
「で、この国の年間の国費はどの程度か分かるか?」
「金貨や銀貨の蔵があるなら見せよ」と宮廷内に案内された。
「この部屋には銀貨の小山しか無いが、他には?」と聞き
「金貨は前の皇帝が使い果たしました、租税が入るのは秋となります」
ロウが途方に暮れたように言うので
「では我が国の租税から少し持ってきたので」とマジックバッグを腰から外し
じゃらじゃらと永遠につづくかのように銀貨を吐き出しまずは一部屋埋めた。
「こっちは金貨の部屋だが銀貨で良いだろう」と言いながら
部屋いっぱいに銀貨を入れた。
「まだ有る、他に蔵はないのか?」と案内させていき
結局20の蔵を銀貨で埋めた。
「これで当面は足りるか?ロウ」と言うと
「陛下の国の租税の一部がこの量ですか・・・」
「5年以上は保ちます」とまた呆然としていた。
「あと、後宮を見たい。」と言って案内させた
「ここが後宮となります、1000人の女が居りますが、選びますか?陛下」
とロウが言ったが。
「うむ、これは必要ないな、取り壊す。明日の夜まで待つ。全員避難させろ、俺が燃やす」
と言って宮中を土足で歩き回り、気に入らない奢侈な建造物を破壊していった。
翌日の夜、ロウに
「誰も居らぬな?」と確認してからフレイムスパークを連発して後宮を燃やし尽くした。
「女どもは家に返せ、帰れぬ者が居るのなら宮中で働かせろ」
「身分は新しく作り直す、この国の貴族のような者や皇帝に媚びて財を成した豪商を一月後までに全員集めておけ。
来ない者は領地や資産没収で構わん」
と言い残してオサムは飛んで帰った。
一ヶ月後、オサムはグレイス帝国にグレートドラゴンに乗って現れた。
宮殿前に集まる貴族や豪商達は巨大なドラゴンを見て恐れおののいたが
「よく集まってくれた、お前達に悪い知らせが有る。財産を没収する。銀貨1000枚は残す」
とオサムが言うと、ザワザワと騒ぎ出した。
オサムが背中の剣に手を持っていくのを見てロウは
「黙れ!死にたいか!」と一喝した。
「すまんなロウ、少しイラついたんで半分程殺そうかと思った」
とオサムは冗談で言ったがロウは必死だった。
「グレイス陛下の御前である、控えよ!」と言ったがロウもどうすれば良いのかわからない。
オサムは
「全財産か命かどちらかを差し出せ」と言った
またザワついたのでオサムは素早く縦一閃ウィンドソードを軽く打ち込んだ。
オサムの目の前にいた全員が最後尾まで倒れた。
「死にたいやつは喋っても良い!」とオサムが言った。
そうすると誰も一言たりとて話さなくなった。
「ロウ、こいつらの資産内容は分かるか?」とオサムが聞いた
「調べればわかりますが、時間はかかります」というので
オサムは
「分かった、全員砂漠に連れて行くのでその間に調べろ」
と言ってグレートドラゴンを地上に降ろした
「全員ドラゴンの首に下げられた箱に入れ」と言って全員を箱に納めた。
「一ヶ月以内に調べよ、ロウ」
「そして財産没収済ませておけ」
と言ってオサムは飛び立った。
到着したのは砂漠の城塞都市だった。オサムは箱を開けて
「皆出てこい」というと500人ほどが出てきた。
「1ヶ月ここで暮らしてもらう、良いな?」
と言い、待っていたクイードに預けた。
オサムはグレイス帝国に戻りロウの手腕を観察していた。
官吏と兵士を使い財産と領地を没収した上で
城下に用意した屋敷に移住させ銀貨1000枚を置いていった。
予定より早く半月ほどで終わったので、
クイードに全員を連れてグレイス帝国に戻るよう指示をして待っていた。
帰ってきたときは全員がくたびれ果てていた。
「皆の屋敷を城下に用意したのでそこに移り住むように」
ロウが手際よく官吏を使い札を配って城下の新しい屋敷に戻した。
皆諦めたように与えられた屋敷に散っていく。
恐らくクイードが相当な恐怖を与えたのだろう、
オサムが命じればクイードは何者に対しても容赦などしなくなるのを知っていた。
「で、没収した財産はどれくらいになった?」
オサムがロウに訊くと
「陛下のおっしゃられた国家運営のやり方ならば30年分になるかと」と言った。
「少数の欲深い者が身に余る財を持つと国が荒れる。覚えておけ」
「ではまた来るのでそれまでに国内を整えろ、ロウ」
「金貨があるなら持って帰る、半分で良い」
金貨も蔵2つ分は有ったので「半分はいらんな」そう言うと
オサムはマジックバッグに詰め込むと「よろしく頼む」言い残して帰っていった。
ロウは
「あの方は一体何者か、誰か教えてくれ」と飛んでゆくドラゴンを見ながら呟いた。




