54話 反逆
その日いつものようにゴロゴロしていると、オサムは侯爵に呼ばれた。
早速城へ行くと、侯爵が頭を抱えて考えているようだった。
オサムが
「閣下、どうかなされましたか?」と言うと
「うむ、国王がお前に用があると伝えてきた、どうしたものか・・・」
と侯爵が言うので
「飛んでいきますよ?今日中に行って戻ってこれます」とオサムが答えた。
侯爵は
「いや、そういうことではなく、恐らく戦だろう、レーラリアかムルトワに仕掛けるのかもしれん」
オサムを見ずに言った
「征服ですか?そんなこと絶対に俺はやりません」オサムは言い切った
侯爵は
「そこだ、お前は絶対に断るだろう?下手をすると反逆になってしまう。」
と頭を振った
「反逆ですか、別に俺は構いません。閣下、今の俺を見て下さい。」
と言って右手の指輪を外した。
侯爵がじっとオサムを見ると
「インペリアルセイヴァー?インペリアルセイヴァーだと!?いつの間に!?」
と驚愕した。
オサムは右手に指輪をはめ直し
「ロードナイトから転職しました。しばらく前のことです。」
静かに言った。
「神々に守護者として認められたというのか?」侯爵が驚き絶句した。
「守護者云々はわかりませんが、精霊界に入って神々の世界に行きました」
なんの感慨もなくオサムは言った、そして
「反逆というのなら王の城を破壊します。残虐な王を殺しこの国を壊します」
続けて
「どこの国でも俺とリムル、それに俺の好きな人達は生きていけますから。侯爵閣下の城の者全て。」
固い決意を言葉に表した。
侯爵は黙ったまま何も言わずに考えていた。
オサムは優しい、そして権威に対して何の価値も無いと決めつけている。
侯爵に付いているのは自分が恩人だからだ。
しかし、王に対しては何の恩義も感じていない・・・
実際に城を3つ破壊している、手がつけられない者であることは間違いない。
侯爵は腹を決めた。
「王に会ってこい、そして今私に言ったことを王にも言うが良い。気に入らぬなら城も壊せ、王を殺しても良い。」
「わかりました」とオサムは出ていった。
侯爵は我が王よ、オサムを怒らせてくださるな・・・と祈った。
オサムはドラゴンで王の城の庭に降りた。
何事か!と騎士や戦士が出てきて取り囲んだ。
オサムはドラゴンを撫でて空へ帰した。
「エリトールだが、王に呼ばれて参った。」オサムは鎧を付けず、武器も持たず、あえて儀礼服でやって来た。
隊長らしき者が
「剣を納めよ!」と言い
「エリトール卿でしたか、陛下がお待ちです、ご案内致します」
「どうぞこちらへ」と王の間に通された。
『さて、なんて言ってくるんだろうな、戦争を仕掛けるというなら断ってやる』
オサムは覚悟を決めていた。
王の間に通されると部屋の四隅に騎士が武装して立っていた。
王の従者、騎士だろう。
4人を見ると全員がレベル50以上のパラディンだった。
王が口を開いた
「先日、ムルトワ王国とレーラリア王国軍の話は聞いておる。」
「ワシはこのまま一気に両王国を叩こうと思っているのだが、エリトールよ、軍に加われ。」
それは予想通りの言葉だった
「他国に攻め入るのはお断り致します、民に被害が出ます」
オサムは思ったことをそのまま口にした。
「これは要請ではない、命令であるぞ?」
王がオサムを睨んだ
「申し訳ありませんが、私が民を害することに加担することはありません」
同じように答えた。
「わかっておらぬようだな?皆の者、エリトールを囲め!」
王が命令すると4人の騎士がオサムを囲んで剣を抜いた。
「我が王、私を見て頂けますか」と指輪を外した。
王はオサムをじっと見
「インペリアルセイヴァーだと!?」と言って黙った。
オサムは指輪をはめ直し
「我が主フルグリフ侯爵が言うには”神々の守護者”だと」
オサムは4人の騎士に剣を向けられながらも静かに言う。
「しかし、それがどうした?王の言葉が聞けぬか?」
相変わらず睨みながら言ってくる。
「その命令だけは、聞き入れられません」
オサムは頑固に答えた。
「領地を取り上げ獄につながれても良いのか?」
王はオサムを脅迫してきた。
オサムは王に一歩近づいた。
その途端に一人の騎士がオサムの首に剣を当てた。
オサムはその騎士を素手で殴ると、部屋の壁を突き破り外の廊下の次の壁も半分破壊してぐったりとしていた。
「手加減はしました。死んだかもしれませんが。」
感情を全く込めずにオサムは言った。
「エリトール!反逆か!」
王の怒号が部屋に響いた。
「反逆の心など一切持ち合わせておりませぬ、あやつは私を切ろうとしたので殴りました。」
残った3人の騎士の持つ剣がカタカタと震えている。
「これで終わりにする。ムルトワとレーラリアを叩く、その軍に入れ」
王は再び脅してきた。
瞬間オサムは3人の騎士を殴り3人共が別々の方向に吹き飛び王の部屋の壁は殆どなくなってしまった。
後ろに居た騎士は20メルト程向こうの壁に打ち付けられ倒れていた。
今度は手加減せずに殴った。
「出来ませぬ」オサムは王を睨み
「そのような蛮行を行うのであれば王を殺しこの城を瓦礫に変え、国を滅ぼしますがよろしいか?」
王はオサムの目の中にある怒りと本気を読み取った。
「この国の貴族で我が家臣であるエリトールよ、何故逆らう?」
王は震えながらオサムに訊いた。
「俺は守るためにのみ戦います。攻めるためには剣を振るいませぬ。」
「私を殺し、この城を崩し、国を滅ぼすというのも本気か?」
「試してみますか?」
オサムははっきりと王を脅した。
「やれるものならな、やってみよ!」
王は激怒した。
オサムは窓のある壁を殴り壊し下に飛び降りた。
ドラゴンを呼び、大きなマジックバッグの中から甲冑と剣を取り出して着替えた。
ドラゴンを空に返して、再び王の間へと戻ってきた。
オサムの後ろには完全武装の騎士や戦士が何十人も剣を抜き着いて来ている。
「死にたいなら付いてこい。」オサムが剣を抜くと騎士達は立ち止まった。
「エリトール、戻ってまいりました。この城から女子供、戦闘の出来ぬ者を避難させて下さい」
「今からこの城を砕きます」
きっぱりと言った。
「く、黒騎士か、エリトール・・・本気なのだな?」
王に訊かれ
「はい」と答えた。
「早く避難を」
と言いながら城内の壁を切り壊していった。
「女子供を巻き込みたくありませぬ!」天井を突き破り物見の塔を切り崩した。
オサムは王の間に戻り
「早く避難を、王は城を崩したあと最後に私が斬ります」
その声には何の感情もこもっていなかったが王はそれが恐ろしかった
「わかった!エリトール!剣を収めてくれ」
「今回のことは無かったこととする。それで良いか?」
「いえ、もう反逆してしまいました、戻れません」
オサムは慌てる王の言葉を本気と受け取れなかった。
「我が家族、我が主、それに連なる者全てを守るためには王に死んでいただかねばなりませぬ」
その間にも城の最上階を壊し続けた。
下を見ると避難が始まっているようだった
オサムは今度は床を突き破り下の階を壊していった。
ガラガラと音を立てて城が崩れていく。
オサムはもう一度王の前に戻った。
「私は神々の守護者、王の守護者ではありませぬ、これは神々の意志とお考え下さい」
ボロボロになった城を見て王は何も言えず、ただ破壊者となった黒い甲冑を見ていた。
「王にはこの城の崩れ行くさまを見届けていただきます、一旦庭の方へ」
オサムが剣を振るいながら言った
「わかった。エリトール、我が首を取れ。これ以上城を壊すな。皆が住む城じゃ」
「この首1つで赦せ、頼む」
王は覚悟し、オサムの前に膝をついた。
兜のシールドを上げ
「王たるものが家臣の前で膝を付きなさるな、我が王の覚悟、伝わりましたゆえ」
オサムを見上げる王に微笑んだ。
剣を床に突き立て、王の手を取り立ち上がらせた。
「我が王と言ったか?」王が言うと
「はい、我が王陛下」
と今度はオサムが膝をついて右腕を胸に当て、忠誠の姿を見せた。
「ワシは王という立場ゆえ、家臣の気持ちを考えず驕って居ったようじゃ」
「ことに、エリトール、そなたの強さを知った時からはな・・・赦せ」
王がそう言うと
「いえ、私の方こそ、主の城を壊すなどという行為、決して許されるものではありませぬ」
オサムは答えた。
「いや、かまわぬ、ワシも目が醒めた。感謝する、エリトールよ」
という王の言葉に
「もったいなきお言葉です」
オサムは答え
「私めの反逆の処分は如何ようになりますでしょうか?」
と王に尋ねた。
「処分はない、お前は今となっては我が師のようなものよ、民を幸福にするのが王の務め、それを教えてくれた。」
「大広間へ降りよ、ワシもすぐに向かう。」
と言って、机の引き出しから紙とペンを取り出した。
オサムは言われたとおり大広間で甲冑姿のまま腰掛けていた。
椅子がきしむが壊れることはないだろう。
30分ほどして王が入ってきた、続いて文官や司祭、様々な者達が集まって来ていた。
「略式だが、新たな爵位を与える、エリトールよ、壇上に」
と王が直接言うと
オサムは兜を取り、左腕に抱えて壇上に上がった。
「皆の者、今日エリトールに頼んで城の落とし方を見せてもらった。
驚いた者も居るであろうが、ワシが命じたことだ。この堅固な城も落とせるか、とな。」
「先のムルトワ、レーラリア両国連合軍をただ一人で全滅させた力は子爵では不足である。」
「そして、見事に城を落とせる事を証明したゆえ、エリトールに領地を与える」
『王様、それちょっと無理があるんじゃ?城落としのデモンストレーションって』
オサムは考えたが、あとは王に任せることにした。
「エリトール子爵に新たにクラッセ伯爵領を与える。シュワルツダレク公爵に次ぐ名家である。」
「エリトールよ、今後はクラッセの名を継ぎ、この国を守れ。」
と言い、領地の内容の書かれた王直筆の書を渡された。
オサムはその書状を受け取り
「我が主、ライツェン国王陛下、我クラッセはこの命の続く限りこの国の守護者となります」
と口上を述べた。
「では、よろしく頼むぞ、クラッセ伯」と王が言い
書状を入れる筒を儀礼官が持ってきて丸めて筒に仕舞い、オサムに渡した。
「直ちにフルグリフ侯爵の下へ戻り、この事を伝えよ」
王がそう言い、早目に切り上げた。
「はっ、」と立ち上がり静かに後ろへ下り、振り返ると大広間を出て、城も出ていった。
オサムはグリフォンを召喚し、自分の屋敷に飛んで戻った。




