53話 戦の時
オサムが朝、部屋でゴロゴロしていると、侯爵から呼び出しが入った。
『何事だろう』と侯爵の部屋に行くと。
「おぉ、来てくれたか。急用ですまぬな」と侯爵は言い
「実はこの反対側、ムルトワ王国とレーラリア王国の連合軍が国境の山を越えてきたらしい、戦になる」
と説明し、
「すまぬがオサム行ってくれぬか?ここからは遠すぎて軍が出せぬのだ」
そう言われたので
「わかりました、場所は?」と訊くと
「この地図を持っていけ、場所はこの平原となるだろう。」
侯爵が指差したのはここから真反対、王都の向こう側だった。
『せっかく平和になったのに、どうしてこう戦いが好きなのかなぁ』とオサムは考えて
「村や町の被害は?」と侯爵に確認した
「まだ被害はないが、平原を越えられると村や町がある。どうしても平原で食い止めたい」
「そうですか、わかりました。すぐに向かいます。」オサムは答えて部屋を出た。
屋敷に戻り甲冑に着替えて腰と背中に剣と楯を装備した。
リムルは
「そんなに急いでどうかされたのですか?」と訊いてきたので
「どうやら反対側で戦があるらしい、間に合うのが俺だけなんで行ってくる」
と答えた。
『被害が出る前に追い返さないと・・・』オサムは焦っていた。
「じゃあ行ってくるから。1日で戻れると思う。
オサムは屋敷を出て、初めてドラゴン召喚の笛を使った。一番強いだろうからだ。
空からドラゴンが舞い降り、オサムが騎乗して飛び立った。
一直線に飛ぶと1時間もかからず戦場が見えた。両軍とも軽く1万人は居る。
オサムは敵陣に飛んでいってドラゴンのブレスを浴びせかけた。
何度かやると敵兵達が混乱しだしたのでライツェン王国軍の陣地の前に舞い降りた。
ドラゴンの首をポンポンと叩き空へ帰れ。と合図すると飛んでいった。
次にナイトメア召喚の笛を使いナイトメアを呼び出した。
空間が揺らめき炎のたてがみの漆黒の馬が現れたので騎乗した。
「黒騎士様、エリトール様」と言う声が聞こえたが「大将に会いたい、誰か案内してくれ。」
そう言うと
「こちらです」と案内された。
どうやら大将はフォルスト・シュワルツダレク公爵らしい
ライツェン国屈指の大貴族で名将でもある。
オサムが公爵に近づき
「失礼を承知で申し上げます、この場は私に任せていただけないでしょうか?」
と頼んだ。
「うむ、では先発隊の先頭を任せる。」驚きながらだったが聞き入れてくれた。
ドラゴンで来たのが功を奏したのだろう。
「ありがとうございます。」とオサムが答えナイトメアに騎乗し先頭へ向かった。
先頭部隊の隊長に理由を話し、オサムは一騎駆けで敵に突っ込んでいった。
敵の正面に近づいた時に「セイヴァースラッシュ!ウィンドスラッシュ!デモンスラッシャー!オクタスラッシュ!ウィンドソード!」
と、一瞬で1000人単位を屠った。
そのまま突撃し、敵の中を縦横無尽に駆け回り剣を振るっていった。
「ストラトブレイド!アクトクラッシュ!」また数百人が一瞬で倒れた。
敵は混乱し逃げ回るばかりである。総大将らしき人物を見つけて向かっていくと回りの騎士達が密集して取り囲んだ。
オサムは関係なくそれらを斬り伏せ、総大将も討ち取った。
残る兵や騎士にも容赦なく斬撃を浴びせた。逃げる者も居たが、ナイトメアの脚から逃げられる馬など居ない。
向かってくる敵、逃げる敵関係なく斬り倒していった。
20分もするとほぼ全ての敵が大地にころがって居たが、まだオサムは止まらない。
全滅させるつもりで戦ったが、数十騎に逃げられて戦闘は終わった。
オサムはシュワルツダレク公爵のもとへ戻り「終わりました、閣下」と報告したが
公爵は何も言わなかった。
「黒騎士の噂は本当だったのか・・・1万の軍が30分で全滅だと・・・」
オサムに向かい、公爵は
「お前がエリトール子爵だな?なるほど、軍神よのう」と言われた。
オサムは
「終わりましたか?この戦」と訊くと
「言うまでも無いであろう、恐らく二度と攻めて来ぬわ」
声を震わせてそう言った。
「では、私は帰っても?」とオサムが言うと
「好きにせよ、あとはこのワシが処理しておく」
「それでは、よろしくお願いいたします」とナイトメアを帰し、グリフォンを呼び出して帰って行った。
屋敷の前にグリフォンで降り立ち、首を撫でて空へ帰した。
「ただいまー」と言って、ケンテルを呼び出し、甲冑を洗うように命じた。
3階の自分の部屋に上がり
「かえったよーリムル」と言って「ちょっと侯爵閣下のところに言ってくるね、報告」
素早く着替えて城の侯爵に報告に出かけた。
「終わらせてきました、シュワルツダレク公爵が言うには二度と攻めてこないとのことです」
オサムが言うと
「何をした?」と侯爵が訊くので
「一人で片付けてきました」とあっさり言った。
侯爵は驚き
「1万の兵をか!?」と言ってから「まあ、そうなるな、これで我が国の安全は確実になったな」
「そうですね、戦を止めるには圧倒的な恐怖が一番ですから」とオサムは笑って言った。
侯爵は「我が騎士ながら恐ろしい奴じゃ」と真顔で言われた。
オサムは
「話は変わりますが、ここ数日ダンジョンで強さを確認しておりまして、
晶石を換金しただけで2500万枚を手に入れました。」と言うと
侯爵は驚いて
「お前は何をして居るのだ?で、言いたいことは?」と訊くと
「つきましては、私の領地の税を2年間免除したいと考えております。子爵となった祝いということで」
「この件、どう考えられますか?」と侯爵に尋ねた
「ふむ、子爵となった祝いを領民と共有したいという建前だな?前例はあるので構わんだろう」
侯爵は答えた。
「では、今年と来年ということでお願いします。あと、その後も税を軽くしようと考えていますが」
オサムが言うと
「今の租税は確か4割だが、どの程度に?」侯爵が言うと
「そうですね、下げすぎるとそれに慣れてしまうので3割か2割5分で」オサムが言うと
侯爵は
「2500万枚というのなら100年は問題ないな、戦に備える必要も無いし2割5分としよう。」
そして
「オサムの領民は幸せ者よの」と言って笑った。
オサムは
「では、報告は終わりましたので戻ってもよろしいでしょうか?」と訊いて
「構わん、疲れただろう、ゆっくりせよ」と言われ、オサムは屋敷に帰っていった。
ケンテルはまだ甲冑を洗っていたが、自分はゆったりベッドに寝ていた。
はじめに今日は全員で夕食を取ると言い付けていたので、料理長のカッシュも含め
全員が大広間に集まった。オサムを入れて総勢で26名の大所帯である。
オサムが
「こうやって皆が顔をそろえるのは初めてだな、
この中には新しく子爵になっただけの私に忠誠を誓えぬ者も居るだろう、それは構わぬ。
しかし、私は皆を家族と考えている。外では困るが、屋敷内では何でも言ってくれて良い。
変な遠慮は無しだ、仕事以外の気遣いも無用、若輩ゆえわからぬことも多いのでよろしく頼む。」
そう言うと
クイードが
「少なくとも私とタキトス、ハンビィはご主人様に絶対の忠誠を誓っております」
そう答えた。
オサムは
「ありがとう、クイード、タキトス、ハンビィ。お前達は言い付けを守りよく鍛えている。
これからもエリトール家を支えてくれ。」
少し時間を開けて
「では、食事にしよう。」とオサムは食べだした。
それを見て皆も一斉に食べだした。
「戦いしか知らぬ武骨者なので、食事のマナーもわからん。ハロルドに訊くか」
などと言いながら、皆で楽しく食事をした。
『これでみんなの気持ちがほぐれると良いんだけどなぁ、月に何回かやっていこう』
そうオサムは考えた。
「旦那様、今日の食事は楽しかったですね、ああいう雰囲気私は好きです」
リムルが嬉しそうに話すと
「そうだね、俺は留守にすることが多いから、リムルが仕切ってくれてるんだろ?
いつも押し付けてごめんね?」
とオサムが言った。
リムルは
「私は元々侍女ですから、手際は慣れてます。ハロルドも居ますし、クイード達も」
続けて
「旦那様が留守の時に困ることは無いですけど、私は寂しいです。」
そう言われたので
「うん、出来るだけ家に居ることにするよ、大丈夫。でも時々は冒険に行かせてね?」
とオサムは笑った。
「じゃ、寝ようか、おいでリムル」とリムルと共にオサムは眠った。




