51話 爵位
一月程してオサムは伯爵に呼び出された。
昼前に伯爵の部屋に行くと、腕組みをして待っていた。
「オサムよ、お前一体何をした?」と伯爵がオサムに尋ねてきた。
「いえ、最近はダンジョンにも殆ど行ってないですし、何も」と答えた。
「では何故グリオン王国の使者が突然講和を申し込んでくるのだ?ここ十数年戦っていた相手だぞ?」
伯爵は確信を持っているようだった。
「たった一人の黒騎士に城を3つ落とされたと言っていたらしい。王からの使いが封書を持ってきた」
「ああ、話せば長くなりますが、よろしいでしょうか?」
とオサムはひと月前の出来事を伯爵に話した。
「そういうことか」と言ったきり伯爵は黙ってしまった。
そして、
「グリオン王国の領土が割譲され、私は侯爵になりその領土も治めることになる、以前の倍以上の領地になる」
オサムは
「おめでとうございます。侯爵閣下」と言った。
「うむ、これで戦はほぼ無くなるだろうが、お前は我が王に謁見せねばならん、私の叙勲と共にな」
伯爵がそう言うと
「なんだか面倒ですね、王様に謁見ですか?」
とオサムが嫌がると
「この辺境、何が起きるかわからんので引き続きオサムには居続けてもらうが、
お前は子爵に取り上げられる。陛下直属の宮廷子爵だが、領地は王から頂くものも含め3倍となる。
屋敷も子爵に相応しい物を新しく建て、従者や召使いも増やす。」
伯爵は怒っているのか喜んでいるのかわからなかった。
「いや、俺はただ、前回のような村や町を戦禍から守りたかっただけで、そんなこと望んで無いです」
オサムが戸惑いながら言うと
「お前がロードナイトということを王に伝えた。まだ手紙は届いておらんと思うがな。」
伯爵が頭を掻きながら
「国同士の争いをあっさりと止めてしまったんだぞ?これが今のお前の力だ。」
オサムは
「はぁ・・・戦争が無くなれば苦しむ人達が居なくなりますね。」
と答えた。
「そうだがな、もうよい。出発の日は教えるのでそれまでは静かにしておれ。」
と言って伯爵の話は終わった。
オサムは屋敷に戻り、リムルの待つ部屋へ上がっていった。
「リムルー」と呼ぶと
「おかえりなさい、旦那様。何事でしたか?急に呼び出されるなんて何か悪いことでも?」
と訊かれたので
「いやー、どうも王様に謁見しないといけないらしい。あと子爵になるんだってさ俺」
と答えると
「それは素晴らしいことですね、子爵様ですか」
リムルは喜んだ
「あとね、屋敷も大きなものを建てて、従者や召使いも増えるんだって」
「なんだか色々面倒だよね?今のままでも十分なのにさぁ」とオサムはベッドに倒れ込んだ。
リムルはふふふっと笑って
「相変わらず無欲な方ですね、そういうところ私は好きです」
「けどさ、けどさ、リムルも子爵夫人になるんだしいいよね?この話」
オサムは相変わらずリムルのことしか考えていない。
「私は旦那様と一緒ならそれでいいです」
ニコリと笑ってリムルは答えた。リムルもオサムの事しか考えていなかった。
一ヶ月も過ぎた頃だろうか
嫌とも言えないので、オサムは王に謁見することとなった。
ペガサスならゆっくりと飛んでも1時間程度だが、陸路では馬で1週間以上掛かるだろう。
往復で3週間。滞在期間を合わせれば1ヶ月になるかもしれない。
とは言え、オサムという存在が護衛団の規模を縮小させ、騎馬のみで移動出来ている。
出発前に伯爵が「エリトールが居るため護衛団は15騎とする。魔法士は2名、召使い3名」
と、通達するとクリューズは驚いたが、オサムが居るなら。とロレーヌも含め納得した。
『だりぃ~飛んでいきてぇよ、合流でいいじゃん合流で』とオサムは考えたが、
伯爵を守る必要性から同行するしか無かった。
オサムは既にペガサスの呼び笛以外にナイトメア、グリフォン、ドラゴンの呼び笛も持っていた。
ドラゴンの呼び笛はドラゴンダンジョンで偶然手に入れたが、その存在は誰も知らなかった。
昔の文献にドラゴンライダーと呼ばれる存在が1名だけ居たが、それは存在自体が謎の人物だった。
小規模での移動ということから野営することは無かった。
各町や城塞で寝泊まりしながら昼に移動した。
稀にモンスターが出たがオサムがその都度簡単に片付けた。
指輪を付けているためステータスは誰にも見えないようにしているが。強さ自体は変わらない。
甲冑や剣も儀礼用の物ではあるがビーツに作らせたロードナイト専用の物である。
防御力も攻撃力も黒騎士装備とほとんど変わらない。
幾つかの町や城塞を経由して、到着したのは巨大な城塞都市だった。
ざっと見ても伯爵の城塞の10倍はある。
そして、1日城に泊まることになった。
流石に城の規模は大きく、侍従や侍女が居ないと迷ってしまう。
翌日、王の間に通された。
儀仗騎士が通路の端から端まで並んでいる。
伯爵とオサムは、その間を抜け、王の座る壇上の下で片膝を着いた。
王は何かを読み上げ、伯爵に侯爵領を、オサムに子爵領を与えて式典は終わった。
夜に舞踏会が開かれると言うので、二人も出席することとなった。
『やっぱり舞踏会か、しかも王様の城で。ぜってー貴族とかばっかりなんだろうな』
オサムはクリューズやロレーヌに一通りの作法を教えてもらっていたが、正直出たく無かった。
夜になると二人は先程の大広間に連れてこられ、続々と貴族風の男女が現れ舞踏会が始まった。
オサムは少しワインを飲み、食事をするとバルコニーに出た。
これは侯爵から許可を得ている。自分がなんとかするから、とのことだ。
夜風にあたっていると、いかにもという風体の貴婦人が数人近づいてきた。
「エリトール卿、聞くところですが戦乱を収めたとか、騎士から子爵様へなどよほどの功績を上げられたのですね」
貴婦人たちはオサムを取り囲んで話を聞きたがっていたが、
「私は侯爵閣下のために働いたに過ぎません、一介の騎士にどれほどのことが出来ましょうか」
と答えたが
正室は居るのか、予定はあるのか等を訪ねてくる。
オサムは適当に返事をし、リムルのことを思い出した。
「今のところ、私にそのような気持ちはありません。王陛下から頂いた領土の経営に専心したく考えておりますゆえ」
領地経営のことなど侯爵に任せてしまうのだが、一応の返事はした。
一通り話すと貴婦人たちは戻っていった。
そして入れ替わるように出てきた女性が居た。
オサムには気がついてないらしく、街を見下ろして風に吹かれていた。
オサムは放っておくことにしたが、
「あ、」と気付かれてしまった。
その女性は静かに近寄ってきて
「エリトール子爵様ですね?私はツォレルン男爵家のミーシャと申します。」
と自己紹介されたので、オサムもせざるを得ない
「今日子爵領を頂いたばかりの騎士でまだ戸惑っておりますが、エリトールといいます」
そのミーシャという令嬢はロレーヌにも劣らない美女であった。
「子爵様の事をお聞きしても?」と言うので
「答えられることなら」とオサムは返した。
「随分とお強い騎士だと伺っております、お年は?ご両親は?」
「19です。父母は居りません。ある事情がありまして。」
そう答え『綺麗な女性だけど、ロレーヌとはまた違って話しやすいな』と考えていた。
「そうですか、私は今年で17になります。ずっとお城暮らしですので外の事を教えて頂けませんか?」
ミーシャがそういうので、知っていることを話した。
「モンスター?ですか?」と訊かれたので
「はい、辺境ですので数多く居ります」と答えた。
「ですからお強いのですね?私には想像も出来ない世界です。籠の鳥ですので。」
続けて
「どなたかがこの籠からだしてくださることをいつも考えています。」
とオサムに言ったが、
「宮中の方が安全ですよ、ミーシャ様」とオサムは答えた。
その時、侯爵が出てきてオサムを呼んだので
「主に呼ばれましたので、これにて」と広間にもどった。
「このような席は苦手であろう?適当に理由を付けて自分の部屋に帰っても良いぞ」
そう言って城の侍女を呼んだ。
「エリトール子爵だが、ちと体調を崩しておるらしい、部屋へ連れてやってくれぬか?」
オサムは侯爵の気遣いが嬉しかった。
部屋へ戻り、服を脱ぎベッドに倒れ込んで眠った。




