40話 戦乱の黒騎士
その日、珍しくクリューズが朝からやって来た。
オサムが
「どうした?」と訊くと
「どうやら戦になるらしい、ガーミング伯爵から知らせが届いた。相手は隣国のグリオン王国。
ガーミング伯爵は閣下と同じ辺境伯で閣下とは従兄弟にあたる。鉄鉱石の取れる領地を狙っているようだ。」と答えた
「あと伯爵領の3つの村が襲われ男は皆殺し、女は襲われた」
クリューズは怒りの形相をあらわにした。
オサムは
「それで、援軍を送るんだな?どのくらい?」と訊いた
クリューズは
「およそ1000だな、半分以上が傭兵になるが。」
オサムは
「そうか、俺には初めての戦になるが・・・その軍に加わろう」
クリューズを将軍とする軍が編成された。騎士とその従者が約300、剣士が約200、傭兵が500と少しという編成だった。
「では、出発する!」クリューズが号令すると一斉に動き始めた。
ガーミング伯爵領の目的地は普通の徒歩で1週間程度だ。
まだ睨み合いの状態だというが、いつ戦端が開いても不思議ではない。
クリューズは強行軍での移動で4日で移動すると決めていた。
街道沿いにはモンスターは殆ど出ないため、大して問題はない。
「オサム、お前は戦をしたことがないだろう?モンスターを斬るのと人を斬るのとは違う。
私は初めて人を斬った時は混乱してしまった。大丈夫か?」
クリューズがそう言ったが、
オサムはこの世界を理解した時から既に心の準備はしていた。
「モンスターだろうが人だろうが、敵は敵だ、斬り尽くしてやる。」
村が3つ襲われたと聞いた時からオサムは静かに怒り狂っていた。
恐らく誰にも止められないだろう。
辿り着いたときには戦闘が始まっていたようだった。
敵か味方かわからないが兵の死体が何十人も転がっていた。
オサムはそれを見て恐怖ではなく激昂した。
力で征服するというのはこういうことか、と。
クリューズが
「全軍突撃!敵軍の横から討ち取れ!」と命令を下すと
「うぉぉぉぉぉー!」という声と共に敵軍の横腹に攻撃が始まった。
オサムは騎乗しての訓練も行っていたため、騎馬部隊の先頭に立っていた。
「ウジムシ共が、罪もない村を襲いやがって!」と敵に駆け寄り剣を抜き敵の中に突っ込んだ。
途端に血しぶきが吹き上がり鎧ごと真っ二つにされた敵兵が転がってゆく。
オサムの魔剣の剣撃は楯では防ぎようが無かった。
楯で受け止めようと、それを叩き斬り、為す術無く敵は死んでいった。
『あの夜と同じだ、俺は今狂っている。』と考えながら敵陣の中を駆け抜けていった。
まさに鬼神の如き戦いでオサムの通ったあとには死体が転がっているだけだった。
「うらぁ!」と雑兵も騎士も歩兵も関係なく斬って斬って斬りまくった。
プレートアーマーを布のように切り裂く黒い騎士に相手は恐れを抱き統率が取れていない。
「大将はどこだぁ!」と後方の敵もメッタ斬りにし、10分もすると敵兵は退却していた。
「待てぇ逃げるな!」と追いかけて藁束でも斬るように一騎駆けで追いつき、
剣を振るい敵を薙いで行く。
ついには敵は数十騎を残すのみで殆どが地面に転がっていた。
クリューズがオサムに追いつき
「もう良い、十分だ」と引き止めたが
「うるせぇ!」とオサムは逃げる敵を斬っていった。
もう敵の姿が見えなくなり、オサムも一騎になっていたので道を引き返していった。
陣地に帰る途中敵兵の屍がそこかしこに転がっていたが、気にしなかった。
”罪のない村人を殺した殺人鬼”それはオサムにとってはモンスター以下の存在だ。
クリューズが陣地に戻っていたので近づき
「十数騎逃した、全滅させられなかった、クソ!」と血まみれになった鎧を見て
「勝ったか?」とクリューズに訊いた。
クリューズは味方とはいえオサムを見て冷や汗をかきながら
「ああ、完勝だ。こちらの被害は殆ど無い」と答えた。
クリューズに向かい騎乗する漆黒の騎士を味方が見て声もなくただ静かな時間が流れていた。
殆どがオサムに恐怖を抱いていた。たった一騎で400以上の敵を切り伏せその鎧には傷一つ無い。
その異常な強さに敵だけでなく味方にすらも恐れられたのである。
「黒騎士」と誰かが言った。兜のシールドを上げ、オサムは一息ついた。
「終わったのか?」クリューズにまた尋ね
クリューズは「ああ、終わった。」と返事をした。
するとオサムは
「クイード!タキトス!ハンビィ!どこだ!」と叫ぶと
黒い鎧の3騎が近寄ってきた。
「馬を見ておいてくれ。」と一言言い、自分が斬った敵兵を見て蹴り飛ばした。
「おい、もう良いだろう、それくらいにしておけ」
とクリューズがなだめるように言った。
オサムは
「そうだな、終わったならもういい」腰のマジックバッグから水筒を取り出し
ゴクゴクと飲んで近くの岩に座った。
その日から”黒騎士エリトール”の名は絶対的なものに変わった。




