20話 夜会の前に
朝になり、食事を摂った後に城へと戻る行軍が始まった
無事、レイン・フルグリフ伯爵弟とその一行を救助し、治癒魔法士により部隊にはもう怪我人も居なくなっていた。
フルグリフ伯爵の騎乗する馬に侍るオサムをレインは見ていたが、身を挺して伯爵を守ったということで、名門騎士家であるエリトール家を継ぐことに異存はなかった。
まだ若く恐らく15~6歳だと思われるレインは自分より明らかに年下である。
にも関わらず、あれだけの場所に行くのだ。
この世界は厳しい、自分が思っているよりもずっと厳しい世界なのだろう。
しかしそれが良かった。オサムは安穏とした世界に飽きていた。
「アキバ・オサム・エリトールよ、お前は異世界から来たと言うが本当なのか?」
レインが好奇心で訊いてきた
「精霊界か?どの世界からやってきた?」
オサムはそれに答えて
「それがよくわからないのです。この世界とよく似ていますが、魔法は無く戦士の持つ武器も違います。」と返した
「そうか、今度話しを聞かせてくれ、私は異世界に興味があるのだ、不可思議なことにな。」
やはり子供の好奇心だが
『そりゃそうだな、一番好奇心の激しい年頃だ』オサムは考え
「かまいませんよ、伯爵閣下からも色々と聞かせろといわれておりますので」
『なんか敬語の使い方がおかしいな?そのうち粗相するかも?ヤバいなーこれ』
とオサムは考えた。
行軍が始まってかなりの時間が経ち、そろそろ日が落ちるという頃に城塞らしき街に到着した。
『すっげー・・・まんまゲームの世界じゃんかよぉ、あ、鍛冶屋と武器屋だ、薬草店もある』
とにかく賑やかな街であった。人々は笑顔で過ごしており、伯爵の統治が民に優しいものだと理解した。
『それにしても、俺はどこに帰れば良いんだ?』と考えている間に城内へ到着した。
馬から降ろされ、城の中にある部屋へ入れられたがオサムは慌てなかった。
夜会が有るというので侍女がひらひらした服をオサムに着せた。
「中世っぽいなぁ~全然似合わん」と独り言を呟いた時にクリューズがノックして入ってきた。
「今回の英雄にしてはきらびやかさが足りぬな、エリトール卿」と言ってきた。
「初めてなんですよ、こういうのは・・・庶民でしたから」とオサムは答えた。
「あ、そうそう、自分のために少々アクセサリーを持ってきたのですが選んでもらっても?」
クリューズに言うと
「異世界のものか?見せてくれ」と乗ってきた
『無愛想だと思ってたけど、この人は人見知りするだけだな?しかしこうやって見るとイケメンだ』
そんなことを考えながらリュックからネックレス、ブレスレット、指輪、バングル等を取り出した。
「こんなにあるのか?全て向こうの世界の物なのか?ん?これはかなり精巧に作られている・・・」と色々見ていった。
「どれか使えるものはありますか?恐らくこの世界に無い金属で出来ています。」
「え!?」と侍女が驚き覗き込んだ。
クリューズは
「こら、見るでない。」と言ったが
オサムは
「まぁまぁ、良いじゃないですか、それにこの子可愛いし、一つくらいプレゼントしてもいいですし」
笑いながら言ったが、クリューズは
「この侍女は町娘だぞ?エリトール卿、正室も持たずに側室を持つのか?」と訊かれた
『えぇぇ?こんな一言でそんなことになるの?こんな可愛い子が?なんて素敵なんだ!』
と思わずガッツポーズをした。
「腕周りが合わぬのか?」とクリューズに真顔で訊かれて
「いや、ちょっとした運動です・・・」と答えて、リュックからどんどん出していった。
クリューズは
「それはともかく、これらはこの世界に無い金属なのか?この黒い指輪は・・・」と持ち上げ
「重いな?黒い黄金ということか?それに堅い。それに様々なこの精巧なチェーンはどうだ、素晴らしい仕上がりだ!そしてこれは・・・軽い!何で出来ているんだ一体!?・・・申し訳ない、少し興奮してしまいました。」と目をキラキラさせていた。
『どうやらクリューズは伊達男の系列だな、賄賂を送っておくか、くふふ』と思い
「これだけの数を自分で持つ気は有りませんので、よろしければお好きなものをいくらでもどうぞ」
とクリューズに言うと、途端に目が輝き
「どれでもよいのか?いくらでも??」子供のようにはしゃぎだした。
「気に入った物があればどうぞ、あと、このペンダントは君に」と侍女に渡した。
「そ、そんな、いただけません!」と侍女は慌てたが
「この石は幸運の石でね、君の瞳の色とよく似合うと思うんだけど?はい」と侍女の手を取り手のひらの上に置いた。
「これで君のものになったね」と笑顔を作ってみせた。
『くっっさー・・・どこの王子様ごっこだよ俺、けどやってみたかったんだよな~』
オサムは人生でやりたいことの一つを今消化した。
「よろしいのですか?本当によろしいのですか?」と侍女の喜ぶ顔を見て
『俺もやれば出来るんじゃん、もう元の世界に戻るのいやだ~!やっとモテ期来ました!』
とますますこの世界が好きになった。
一方クリューズの方に目をやると、いくつか気に入ったようなものを並べ迷っているようだった。
触ってはうんうん、と言い、2つを見比べては首を傾げている。
「クリューズさん、迷ってるのならそれ全部でいいですよ」
とオサムが言うと
「なんですと!?この世に二つと無い宝物ですぞ?」
「んー・・・けどこれ全部で5万円くらいなんですよ、実は」とぶっちゃけた
「銀貨5万枚ですか!?やはり宝物ではないですか!」
と言いながら嬉しそうに選んだ全てを身に着け始めていた。
その言葉を聞いたのか、侍女が「あの、ではこのペンダントは?」と訊かれ
「えーとそれは確か4千円くらいですね、そんなに高価なものではないですよ」
とオサムが言うと
「銀貨4千枚ですか?私には一生買えません、いただけません!」と返そうとしたので
「だーめ、それはもう君の物。君の美しさがそれを手に入れさせたんだから持ってなよ」
『ダメだ、クサ過ぎて鳥肌が立ってきた、映画とかよくこんなこと言えるよな』
オサムは自分が嫌になってきていた
そうこうしているうちに別の侍女が呼びに来た。
どうやら、城の宴席で自分が紹介されるらしい。
『浮かれてる場合じゃねーじゃんよ俺、作法とか全く知らねーぞ』
今更慌てたところで仕方がない
腹を決めて、宴席だか夜会だかの会場へとオサムは向かっていった。




