第5話 国の始まり
毎日何もやることがない。オサムは伯爵に頼んで本を取り寄せてもらった。
銀貨10万枚、例の塔で40万枚貰えたから伯爵は驚いては居なかった。
各国の本をありったけ取り寄せてくれ、オサムの部屋はちょっとした図書館になっていた。
魔法書も含め殆どの書物が揃っているだろう。
国によって文字も言語も違うのだが、オサムは全てを読むことが出来た。
そしてオサムは問題を抱えていた。風呂がない。トイレもひどい作りだ。
オサムはクライアンに防水のマジックバッグを数多く注文していた。
湖がそのまま入るほどの大型のバッグで、暇を見つけてはリーファに乗って誰もが到底来れない湧き水が出る場所に置きっぱなしにして汲んで蓄えていた。
新しいマジックバッグの中は時間が極めてゆっくりと流れるので食べ物も飲み物も痛む事は無いらしい。
一国が数年間必要とする程度の膨大な量の清水をオサムは蓄えていた。
これで上水道は作らなくて済む。
屋敷がもうすぐ出来上がる、と言う段階でオサムは風呂と水洗トイレを作らせた。
設計はオサムが行い、石工が風呂を作りビーツが湯沸かし装置を作った。
しかし、流石にトイレの方は排水が大掛かりな工事となった。
城の方からも水は引いてきていたが量に限りがあるため使わないことにした。
これらの工事のため若干工期が伸びたが、自分のポケットマネーから銀貨300枚を支払った。
屋敷が出来上がり、従者3人とリムルを含め侍女が2人、執事と召使いが6人
それらが屋敷に移ってきた。
早速オサムは風呂へ入りゆったりと出来た。何故かリムルを誘おうとしたが、それはやめた。
代わりに従者3名と入ることにした。
かなり評判が良く、召使い達も夕食後に使うようになっていた。
「これはご主人様が考えて作られたとか?」
クイード・ローレンダーク
タキトス・シュルツ
ハンビィ・ストワード
この3名が従者なのだが、不思議とオサムは最初から知っているかのように思えていた。
「そうだね、俺はこれがないと疲れが取れないから」そう言って体を洗っていた。
オサムが自分の体を自ら洗っていると聞いて、リムルもオサムと一緒に入るようになった。
「ありがとう、助かるよ、リムル。背中に手が届かなくてね」
「けど裸で恥ずかしくない?無理しなくてもいいよ?」オサムが言うと
「ご主人様の侍女ですから、少し恥ずかしいですけど」リムルは笑った。
オサムの設計した様々な物はうまく機能していた。
もちろんビーツやクライアンの腕の結果だが。
そして、ビーツに頼んだレイピアが出来上がった。仕上がりは完璧だった。
クライアンからも色々とマジックアイテムが届く。
オサムはそれらを試しては気に入った物を使っていた。
しかしやることと言えば月に数回の城での夕食会くらいで日がな一日本を読んでいた。
時々街に出かけては買い物をして帰る。
他にはビーツに従者用の甲冑や剣を作らせて冒険に行かせていた。
オサムはかなり暇を持て余していた。この世界での記憶が戻る様子もない。
様子を見とくか、その内色んな国を見て回ろう。と考えていた。
時々アレシャルの塔に行っては数回クリアして帰ってくる。
その内ペガサスの笛やグレートドラゴンの笛を幾つか手に入れた。
リーファには気を遣ってしまうのでペガサスに乗ることにした。
この世界で最強のモンスターはグレートドラゴンだと教えられていたが、
オサムにとっては弱い相手なので、ペガサスやグリフォン、時にはグレートドラゴンに乗っていろいろなダンジョンをクリアした。
ダンジョン毎に出てくるモンスターが違うため、暇つぶしには丁度良かった。
夜は屋敷に帰るので半日で戻れる場所、とは言ってもほぼ全てのダンジョンに行ける。
オサムはドラゴンやナイトメア、ヴァルキリーやガルダの出るダンジョンも1時間以内で出てこれる。
メラススの塔と言う200層もあるダンジョンでも3時間も掛からない。
オサムの手持ちの銀貨やレアアイテムは増える一方だった。
ヴァレスというモンスターの革を特に多く集めた。
マジックバッグの材料らしいので、従者3人にも持たせるため数多く作ってもらった。
従者達のレベルに合わせて装備も作り続けさせた。
オサムはその頃になると、すべての本を読んでしまっていた。1日数冊読んでしまう。
「もっと便利にするために元の世界の専門書がほしいな。」
オサムはグランパープルに飛んだ。
元の世界に少しの間だけでも戻る事はできないのか、と問うた。
”今のオサムなら可能”だという。
エンフォーセとオサムの力で一時的にだが帰れるらしい。
早速オサムは元の世界で着ていても問題の無さそうな服や靴を作らせた。
そしてグランパープルの”次元の聖殿”という場所から以前の自分の世界へと戻った。
3日と居ることが出来ないということなので、急いで本を買い集めた。
それを繰り返し、元の世界の専門書を何千冊と買った。
不思議なことに毎回戻るごとに同じ日の同じ時間に出る。
飛行機に乗る約1ヶ月前だった。
書籍用のマジックバッグには1万冊近い書籍が入っていた。
オサムは2階の客間の1つを改装し据え付けで本棚を作らせた。
戦闘力だけではなく知識も世界では一番になっていった。
暇潰しでの読書だったが、この世界にも応用出来ることを多く知ることになった。
ある日、城が騒がしいので外を見ると騎士や剣士がかなりの数集まっていた。
どうやら戦争があるらしい。
あまり聞きたくなかったが総大将のクリューズに尋ねると、隣の伯爵領が襲われたらしい。
村を3つ滅ぼして、女性も酷い目に遭わされたという。
オサムはリムルの話を思い出した。
平和に暮らしていた村が突然襲われ両親を殺された。
この世界では当たり前のことらしいが、オサムには違う。決して許せない行いだ。
オサムは参加することにした。
クリューズは悩んだようだが「頼めるのなら」と承知した。
今行軍中の敵部隊を全滅させるか追い払うのだと言う。
そして騎士達は出発した。
オサムはペガサスで行くことにしたので部屋に戻り黒い甲冑と剣を装備して飛んだ。
クリューズ達を追い抜き30分程で現地に到着した。
兜を取り、伯爵の軍へ行くと伯爵本人が居たので
事情を説明し、戦いに参加することとなった。
オサムはナイトメアに乗り換えて単騎で駆け出した。
「何故罪もない村人を殺したんだ!」敵の兵士にも家族はいるだろう、しかし兵とは死の覚悟を決めた者達だ。
「遠慮はしない、また同じようなことをするんだろう」オサムは全滅させることにした。
敵の正面50mの位置から「フレイムスパーク!」「セイヴァースラッシュ!」横一閃剣を振った。
真空の刃と凄まじい炎が敵軍を斬り倒し、焼き尽くした。一撃で敵は全滅した。
オサムは陣地に戻り伯爵に「この後クリューズという者が来るので」と言うと帰っていった。
数日の間、本を読みながらオサムは考えていた。
罪のない村を襲った軍と自分が殺した兵達。結果だけを見ると自分のほうがより多く殺している。
日本で生まれ育ったオサムだが、ニュースやネットで戦争の悲惨さは知っていた。
しかし自分が巻き込まれるとは考えていなかった。
オサムは「孫氏」を手に取ってパラパラとめくっていった。
”兵は拙速を聞くも、いまだ巧久を賭ざるなり”
これが全てに当てはまるわけではないが、伯爵の兵の損耗は一兵も無かった。
それで良しとしておくことにした。しかし心には傷として残るだろう。
10日程してクリューズが帰ってきた。そしてオサムの屋敷を訪ねた。
「エリトール様、一撃で敵軍を全滅させたとか?伯爵や騎士達が恐れていました」
「あまり力を使い過ぎぬようお願いします。説明に苦慮しました、聖騎士とは言えませんので」
クリューズはやんわりと説教をしたが
「そうですよね、やりすぎたとは思います。」オサムが言うと
「おわかり下さっていただければ良いのです。それと、伯爵が礼をしたいと言われてました」
『礼か、お金はたくさん持ってるし正直要らないけど、断るのも失礼だし』オサムは考え
「そうですか、わかりました」とだけ答えた。
そしてクリューズは帰っていった。
オサムはリムルと共に朝食を摂り、最近ずっと行っているダンジョンに向かった。
メラススの塔。恐らくこの世界で最強なのだろう。アレシャルの塔には居ないモンスターも出る。
特に急いだわけではないが4時間で2回クリアした。
オサムはヴァレスの革とその他のレアアイテムで作ったグランパープルの革袋を大小2つ付けていた。
大きいものがいっぱいになると換金をし、レアアイテムはクライアンとビーツに届ける。
その内”黒騎士”の噂が広まった。
冒険者は決まった国に所属しておらず、自由に国を巡れるが、オサムは違った。
伯爵から騎士位を貰っているためライツェン国に属している。
しかし、グレーシア帝国皇帝は寛大な方なのだろう。領内のダンジョンは自由にしても良いらしい。
これが各国に伝わったのか、他国の殆ども同じような扱いをしてくれた。
いつものようにメラススの塔に昼前に到着した時、10騎の騎士が集まっていた。
オサムがグリフォンで降りるとこちらに向かってくる。
剣は抜いてない、槍も持っていない。
なんだろう?と短剣だけに手をかけていた。
「貴方がアキバ・オサム・エリトールでしょうか?」騎士が尋ねてきた。
「そうですが、何か御用ですか?」オサムが訊き返すと
「皇帝陛下より命を受けて待っておりました、帝都に行っていただけないでしょうか?」
どうやらグリーシア帝国の皇帝がオサムに用があるらしいが、思案した。
「陛下に謁見でしょうか?しかし何故?この武装のままでも良いのですか?」
オサムが確かめると「はい、剣もそのままで、と言われております」
不思議に思ったが、塔の件で礼を言わなければならない。
「分かりました」と言ってオサムはグリフォンでグレーシア帝都に向かった。
帝都の外に到着し、門番に「ライツェン国のエリトールというものですが」そう言うと
「陛下がお待ちです。これを渡すように言われています」
門番に書類を手渡された。
そのままずっと街並みを見ながら城へと歩いていった。
「かなり広いな、城も相当大きい」オサムは良く整えられた街を楽しんでいた。
城に到着し、書類を見せると2名の騎士に城へ案内された。
やはり城は中も広い。しかも入り組んでいるので迷うに違いないとオサムは思った。
皇帝は豪華な部屋で待っていた。
オサムが通されると、じっとオサムを見て
「その剣を扱うことが出来ますのか?」挨拶もしないで尋ねてきた
「はい、話というのはそのことだけですか?」オサムは次に何を訊かれるのか予想出来ない。
「そうではありませんが、インペリアルセイヴァーレベル500の剣・・・」
黙ってしまったが、ただ考え込んでるだけのようだ。
「国を渡すので私の臣下になるつもりはありませぬか?」皇帝が聞いてきた。
オサムは少し混乱したが、引き抜きか?と考え
「申し訳有りませんが主はもう居りますので」そう答えた。
しかし皇帝は引かなかった。
「帝国の一番西の地に隣国グリオンとレギオーラが攻めてくるので民達が苦しんでおりまして」
「聖騎士であられるエリトール様が城主として治めてくれればそれもなくなるのですが」
明らかにオサムの気になることを突いてくる。
「正式な返答は出来ませんが、私の名を使うことで民衆が少しでも助かるのなら」
「しかし、我が主に一度聞いてきてもよろしいでしょうか?その後正式に返答します」
オサムは一度伯爵の城へ戻り、伯爵を訪ねて今回の件を全て話した。
「グランパープル聖国から預かっているだけなので問題は無いだろう。」
「我が国の陛下の家臣ではないしな。他国に領地を持つ王も居る。」
そう言われたので、そのままグリーシア皇帝に伝えた。
「ただ、常駐出来るわけでは無いので領地経営が出来ません」オサムが言うと
「あの地は皇帝直轄領となっております、名前だけで良いのです」
「しかし実際に治めてもらっても構いません。聖騎士様の国となりますので」
グリーシア皇帝はオサムの住むライツェン国の半分程度の国をオサムに与えた。
形式上では無く実際にオサムの国ということで国名もオサムがつい口にしたグレイス王国とした。
グリーシア帝国の一部だったが独立し、固い同盟を結ぶこととなった。
グリーシア帝国のプロトン・グリーシア皇帝といえば勇猛な将であり名君でもある。
オサムの持つ力を十分に使い、レギオーラ、グリオン、エスカニア各王国に使者も送った。
聖騎士の力は一国の兵力を軽く凌ぐ。それを直接では無いとしても持っている。
3カ国は手出しができなくなった。
オサム自身は何もしなくてもその「銘」は畏怖され敬われる。
事実として国境での小競り合いすら無くなった。
オサムは国王としては何もしないが、多くの民や兵士の命を救ったことになる。
ただ、当の本人であるオサムは相変わらずのんびりと過ごすことにした。




