剣になれない人剣 1
「いや! 離して!!」
街道の真ん中で人相の悪い男二人と緑髪の女の子がもめていた。
「大事な売りもん逃がすわけないだろうが!」
「お前は売られたんだ。帰るとこもねぇんだよ!」
ガタイのいい男に捕まれ、強引に馬車へと連れ戻されようとする女の子。
その子が土まみれになっている所を見ると、決死の覚悟で馬車から飛び降りたのだろう。
「おい、その子を放せ」
外の世界に来てみたら、いきなり胸糞悪い光景に出会ったもんだ。
「なんだてめぇ? 王子様気取りか?」
「痛い目見たくなけりゃ見て見ぬフリしときな」
二人は小馬鹿にした態度で女の子を馬車へ押し込もうとする。
「お願い! 助けて!!」
悲痛に助けを叫ぶ女の子を助けない人などいるのだろうか?
「わかった、すぐに助けてやる」
腰に携えた鉄製の剣を右手で抜く。
「なんだ? そのなまくらでやるのか小僧? こいつ捕まえとけ」
ガタイのいい男が女の子をもう一人に渡し、腰から短剣を取り出した。
「今更泣き言吐いてもしょうがねぇからな!」
言い終わりと同時に短剣を突き出す男。
その鈍い突きを半身捻って回避し、そのまま袈裟に剣を叩き付ける。
稽古用にできた鉄製の剣には刃がなかった。
斬ることが出来ないため、叩き付ける形になった。
その打撃を受けた男は後ろ向きへ倒れ、身もだえた。
刃があれば胴体を真っ二つにできる程の速度で叩き付けたのだから、肋骨を砕くのは易い話だった。
「次はお前か?」
「く、くそぅ! そんな装化できねぇ人剣なんかくれてやるよ!」
そういって女の子を手放し、ガタイのいい男を馬車に乗せ逃げていった。
「あの……ありがとうございます」
涙を浮かべ、深々と礼をする女の子。
「いいってことよ! そんじゃ気をつけろよ!」
初めてした人助けは気分がいい。
浮かれた気持ちで先を行こうとした時、
「私も連れて行って下さい……」
両手で服を掴み、女の子は小さく震えていた。