未来へ
そして、ある日の放課後。
「永里、彼氏が部活行こうってさ。廊下で待ってるよ!」
クラスメイトの声が聴こえた。永里は鞄に教科書を詰め込む。今日は帰りのホームルームが長かった。多分、もう他の部員は道場にいて稽古の支度を始めている頃だ。
「分かった!急いでる!」
急げば余計な失敗もする。あ……と思った時には遅かった。
ガシャーン!
ペンケースがきちんと閉まっておらず、床に中身をばらまいてしまった。
「ああ、もう!」
永里はしゃがんで拾い始めた。女の子にありがちな色とりどりのペン。結構な数があり、散らばったペンを拾う。
その時、自分の頭に影があるのに気が付く。
「ほら、何やってるんだか」
永里が顔を上げると、そこには誠がいた。くっくっと笑い、最後のペンを拾い上げた。そして永里に手渡す。廊下で待っているんじゃなかったのか。変な所を見られてしまった。
「ありがと」
そう言うと二人して立ち上がり、永里はペンケースを鞄にしまった。
「どういたしまして」
誠は微笑んでいて、永里を急かすことはない。いつも待っていてくれる。
まだ、多くの生徒が教室に残っているため、誠と永里のやり取りを皆がチラチラと様子を窺う。少し前までは永里は『彼氏』ということを否定していたが、今では堂々と仲睦まじい姿を見せている。それでなくても、誠の容姿は目を引く。
「じゃあ、行こっか」
誠が永里の支度が終わると見計らって声を掛けた。永里が頷くと、教室のドアに向けて机をよけながら進む。
「永里、高科くんと仲いいね」
永里達に声を掛けたクラスメイトの声に二人で足を止めた。
「まあね。彼氏だしね」
永里はサラっと言った後、隣にいる誠を見上げると嬉しそうに笑っていた。ぽんぽんと頭を優しく叩き、嬉しさを表している。こういう何気ないスキンシップが好きだ。
目の端に面白くなさそうな女子が数人映った。ああ、誠を好きな女子か。しかし、三津や佐和子の本気で向かってくる嫌がらせに比べれば、そんな視線は何でもない。まだ永姫の生々しい記憶が残っている……二人とのやりとりも……。少し打たれ強くなったかな。ちょっと勝ち誇ったように、顔を背けてふっと笑ってしまった。意地が悪いかも……なんて思った時。
「ほら、俺の彼女さん。部活に遅れるよ、行こう?」
他の人にも聴こえるような声で、そして、まるで見せつけるように背中を押す。永里は『うん』と頷いた。気持ちが通じ合い、過去も知った今、誠との繋がりは今まで以上に強いものがある。きっと、この先も続いていき、いずれ夫婦となるのだろう。学生の時の恋愛じゃない、ずっと続くもの……そんな確信がある。
「どうしたの?永里?」
少し考え込んだ永里の顔を隣から覗き込んだ。
「ずっと一緒だよね」
誠に聴こえるかどうかの大きさで呟いた。周りは放課後の喧騒に包まれている。
ただの独り言だ。だが、誠の耳には届いたようで、歩きながらも永里の頭を片腕で引き寄せた。人がいるいない、お構いなしだ。
「当たり前だろ。昔も今も、そんで未来も……ずっと永里と一緒だよ。絶対に見つけるから。いつの時代も……そうだな……かっこよく言えば、時を超えても永里が好きだよ」
誠は真顔で言ったが、永里は抱えられた腕の中で盛大に吹いた。
「かっこつけすぎ」
永里は誠の腕から離れて、先に廊下を走りだした。面白くない顔をした誠が後を追う。きっと、何気ないことで笑い合い続いていくのだろう。永里が後ろを振り返ると、誠の笑顔が飛び込んだ。
数年後、永里と誠は結婚した。あの永姫と一誠の生きていた数百年の後の世に再び、成島家と高科家が結ばれるとあって、周りは運命だと言った。
だが、本当に永姫と一誠が今の世で再び結ばれたのは、祖母の佳と永里、誠の生まれ変わった本人だけしか知らない。次の世で二人が出会う運命は、誠の言うように続くのかもしれない。




