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あなたがいるこの世界で  作者: 宮沢弘
第二章: ゆらぎ
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2−1: トム・ガードナー 2

 イルヴィンとテリーは20万ユニットの状態表示を眺めていた。

「通常運転」

 イルヴィンはそう呟いた。10枚の大型ディスプレイが示す状態は、そすべてがブルー、グリーン、イエローの間を行き来している。まれにオレンジになることもあるが、およそすぐにイエロー以下の状態に戻った。むしろ、イエローの数はいつもより少なく、グリーンで安定しているようにも見えた。

「いいことだ」

 テリーが応えた。

 手前のディスプレイでも稼働率は90数%を超え、正常率もまた90%を超えていた。

 いいことだ。イルヴィンもそう思った時、机の内線が鳴った。驚きながらも、イルヴィンは受話器を取った。

「サービス・カウンターです。トム・ガードナーについてのデータが更新されましたので、ペアとなっているイルヴィン・フェイガンにお伝えします」

「あぁ、それでいつ戻れそうなんだ?」

「トム・ガードナーは本日3時ごろ、死亡しました。これにより、イルヴィン・フェイガンの現在のパートナーは正式に、元交代要員であるテリー・ジェラルドになっています」

「トムの死因はわかっているんだろうな?」

 数秒の沈黙があった。

「トム・ガードナーの死因は不明です」

「なら、葬儀は?」

「移送先の近くに親族がおり、親族のみの密葬を行ないます」

 イルヴィンはしばらく考えていた。同僚が倒れ、病院からは移送によって消え、亡くなり、その上遺体は戻ってくることもなく密葬される。いや、親族がそちらなら、密葬のあたりについてはおかしくはないか。

 イルヴィンは受話器を胸に当て、テリーに顔を向けた。

「テリー、君の出身はどこだ?」

「隣ですよ。本社がある州です。そうは言っても、赤ん坊の時にこっちに来てるから、実際出身と言えるかどうかだけど」

 イルヴィンは思った。少なくとも私の出身はそこではない。だが、トムの親族がそっちにいる? 里帰りの話も聞いたことはないが。

 イルヴィンは受話器を胸から離した。

「弔花は送れるかな?」

「そのように手配します。以上、よろしいですか?」

「あぁ、ありがとう」

 イルヴィンは受話器を置いた。席を立つと、隣のテリーの横に立った。

「おめでとう。正式に俺のパートナーだ」

 イルヴィンは右手を差し出した。

「あー、そうなんですか? ありがとう」

 テリーは握り返した。

「それは嬉しいですけど、前の人は?」

 イルヴィンは手を離した。

「亡くなったそうだ」

「急な話で……」

 テリーはもみあげのあたりを掻いていた。

 自分の席に戻りながら、イルヴィンが言った。

「君が好きな陰謀論にとっては都合がいいんじゃないか?」

 テリーはイルヴィンに顔を向け、言った。

「あの、言っておきますけど。人が亡くなったのを都合がいいとか考えませんよ、僕でも」

「そうなのか? ユニット交換中に監視員が倒れ、病院からは移送され、そして亡くなった。ついでに言えば、あっちの州での親族での密葬だそうだ」

 椅子が強く押される音がし、また何かが叩かれる音がした。

 イルヴィンがテリーを見ると、テリーは立ち上がり、テーブルに拳を当てていた。

「あなたこそ、どうかしてるんじゃないか?」

「そうかもな、」

 イルヴィンは椅子に背を預けた。

「だが、随分都合が良い話だとは思わないか?」

「あんなのは、都市伝説だ。昨日、ネタにしたことを根に持っているのか? 俺なんかにすれば、ネタとして都合がいいだけだと思っているのか? 都市伝説なんてのは、どこかで『友人の友人が言ってたけど』で終るものなんだよ。前任者がそうでしたなんてのは、もし本当にそうだったとしても、ネタになんか使えないんだよ」

 その剣幕に押されながら、イルヴィンは答えた。

「そうじゃないんだ。済まない。君のことを言ったわけじゃないんだ」

 テリーはまだ肩で息をしており、興奮が落ち着いた様子ではなかった。

「昨夜、友人とその手の話をしたんだ。技術的に可能かとかね。それが頭に残っていただけなんだ」

 テリーは一度大きく深呼吸をし、席に着いた。

「わかってくれればいいんだ。こんな話は、それが本当だろうとどうだろうと漏らさないよ。俺みたいな都市伝説の愛好家は、実際にどうだったかなんてことを知ったって、そんなのはむしろ隠すんだ。少なくとも肝心な箇所は。都市伝説ってのはただの怪談じゃないんだ。ありえそうで、でもわからなくて、しかも『友人の友人』で堂々巡りする。そういうのを楽しむんだ」

「そういうものなのか? 昨夜話した友人は、追跡した研究があると言っていたが」

 テリーは首を横に振った。

「じゃぁ、その論文なり本なりを読んでみろよ。いくつかは、これが元ネタかもしれないってのは書いてあるだろうな。だけどな、結局『友人の友人』で終っているって書いてあるはずだ。興味があるなら、内容を送ってやってもいい。論文も本も、都市伝説そのものについても」

「そうか、」

 イルヴィンは上着から端末を取り出し、テリーへと手を伸ばした。

「頼もうかな」

 テリーはそれを受け取り、しばらく操作した後で、それをイルヴィンに返した。

「いいか? トムのことがあるから注意しとくけど、趣味として楽しむっていう姿勢を忘れるなよ。飲み込まれるなよ」

「わかった。注意するよ」

 そう応え、イルヴィンは端末をポケットに收めた。


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