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あなたがいるこの世界で  作者: 宮沢弘
第四章: もしも私が
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4−1: マニュアル

 イルヴィンとテリーは20万ユニットの状態表示を眺めていた。

「通常運転」

 イルヴィンはそう呟いた。10枚の大型ディスプレイが示す状態は、そのすべてがブルー、グリーン、イエローの間を行き来している。まれにオレンジになることもあるが、およそすぐにイエロー以下の状態に戻った。

「それが一番」

 テリーが応えた。

 手前のディスプレイでも稼働率は90数%を超え、正常率もほぼ90%を超えていた。

「昨夜、考えたんだが、」

 手前のディスプレイを眺めながらイルヴィンが訊ねた。

「ユニットのパージの記録はここで読めるのかな?」

「マニュアルにはないのか?」

「いや、実は俺も読み込んではいないんだ」

 テリーは静かに声を挙げて笑った。

「マニュアルを読んどけって言ってた奴もそれか?」

「『本当にマニュアルを読んでいないんだな』と言ったことは謝るよ」

 イルヴィンはそう言うと、部屋の片隅の書架から二冊のバインダーを持って来ると、机に置いた。一冊のバインダーの厚みは1cmほどであり、もう一冊のバインダーは10cmはありそうなものだった。

「マニュアルは二部構成になっているんだが、」

 そう言い、薄いバインダーを持ち上げた。その表紙には「第一部: 必須」と印刷された紙が透明なビニールと厚紙の間に挟み込まれていた。

「俺も読んだのはこっちだけなんだ。テリーは交代要員から正規になったばかりだから、講習を受けるのはまだかな」

「やっと、予定が入ったとこ」

 テリーは端末を確認した。

「3日後だ」

「そうか。そこで聞くと思うが、オペレータはこの一冊だけ読んでおけばいいんだ。第二部は規則上置いておくとね。だが、今はこっちには用はない」

 イルヴィンは薄いバインダーを脇に寄せ、厚いバインダーを机の中央に置いた。バインダーを開くと十ページの目次が始めに綴じられていた。

「目次で十ページってのはどういうことだ?」

「それくらいどうってこともないだろう?」

 テリーが椅子を引き摺ってイルヴィンの横に来た。テリーはバインダーを自分に向けると目次と、それに続く数ページを確認した。

「なんだこれ。この第二部ってのは非常時や緊急時の話だぞ」

 そう言うとバインダーを引っくり返し、後から開いた。目次と本文よりも小さなフォントで、索引があった。

「とりあえず『履歴』を見てみるが…… 当りとは限らないぞ。操作の履歴しかないかもしれない」

 テリーが指で差した『履歴』の項目には、20程の数が並んでいた。その数字を見ながら、テリーは本文のページを何回か開いた。その後、イルヴィンの机の上と、自分の机の上を見た。

「どうした?」

 その様子を見て、イルヴィンは訊ねた。

「いや…… これ、ここじゃ無理だ。キーボードが必要だ。それともディスプレイにキーボードが出てくるのか?」

 イルヴィンは手前のディスプレイを眺めた。

「これまで、ディスプレイにキーボードが出てくるような操作はなかったな」

 手前のディスプレイには稼働率と正常率の表示しかなく、パージの際の「YES/NO」にタッチする以外の操作はこれまで見たことがなかった。画面のどこにも、プルダウンを示すだろう表示もなかった。

「キーボードを繋ぐ必要があるのか?」

「あぁ。これを見てみろ。コマンドを入力するとしか読めない」

「それの最初の方にキーボードをどうするか書いてないのか?」

 テリーはまたバインダーに綴じられた資料の始めの部分と、そして索引を確認した。

「どこにも何もなさそうだ。索引にもキーボードという項目すらない。もし本当にその記載がないなら、確かにあんたが言ったとおり、オペレータは第一部だけ読んでおけばいい。それにこっちを読んでも意味がない」

 イルヴィンはまた手前のディスプレイを眺めた。

「パージ履歴を表示」

 そう言ったが、ディスプレイには何の変化もなかった。

「ユニット交換履歴を表示」

 そうも言ったが、やはりディスプレイには何の変化もなかった。

「なぁ、」

 その様子を見てテリーが言った。

「何かあったのか? トムの時には、あんたここにいたんだよな? それならそんなものを見ようとする必要はない。それとも、パージされたユニットを確認しようっていうのか?」

 イルヴィンはテリーの目を見た。

「どのユニットが何なのかなんてわからないだろう。キーボードはサービス・カウンターで頼めないかな」

「何かあったんだな?」

 テリーは椅子から立ち、イルヴィンの机のディスプレイの側面と裏を見た。

「空いてるコネクタはあるな」

 テリーはイルヴィンの机の上にある内線を取った。

「キーボードが欲しいんだが…… あぁ、そうか」

 テリーは内線をイルヴィンに突き出した。

「あんたなら権限があるってさ」

 イルヴィンは内線をテリーから受け取り、キーボードが必要だとサービス・カウンターに伝えた。


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