挫折
数日後1着の白いワンピースを持った久米田がやってきた。少しやつれてはいたが、そして丹下に改まって頭を下げ
「あの、お願いがあるんですが…最後まで見ていてもいいですか?」
「ん、別にいいよ?久米田君もどんな出来か気になるだろうし、ただし!手伝って貰うけどいいかな?」
顔を上げて「ハイ!」と嬉しそうだった。そして出来上がったワンピースを前に4人で、どう撮るかの相談する事となった。テッキリこの前と同じでココで撮影するものだと思っていると、丹下が外で撮影したいと言い出した。恵は難色を示したが丹下が、どうしてもと譲らず恵が根負けしたが、決してバレないようにと念を押していた。
「恵君から、O.K.が出た事だから来月の話を決めよう来月の満月はいつかな」
スマホを取り出し専用アプリを呼び出しみると
「……金曜らしい」
皆が一斉に丹下を見た。
「イヤイヤ!待ってよ今さっきO.K.したよね?代えないよ、頑張ろう?久米田君だって手伝うって」
「………」
丹下は必死に4人の説得をして色々決まった。そして満月の日がたってきた。丹下と久米田の二人は現地で準備をすると朝から行っている。オレ達は学校があるから、終わったら直ぐに現地に向かう手筈となった。目的地は学校から近くの公園を通りぬければ早かった。授業が終わり恵と公園のトイレの前で着替えようと入ろうとすると、恵が前に立ち
「ちょっと待って椿!そっちじゃないだろ!こっちだろ!」
「はぁ?そっちは女子トイレだぞ!」
「何言ってるの!もう月が出てて椿は今、女性
だろ?それで男子トイレは無いよ!」
「イヤイヤ、女子トイレは無理だぞオレ変態じゃ無い!それに今なら男子トイレ誰も入って無いからいいだろ?」
「ダメ!途中で誰か入って来たらどうすんの?椿対処出来るの?時間も無いし女子トイレ今誰も居ないから、早く着替えて来なよ!」
背中を押され、後ろを振り返りながら渋々女子トイレに入って焦った。物凄いスピードで個室に入り着替えた、何とか誰にも会う事も無く出ると恵が
「何もう着替えたの?早いね」
ニヤと笑っていた。人が恥を忍んで女子トイレに入ったのに…いつか仕返しを心に誓った。
「……覚えてろ!恵」
「それじゃ、荷物頂戴?駅のロッカーに仕舞うから」
オレの言葉をスルーされた。ムッとしたが
「いいのか、寄り道なんかして」
「いいんだよ、それに荷物重いし駅だってそこだよ?寄り道ってほどじゃないだろ?さ椿の貸して?」
二人の荷物をロッカーに押し込んで恵がやれやれと
「それじゃ、行こうかー椿。それにしてもその姿だと本当に女性だよね」
「何が言いたいんだよ恵?」
「んー、何も?」
含む言い方にイライラと、前を歩く恵を追い抜き、早足で進と恵が後ろで「椿!」と呼んでる。咄嗟に振りかえると急に強い突風が吹き長い髪が舞った。その時前からやって来た人とぶつかってしまった、
反動で倒れそうだったが腕を捕まれなんとか助かった。
「うわ!」
咄嗟に離れようと藻掻くと、引き攣れた痛みが、どうやら自分の髪がぶつかった人の服に絡まっているようだ
「イタタタ、イテー、動くな痛い!恵!これどうにかしてくれ!オレじゃ見えん」
「んもー何やってんのさ、椿大丈夫?……!」
すると目の男が
「え?」
と驚いた声がし、何事だと無理矢理顔を見ると、そこに居たのは会長その人だった。会長は覗き込むようにジット見詰め、疑わしげに
「あれ……もしかして?」
会長が言い終わる間もなく
「違う!」
咄嗟に言って顔を背け、会長の服に絡まっていた髪の毛を引きちぎった。ブチブチと嫌な音がしたが、構ってはいられない、側でアタフタしていた恵の腕を掴み走った。我に返った会長が
「ちょっと、待ってくれ」
と叫んでいたが、必死に走った。ハアハアっと息を切らせて、恵を見ると苦しそうにしている。
「追っ手きてないよな?」
「大丈夫そうだよ、一端落ち着こう…苦し」
ゼェゼェと側に在ったベンチに座り
「何で、あんな所に会長がいるんだ?」
「知らないよ、まったく!どうすんの!これ」
「知らねーよオレが聞いてんだろ!」
「あーダメだ。これ一端保留にしよう椿?ボク達今マトモな事出ない、埒があかない」
いいね?と聞かれ頷くと、恵が
「それにしても…髪の毛大丈夫?凄い音したけど椿痛いんじゃないの?」
そう言われてみれば、ジンジンと地肌が痛い。そっと触れ
「ハゲてないよな…?」
「ハゲては無いけど…何か爆発に巻き込まれたみたいになってる…それ、どうにかしないと、ダメぽい」
「どうにかってどうするんだよ?直さないとダメか?」
う~んと恵が唸って
「ダメだね、どっかに美容室ないかな」
えーと嫌な顔をしたら恵が、だったら丹下さん達の前にその姿で行けるの?と凄まれ答えられず二人美容室を探した、流石に丹下と久米田の苦労を思うとそれは出来無かった。恵と二人暗い住宅街を美容室を探し歩いていた。
「なぁ、こんな所に美容室何かあんのか?」
「仕方無いだろ!だったらさっき在った美容室戻る?椿ボクはそれで良いんだよ?」
怒った。さっき見た美容室は大通りに在って人通りも在ったからパスしてから恵の機嫌が良くない、事ある事にネチネチと嫌味を言ってくる。
「人通りの多い美容室は嫌に決まってんだろ!只でさえこんな服着てんのに」
「だったら、しっかり探して!文句言ってないで…あれ?あそこのって美容室かな?明かり点いて無いけど…」
確かに電気は点いてないけど、それっぽい。
「ねぇこれ終わってない?」
ガラスドアの奥を覗き込むと、どうやら奥に明かりが見え数人の人が見えた。
「奥に人が居る!恵入るぞ」
ドアを引くと開いた、鍵は掛けられておらず、チリンと音がしたが中の連中は気がつかなかった。恵が後ろから
「勝手に入るのヤバイよ!」
言われたが、こんな事早く終わらせたいと奥に進むと、一人の男を中心に5、6人が回りに居た、その中の男が悔しげに
「何で…こんな事に…!」
中心の男が頭を下げながら
「皆、今までこの店で頑張ってくれて本当にありがとう!こんな形で店を閉じてしまうのは…申し訳無いと思っている」
とたん回りの連中が一斉に顔を上げて
「何言ってるんですか!店長は何も悪く無い!悪いのは原の奴のせいなのに!アイツが店長のアイディアを流して、店長をおとしめやがって!そのせいで悪い噂が立って常連客も来なくなって…こんな」
泣きながら怒っている、他の人も同じ気持ちなのかすすり泣いていた、悔しいと。これはなんと言うかヤバイ時に入ってしまったか、どうしようか、一端退くかと思って止まると、後ろの恵が背中にぶつかった。
「ちょっとイキナリ止まらないでよ!鼻ぶつかったじゃん」
この空気が嫌とも言えず、仕方無く前に進み声をかけた。
「オイ、ちょっといいか?」
全員が一斉に見て、何だコイツと言う目だ。一瞬怯みかけたが、ぐっとこらえて
「あー悪いんだけど、髪をやって欲しいんだけど」
早口に言うと、さっきわめいていた男が
「もう終わってるから、よそに行ってくれ!」
ぞんざいに言われムッとしたが、他の連中もそうなのかヤル気が無いのか何も言わない、ダメかと思っていると、店長と呼ばれていた男が、いつの間にか目の前に来て居て
「いいですよ?」
店の連中がざわついた。
「何言ってるんですか店長」
「そうですよ!もういいでしょう店長」
店長と呼ばれた男は回りの連中に
「折角来てくれたんだ。それよりこれ」
ポケットから財布を取り出し数枚の札を出し
「これで、皆でご飯食べておいで?」
「だったら里見さんも行きましょう?」
里見と言われた男は首を振り
「今日は皆で行っておいで」
お願いと言うと男は渋々
「分かりました。今日の所は皆と食ってきますが次の時は里見さんも一緒ですよ?」
里見が頷くと男はスタッフを引き連れて奥の部屋から出て行った。それぞれのスタッフから
「お先に失礼します、また明日きます」
「ああ、明日」
里見が手を振りスタッフを見送り、こっちを見て
「さあ、こちらにどうぞ?」
椅子に通され座ると、今まで何も喋らなかった恵が
「本当にスイマセン。何か大変な時に」
頭を下げてお礼を言うと里見は両手を振りながら
「大丈夫ですよ、そちらこそ気を使わなくていいんですよ?」
どうやら、大分お人好しだと確信した、そんなんで騙された口だろう、恵もそう思ったんだろう何も言わず頭を下げた。当の本人は
「キレイな髪だね?」
丁寧に髪を解かしてじっと一点を見て
「ここ、どうしたの?何か引っかけた?凄いよ」
「さっきやったんだよ、痛いからあんま触るな」
「あ、ごめんね…でもまとまらないな、どうしようか」
そう言われ恵が身を乗り出して人の髪を見て
「うわーどうしようか、これどうにか出来ますか?最悪切っても……多分?いいんで」
何か含む言い方に
「オイ恵!多分って何だよ!」
コソッと恵がおれに耳打ちしてきた「この髪は椿の髪が伸びた物だろ?だったらもし髪を切ったら元の男になったら縮むの?どうなってんの髪?」
そう言われてみれば、これらは一体どうなってるのか…今ここで切られて…男に戻りました、ハゲましたは笑い話しかならない!慌てて振り返り
「髪は絶対に切るな!」
思わず大きい声で叫んだら、えっと顔をされ
「そっか、大事だもんね?そうだよね、ここまでキレイに伸ばしてたんだ切りたくないよね」
なにやら、いい解釈したのか頷いている。
「もう…そう大事なんだ…。切る以外でやってくれ」
「わかったよ、でもこの部分、大分髪が切れてて酷いから…」
…と言う事は明日…ハゲているのか?もしかしてと…恐る恐るそこを触ると違和感があるような?と思っていると里見が
「大丈夫だよ、違和感と言うのは君の髪が千切れてるせいだよ」
ホッと胸を撫で下ろすと、恵が笑いをこらえながら
「良かったね、椿?」
後ろで里見が唸っていたが急に「そうだ!」と奥の戸棚の引き出しから色々な紐やらを手にし
「じっとしてて?」
と髪を解かして、紐を駆使して編み
「よし!出来たよ?」
恵が感心したように「キレイ!」と騒いでいる、確かに鏡には、さっきまでのボサボサが嘘のようにキレイに結われていた。良かったと思っていると、恵も
「これで、怒られなくて済みそうだね」
さてとと恵がポケットを探って「しまった!」と大きい声でこっちを見た。凄い嫌な予感がした。
「どうしよう…お金が無い。ロッカーに財布しまったみたい、椿は?」
「……オレの財布もバックの中だ。スマホは?」
恵が無言で首を振った。それを黙って見ていた里見が苦笑をしながら
「いいよ?お金はいらないよ」
言われ、ラッキーと思ったが恵が首を振った
「いいえ、そう云う訳にはいけません」
「じゃ、どうすんだよ恵?」
融通がきかない恵をイライラしながら聞くと、恵は
里見を見詰め
「あの今から、ボク達と一緒に来てくれませんか?」
「恵何言ってんだよ!それはダメに決まってんだろ!」
「だって仕方ないだろ?ボク達お金無いし、これで払わないとか言うなら…今後ボクは椿に手を貸さない!どうする椿?」
こう言われてしまえば自分は弱い、いまさら恵に引かれると困る。融通がきかない恵に
「分かったよ」
「ありがとう椿、無理矢理なのは分かってるけど…嫌なんだ。こうゆうのは」
知っていると恵の頭に手を置いて、「いい」と言うとニッコリと笑い
「さて、それじゃ里見さん、実はお願いがあります。」
里見が首をかしげ「何?」と聞くと、恵は「実はボク達をあるところに送って欲しい」とお願いしてる。里見はポカンとして、いきなり吹き出した。
「ぶっ!アハハハ!いいよ、送るよ?」
苦しそうに腹を抱え笑っている。そりゃそうだろう…さっきまで真剣に話してたと思ってたのが、結局それかと!恵の図太さに感心した。里見は涙まで流してる。
「そ、それじゃ支度するから外で待っててくれるかな?」
恵と二人頷いてドアから行こうとすると、後ろから
「……本当に今日こんなに笑えると思ってもみなかった…」
後ろを振りかえるとドアが閉まって里見の後ろ姿しか見えなかった。恵がどうかしたと聞いて来たがイヤと答えた。
「良かったね椿、これでどうにか間に合いそうで」
「ああ」
としか言えなかった。