打ち解け
数日後デザイン画を抱えた久米田がやって来た、部屋に入って来るなり回りをキョロキョロと見て、誰かを探していたようだったが、見当たらなく仕方なさそうにテーブルに自分が持って来た紙を置きソファに座った。置いたデザイン画を恵と丹下が見て騒いでいた。聞きたく無かったが二人は聞こえるように、流石プロの人が考えるのはキレイだ、ボクデザイン画って初めて見ると恵が興奮気味に言っている。それを横目に部屋で見つけた小説を読んでいると恵が手招きしながら
「椿も見てみなよ!凄いキレイだから」
その言葉に、ブスッとしながら
「いい、興味無い」
「そう言わないで、見てごらんよ?どれもキレイで可愛いよ?」
丹下を睨むと、うわ!恵の後ろに隠れた
「こら!丹下さんを睨まない椿」
「怒られてやんの!だせー」
ククっと久米田が笑っていた。ダン!と立ち上がり、本を手に出て行った。残された恵と丹下が
「もう、椿は」
やれやれと恵がため息をつき、丹下が恐る恐る
「怒っちやったかな…」
「あー大丈夫ですよ、あれはただ拗ねてるだけです。ほかって置けばいいですよ、お腹が空いたら戻って来るでしょ」
「そんなに、簡単だっけ椿君って…?まあ、恵君がそう言うんならいいけど…さっき椿君が持って行ったの私の本…後で読もうと思っていたんだけど…」
よっぽど楽しみにしていたんだろう、心配してる。それに久米田が呆れた様に
「そんな事はどうでも、いい!どうなんだ!」
恵がデザイン画を見て、ウ~ンと唸りながら
「どれも、キレイなんだけど…ピンと来ないんだよな~」
「あーうん、私もそれ感じた」
久米田は自分でも思っていたのか、ガクリと項垂れて頭を抱えて、ため息をついた、
「本当に、どうしたら良いのか全然分からない…」
「……別にこのデザインでもきっと似合うと思いますよ?久米田さん」
恵の顔をジット見詰め
「そんないい加減な物で良いのか?其処で妥協した物で、オレの力はそんな程度しか無いって事か」
アハハっと乾いた笑いで久米田が笑っていた、丹下が
「何故そんなに、必死なんだい?元々久米田君この話乗り気じゃなかっただろ?だから持ち合わせのデザインで済まそうとしてたのに、何があったんだい?ここまでするなんて……」
久米田は力無く首を振り
「そんなんじゃ、ダメなんです!オレだって簡単に考えていた、でも…全然簡単じゃ無かった…考えても、考えても上手くいかない、どうしてもオレの服があいつの存在に負けてしまう!そんなのオレのプライドが許さない!あいつとは対等でなきゃ!対等でいたいんです、でも今のオレには出来ない…出来ていないんです……」
丹下と恵が顔を見合せ頷き合い
「それじゃ、頑張らないとね」
ガバッと顔を上げ丹下を見詰め頷いたが、スランプで今までどうやって書いていたのか思い出せない、かつては書けば賞が貰えていた、悩む事なんて何も無かった。それは単なる驕りだった自分は天才だと!だから我が儘な態度も許されていた。久米田は二人に頭を下げて自分の部屋に帰って、ベットに倒れこんだ、最近丹下さんがアパートの一室を提供してくれた、仕事が終わるとここに来てデザインしている、ここは静かで集中出来た人が丹下さんとあいつ等しか居ないと言われびっくりしたが今のオレには丁度良かった。最近仕事に身が入らず、回りからも何してるんだ?早く証拠を…と
「つかれた…」
その日も仕事を終えると見知らぬ男が話掛けて来た、馴れ馴れしく肩に手を置き
「なあ、例の仕事上手く行ってるのか?もし上手く行っていないなら、オレが代わろうか?どうせあれ本物じゃ無いって事なんだろ、オレが本物らしく演出してやろうか?」
ギっと男を睨み付けると、焦ったように
「ハハハ、冗談だよ?本気にすんなよ」
笑いながら行ってしまった。そして重い足取りでアパートに着いた。知らず知らずため息をついていた。ここは静かで集中出来るが難が有るなら、この階段だろう…久米田は三階の部屋だから、階段がキツイ。でも丹下達はその上だ大変じゃ無いんだろうか?その時グニャリと視界が歪んだ『?』あれっと思った、
「オイ」
後ろを振り向くと椿が居た、久米田の顔を見て一瞬嫌な顔をしたが、顔色が悪い事に気付いて
「お前顔色悪いぞ?」
「うるせーな、さっさと行けよ!」
黙って久米田の体を支えて「ホラ」と三階の久米田の部屋に着くと久米田は意識が朦朧としていた、これはヤバそうとベットに寝かせ恵と丹下を呼び出した二人は直ぐに来た、そして熱を測り
「8、5分結構高いね」
「疲労かな?それで、熱が出たみたいだね、彼最近大変そうだったから」
「椿、ボク達ちょっと必要な物買って来るよ?」
それに頷いて
「オレはここに居るから」
二人が出た行くと久米田が辛そうに寝ている、何か冷やす物は無いかと寝室から出て台所で探していると、少し開いているドアがあった、何となく開けて中を覗くと、そこはアトリエだ、物凄い汚ない…丸られた紙やら、散らばっている紙、折れてダメになってる鉛筆それら全てに書かれている言葉があった『ボツ』と
「何だこれ、適当に作れって言ってんのに何してんだよ」
思わず口に出てしまった、はっとし部屋から慌てて出てドアをキチンと閉めた。ここに入った事を後悔した…こんなに真剣に考えているなんて…台所に戻った時、恵と丹下がいつの間にか帰っていた、そして恵が台所に荷物を置きながら
「大丈夫そう?」
気まずげに恵の目を見て
「ああ、明日には下がってると思う」
「そうだね」
二人が買ってきたジェルシートを貼ろうと寝室に行くと恵も付いてきた。
「久米田さんはとても真面目な人だよね、性格はアレだけど、プロだよね…そう思わない?椿」
「……責めてんのか?」
「違うよ?だけど椿はもう分かっているはず…そうだろう、椿」
チラッと寝ている久米田を見て、恵はもう分かっていたんだろう、ため息をつき、恵を真っ直ぐ見て
「ああ、大丈夫。ちゃんとやる、ちゃんと協力する、これでいいんだろ恵?」
「うん、有り難う椿、それじゃ丹下さん」
「本当に良かった。それじゃ椿君、ここ任せてもいいね?もし何かあったら呼んで?私達は下がらしてもらうよ、行こうか恵君」
二人は戻っていった、その行動に唖然としたが仕方なく台所から椅子をベットの横に置き腰かけた、そして久米田に
「早く、よくなれよ」
目が覚めると、何だかスッキリしてる久米田は伸びをし、ふと台所から音がする、誰かいるのか?恐る恐るドアを開けてソッと覗くと甘利が何かを作っているのか、良いニオイがしてお腹がぐーと鳴った。お腹の音に甘利が振り向くと、手を止めて何も言わず近づきおでこに手を当て
「熱は下がったようだな、お粥食えそうか?」
慌てて、おでこの手を払って
「何いってんだ?熱なんか無い!それより何でお前いんだよ!」
「覚えて無いのか?お前アパートの階段で倒れたんだよ」
「……そうなのか?覚えてねー」
確かに最近体がダルかったがと首をひねっていると、ズイと目の前に出来たてのお粥を差し出され、食べろと言われ、テーブルに座り食べた。やっぱり昨日熱が出ていたのだろう…ダルい。甘利に支えられベットに戻りこのまま眠ろうと目を閉じると、部屋から出ようとしていた甘利が
「なぁ?」
「何だ?」
「…いい。それより薬飲んどけよ」
ドアを閉めた、何だあいつと枕元に合った薬を飲むといつの間にか眠っていた。数時間経って目が覚めると、喉が乾いたムクリと起き上がり台所に行くと部屋が片付いていた、どうやら掃除したのは甘利なんだろうと水を飲んで、デザイン画が気になり部屋に入るとそこも片付いていた、散らばっていた紙が机の上に束に置いてあった、1枚手に取り見ると何書いてあった『この部分は好きだ、ここはダメ、』思わずプッと吹き出してしまった、全部の紙を確認すると全部に書かれている、丸られた紙やらのもだ、キレイに広げて、
「何で、あいつの意見入れてんだよ」
思ったがキット彼女の意向も入っているのだろうと、その時はそう思って納得した、そして椅子に座り書き始めた、ふと気が付くと、もう夕方になっていた。
恵と椿はいつものように丹下の部屋に行き、ソファに座っている久米田を見て、
「あれ?もう良いんですか?久米田さん」
「ああ、もう大丈夫だ」
恵がこっちを見て良かったねと、そのまま黙ってソファに座ると久米田がボソリと小さい声で
「有り難う」
えっと顔見ると久米田はそっぽ向いたまま言った。恵が不思議そうに
「え!何どうしたの?何か言った?二人共?」
『別に、何でもない!』
ハモってしまった、思わず顔を見合た
「あれ?仲良くなったんだ、良かったよ心配してたんだよ」
恵と丹下がウンウンと頷いている、それに思わず
「別に、そうじゃ無い、オレは早く服が出来ればいいって!」
「ああ!何だよそれ、結局はそれなのかよ!心配かけて悪かったと思ったのに、オレが馬鹿だった」
「まあまあ落ち着いて、椿は恥ずかしいと違う事言うんですよ、だから気にしないでください」
「恵!何言ってんだよ、馬鹿だろ」
「え、違った?と言う事は、そんなに久米田さんの服が着たかったのかー」
ガバッと立ち恵を羽交い締めしてると恵が
「痛い痛い、冗談だよ」
「さて、冗談もそこまでにしてこれ見てごらんよ?」
丹下が持っていたデザイン画を見て、皆一斉に
「いいじゃない?キレイだよ!ね椿」
頷くと、興奮した丹下が
「そうだね、これ早く撮りたいよ」
「これ、本当にいいと思うか?」
久米田が椿を真剣な顔で聞いてきた
「ああ、早く着てみたい、いつ出来るんだ?」
久米田が「え?」と聞き返したが、今まで謎だった事が分かった、そう言えば彼女が居る時はコイツが居ない逆もしかりだ、そして良く似ている…もっと良く見ようと、目を凝らすが何だかボヤける、目を擦っても輪郭がさっきと違う…髪の毛が伸びて体が全体的に丸びをおびている、思わず立ちあがって恵と丹下を見ると、二人はニッコリとしてる
「これは、オレの目がおかしいのか?」
「大丈夫だ、お前性格は良くないが異常じゃ無い」
彼女から出る言葉は甘利そのままだ、久米田は丹下を見て
「これだったんですね、モデルが正体不明で秘密なのは」
「そうなんだ、彼女と言うか椿君なんだよ」
当の本人は出されたコーヒーを飲んでいる、丹下が
「そうだ、この事は秘密でお願いするね」
その言葉にムッとし、
「こうなる事分かっていたんじゃ無いんですか?丹下さん、だからオレに部屋を貸してくれたんですか?」
「えー、そんな事思って無いよ?」
恵が呆れ顔で丹下を見ていた。
「まあ、いいですけど、この秘密は守りますよそれに、いくらオレがこのモデル実は男だって言った所でオレの頭が疑われるだけですし」
「それも、そうか!」
と丹下が笑った。その数日後キレイなワンピースが出来上がった。