約束
小さいオレが公園の滑り台の下に身を隠すように座っていると、誰かがオレを覗きこんでるが、夕暮れの日射しで顔は見えない。でも直ぐに誰かは分かった。恵だ
「こんなところにいたの?ここは寒いよつばき?おうちに帰ろう?」
見上げた顔を伏せて、首を振ると恵が横に座る気配がした。そっと手に触れ心配そうに
「どうしたの、どこか痛いの?」
「痛くない、あのね…けいちゃん、けいちゃんも…つばきのこと、おいていく?」
恵とは同い年だが、恵は4月生まれでオレは3月、約一年の差があった、恵の両親はオレの事を心配して一緒にいるように恵に言っていたらしい、それでいつも恵はオレと一緒に居てくれていた。
「おいていかないよ?」
恵の顔をジッと見詰めていると、恵が勘違いしたのか
「もしかして、いっしょはイヤだった?」
オレは慌てて、違うと首を振り
「ちがう、ちがうの…いっしょがいい、ボクもけいちゃんといっしょがいい」
オレの様子に何か気が付いたのか
「だいじょうぶだよ?つばきがおおきくなっても、いっしょだよ?」
「ほんとう?おかあさんみたいに、おいていかない?」
「うん。いかないよ!だって、つばきはボクのおとうとだもん」
「そうなの!ボクけいちゃんのおとうとなの?」
恵は自信満々に頷き
「だって、おとうさんがいってたもん!おとうさんウソいわないよ」
「でも、ボクのおかあさんとけいちゃんのおかあさんちがうよ?」
オレの言葉に、恵が悩んで
「つばきのおかあさんとボクのおかあさんはしまいだって、おとうさんがいってたから、だからボクたちもいっしょなんだよ」
今思えばなんだそれと思っただろうけど、小さかったオレは恵の言葉を信じた。恵の言葉にオレは嬉しくて何度も頷いた。
「そっか!そうだよね、おとうさんがいったんだったら、ほんとうだね!おとうさんエライ人だもんね?」
「そうだよだから、もうおうちにかえろう?」
頷いて、恵と手を繋ぎ一緒に帰った。オレ達の父さんへの考え方は少しおかしかった、盲目的だった…まぁ父さんはオレを本当に引き取ろうとしていたらしい、その言葉は父さんの本心だったんだろう、でも結局オレの田中家への養子の話は無くなった。詳しい話は知らないが、母さんと父さんの仲があまり良くないのが答えなんだろう…恵いわくまだ父さんオレの事を諦めてないらしいと言っていて、あんまり不用意な言葉を言ってはいけないと言われた。その時不用意ってなんだよって恵に笑いながら聞くと真剣な顔で「父さん今でも椿が、その気なら直ぐにでもやるから気を付けなよ、わかった?」それを聞いて思わずため息が出てしまったが、その反面とても嬉しかった。あの当時は母さんが自分の店を出すと言ってオレの事の一切を田中家に任していたからオレはテッキリ捨てられてしまったのかと勘違いをしていた、それが父さんに伝わったせいで…あんな事になったんだろう…恥ずかしい…自分のため息で目が覚めると、そこは昨日から来ている恵とオレの部屋だ、ムクリと起き上がって辺りを見渡しても恵は居ない…ボソリと
「一緒って言ったくせに…」
イライラとベットを「ガンガン」と蹴っていると、腹が鳴った、こんな時でも腹は減ると、服を着替えてその足で丹下の部屋へ、そこにはもう小鳥遊が居て丹下はオレを見るなり台所へ飯を作りに行った。最近丹下はオレの顔を見るとお腹が減っていると飯を作るが…これはいいんだろうかと思うが今は腹は減っているから、まぁいいかとソファに座った。小鳥遊は何か言うでもなく、静かに本を読んでいる。そう言えば、あの事件のから3ヶ月が過ぎた、副会長解任は学校でも大騒ぎになったが、小鳥遊が上手く立ち回り今は大分落ち着いた、副会長の席は今も開いたままだが小鳥遊がどうにかするのだろうと一応の決着が着いた。しばらくすると丹下が飯を持ってきて、3人で食べた。食べてしまうとやることもなく、ソファでクッションに当たっていると、小鳥遊が何か言うでもなく黙ってコーヒを飲んでる。丹下は最近やたら忙しそうにしている元に久米田と里見も忙しいのか居ない、そうしていると丹下も出掛けてしまった。自分だけ暇をもて余してると思っていると、ドアが開き葉芝が顔を出した。オレを見るなり
「ここに、居たのか」
最近葉芝はやたらにオレに絡んでくる事が多くなったような気がする、葉芝はいつも恵が座る所に座り
「最近田中と一緒に居ないんだな?田中はどうしたんだ」
いつも一緒にいるかの者の言い方にムッとし葉芝に言い返そうと口を開きかけた時小鳥遊が顔を上げて
「葉芝君、君仕事はいいのかい?」
葉芝は、焦った様に小鳥遊に
「何言ってるんですか会長、学生の本分は学業ですよ?仕事なんて…期限なんて」
もっともらしい事を言っているが、書けて無いみたいだなと思っていると、小鳥遊が心配そうに
「それはそうだろうけど…さっきアパートの前に、変にうろつく人がいたけど?」
葉芝はギクリと窓側に行き下を覗いて
「……これは!イケない警察に通報しましょう会長!」
「何言ってるの!可哀想な事しないで書きなよ?」
「出ないものは書きようが無いんですよ、しばらくはここで息抜きしたら書きますよ会長。んで、どうしたんだ田中は?」
いきなりの問いに、オレは分からず
「なにがだよ?」
クスッと笑いながらソファに座り、背もたれにひじを置き
「それだよ、何さっきからイライラしてるんだ?イヤ…違う最近か甘利?」
小鳥遊が、ああ、その事かと頷き
「それは、田中君が椿君に構ってくれないからだと思うよ」
ソファから立ち小鳥遊を睨み
「違う!そんなんじゃねぇ!」
葉芝もニヤニヤと面白がるように
「ヘェー、甘利は田中の事が好きなんだな?」
「何言ってるんだよ!葉芝、オレにケンカ売ってるのか?だったらオレは買うぞ」
「イヤイヤ、そうじゃない、本当にそう思っただけだ」
ソファに座り、クッションをぎゅっと抱きフンと横を向いた。何でこんな事になったんだと、何度も考えても恵が悪いと、最近恵は忙しそうでオレに全然構わなくなった、ふいに今朝の夢を思いだし
「何が、大きくなっても一緒だ、嘘つき…」
葉芝が顔を上げて
「今何か言ったか?」
「別に……」
言った直後がチャリとドアが開いた、どうせ丹下だろうと、ソファでふてくされて横にだらけていると入って来たのは
「椿何やってるの?みっともないよ!」
恵だった、さっと起き上がりジッと見ると恵は
「あー、疲れた!」
と台所へ行ってしまった。オレはキチンと座っていると、コーヒを持った恵がオレの横に座り気が付いたように
「あれ、なんだ葉芝居たの?」
「居ちゃ悪いのか?」
「イヤ別に、でもいいのか?さっき下で…」
恵が言おとすると、小鳥遊が吹き出しながら
「恵君、それはそっとしておいてあげて?」
恵は訳が分からずにいたが、小鳥遊の言う事に頷いた、それに小鳥遊が
「最近恵君忙しそうだけど、何かやってるのかい?」
「ええ、ちょっと昇級試験がありまして…それで」
「ああ、そうなんだね確か恵君黒帯だったよね確か?それで充分な気がするんだけど…それ以上に強くなって…どうするんだい?」
そうなのだ、恵が最近になっていきなり昇級試験受けると言い出し、その為また道場に通い始めたそのせいで学校が終るなり直ぐに道場に行ってしまうそのせいで話する事も無い…そう言えば理由は聞いていなかったなと、恵を見ると恵も何故かオレをジッと見詰め視線を葉芝にずらし
「大した事でも無いんですが、最近ボクが大事にしている花にたかる虫がいるんで、それを振り払う為に、力をつけておこうかなと思いまして」
恵は葉芝の方だけに言い、葉芝は恵のコーヒに勝手に手を出し飲んでいたコーヒを吹き出した、葉芝は恵を見てむせている、ただ一人小鳥遊だけが大笑いをしている
「ブハ!虫…虫なんだ!」
と訳が分からない、恵がそんなに大事にしている花があっただろうか?恵の部屋にもそんな物見た事が無い、リビングには確か観葉植物はあるけど、あれは花じゃ無いしと考えていると葉芝が恵に
「オイ田中、もしかして…虫ってオレか?」
そんな事がある訳無い、恵が他人にそんな表現する訳が無いと
「恵?」
聞くと、ニッコリと笑って
「ん?どうかしたの椿?」
にこやかに返され、
「イヤ…葉芝が」
「ああ、気にしなくて大丈夫だよ」
言い切られてしまった。もうこの事を答える気はサラサラ無いとゆう態度だ、仕方無く違う事を聞いた。
「なぁ恵もう、終ったのか?」
聞きたくて仕方無かった事を聞くと
「うん。ようやく目的は達成出来たからね、もういつもどうりだよ、それがどうかしたの?」
と言う事はようやくいつも通りとゆう事かと、ホッとした。小鳥遊がオレに
「良かったね、椿君?」
恵に聞こえないよう小さい声で
「別に…」
と言うと、小鳥遊が笑っていた、葉芝はそれを見て何故か舌打ちしてボソリと
「もっと、時間がかかっていれば良かったのにな…そうしたら…」
恵に聞こえたらしく
「アハハハ。言うと思ったよ葉芝」
恵は笑っていたけど、目は笑ってなかった。葉芝に向かって
「ボクの目の黒い内は手を出させないよ?」
「それは過保護ってものじゃないか?本人の意志はどうなってるんだよ」
「本人がまだ何も分かって無いから、こればかりは…ねぇ?」
「だったら本人がOKだせばいいのか?田中」
恵はしばらく考えてオレを見ながら
「それもそうだけど無理やりでないならいいけど葉芝だといいくめられそうで…気が付いたら…となると怖いからね念のために抑止力だよ葉芝?それにボクの所でつまずく程度じゃこの先は到底無理な話だろうしね?」
「どうゆう事だ?」
小鳥遊も興味津々で身を乗り出して聞いている
「何って、ボクなんてまだ可愛い方だよ?後に控えているのは、もっと厄介な人がいるんだからね…」
葉芝の顔が明らかに引いている
「お前以上かよ…そんなのが居るのか?」
葉芝のその様子に、ニッコリと恵は笑い
「居るよ、ボクの両親が、というよりは父さんかな?」
何で、こんな時に父さんの名前が出て来るのか?さっぱり分からない首をひねり
「何で、父さんが出て来るんだよ恵?」
恵がオレに
「椿…父さんの職業知ってるよね?」
「何を今さら、弁護士だろ?」
その言葉に葉芝と小鳥遊が止まった、ゆっくりとこっちを向き
「もしかして、田中直継さんて…田中君のお父さんかな?」
「良く知ってますね?そうですボクの父です。それと椿もね」
それを言われると、何だかとても面映ゆいが恵の言葉に頷いて
「ああ、自慢の父さんだ」
言うと恵も嬉しそうだ。葉芝が青い顔で「嘘だろ」と、呟いていた
「うちの父さん昔椿を自分の子供にしようとしてたぐらい椿を大事に思ってるんですよ、だから生半可な気持ちで関わると酷い目に会いますよ?」
恵は葉芝達に宣言するように言うと、小鳥遊が苦笑しながら
「それは、何と言うか椿君は、本当に愛されているんだね、これだと入る隙間がないみつぃだよ葉芝君?」
「別に全てを排除しようとは思ってはいません、椿がキチンと考えたのであれば、ボクは反対なんてしません、ただ…今はまだ、あの時の約束が…」
恵のその言葉にハッとして、顔を見ると、恵はしまったと言う顔をした。やっぱり恵は覚えていてくれていたのか、と恵の腕を掴むと
「うわ!何?重いよ椿!」
照れた様に振り払われた。それでも嬉しくて側に行こうとすると、いきなり葉芝がオレ達の間に入り憮然と
「あんまりくっつくな!何だよ、約束って…」
オレは邪魔をした葉芝にムッとし
「別にいいだろ、葉芝には関係ない話だ」
睨みながら言うと、葉芝は口ごもりながら
「それは、そうだが…」
その様子に小鳥遊が
「厄介だね葉芝君、花を手に入れたいのなら今よりずっと努力しないと高嶺の花が手に入らないみたいだよ?」
小鳥遊の言葉に葉芝が唸っている、そんなのはオレにとってはどうでも良かった。だって恵が居るし恵が、あの時の約束を忘れて無かったのなら、それでいい。この先も約束が続き一緒に居られれば。




