零
葉芝はキョロキョロと辺りを見て、オレ達の視線に気付くと、ニヤリと笑った。恵はため息をついていた、どうやら呆れているようだ、オレは仕方無いと恵の変わりに
「じゃ、行くか、葉芝こっちだ」
と言うと葉芝が頷き、葉芝を連れて階段を登った。4階にたどり着くと、葉芝が不思議そうに
「変わってるなこのアパート変な作りだな。この階には2部屋しか無いし、どうなってるんだ?」
「まぁ、そうだね取り合えず、ボク達の部屋はこっち」
と恵が鍵を開けて中に入ると、葉芝は興味深そうに
「中はこんな感じなんだな…へぇ思った以上に簡素だし狭いな、ここで生活してるようには到底見えないし、他に人居るのか?」
「一応居るよ、この階にはボク達と、さっきの車を運転していた丹下さんだけだけど、下の階には住んでるしね、さて葉芝そこに座って」
台所のテーブルの椅子に座って恵を見ると、恵が黙って髪を軽く結ってくれる、長くて自分じゃどうしようも無く恵が里見に教えて貰って最近は大分手慣れて来た何も言わなくてもやってくれる。葉芝も椅子に腰かけて、呆れた目で見られらが無視した。ふいに葉芝の視線が奥の大きなベットを見てビックリしている、何がそんな驚く物がと後ろを振り返るが特に思い当らず首を傾げ聞いた
「一体どうした?」
葉芝がゴクリと真剣な顔で
「え!なぁ…聞いてもいいか?この部屋は甘利だけが使ってるのか?」
恵が「ああそうゆことか」と頷いてる、さっきオレ達の部屋って言ったはずだよなと、もしかして聞こえて無かったのかと
「恵も一緒だけど?……何が言いたいんだよ?分かるように言えよ」
「……オレがおかしいのか?この部屋ベットが一つしかないように見えるんだが?あのベットはどっちが使うんだ?」
恵が疲れた様に、オレの髪をゴムでまとめながら
「落ち着いて葉芝、大丈夫だよ、お前が考えてる様な事は、一切無いから、ボクは椿の事は弟だと思っているしね、葉芝が思っている事は考えた事も無いよ。それに椿はボクの好みでもないから」
安心しての言葉に葉芝は可哀想な目でオレを見て、一人頷いてる、どうやら納得したらしいがオレとしては納得出来ない
「オイ、オレにも分かるように言えよ!」
二人に聞いたが、感情の無い目で
「いいんだよ、椿は分からなくても、もし分かったとしても結局なんにも無いんだし」
葉芝がボソッと独り言のように「一緒なのか…本当に、甘やかされてんな」と恵が葉芝を見たがそれに恵は何も言わず、その話はそのまま終わった。そして気を取り直して恵がオレ達の今までの経緯を淡々と説明をした、話し終わると葉芝は途中に盛大なため息をつき天上を見て
「本当にそんな事があるんだな…ん、でも普通願い事の定番は、金やら名誉だろ?何でそんな変な事を?」
微妙な顔で質問され、
「うるせーな!そん時は、それしか浮かばなかったんだよ!それに冗談半分だと思ってたし。まぁ確かに今となっちゃ後悔してるよ…」
あん時は恵にも責任の一旦はあるしと恵を見ると、オレの視線にギクリと慌てたように
「あらかた、話は分かったね葉芝!それじゃ丹下さん達の所に行こうか?」
慌てて、椅子から立ちオレ達にせかし
「と、その前に椿着替えておいで?」
自分の格好を改めて見て、制服のままだが、どうせ丹下達の所だし
「このままでも良くね?」
恵は首を振り眼光鋭く、ニッコリと微笑み
「着替えて来て?みっともないから」
葉芝がニヤニヤと、恵の肩に腕を置き
「それは、それでなまめかしけどな?」
確かに制服が一回り大きく胸元が見えている、葉芝は嬉しそうに口笛えを吹き
「なんか、良いなその格好、マニア受けするよ、なぁ田中?」
その言葉に、恵が凄く嫌な顔をした。早くと言われ仕方無く立ちあがり奥に行きクローゼットから服を出し着替えた、恵は葉芝を伴って部屋から先に出た。部屋から出ると何故か葉芝がビックリした顔をして感嘆したように
「さっきまでとは、また違う赴きで…いいな♪これはこれで有りだな…うん」
思わず葉芝を微妙な目で見ていると、恵はそれに何も言わずさっさと歩いてもう1つのドアへノックもせずに入っていった。いつも通りに丹下の部屋を開け中に入って行った。葉芝がギョと
「あれ…良いのか勝手に入って?インターホンとか押さないのか?」
「ああ、大丈夫だいつもの事だし問題無い、インターホンってあるのかここ?」
ドアを見たが、それらしいものが無かった。来客の時はどうしてんだろうか?と考えてしまったが、それらしい答えは思い付かなかった。後日丹下に聞くと、セールスの人はここに人が住んでる事に気が付いてないし、荷物の場合は時間帯に連絡来るから結局インターホンは付けなかったと、
「そうなのか、それは…凄いな」
ビックリして言葉も無いようだ、まぁ確かに、勝手に他人の家に入っていくのは、おかしい事と分かっているが、丹下自体大雑把なせいで最近そこら辺が麻痺しつつあるな…オレも恵も良いんだか悪んだか…丹下の策略だとしってても、居心地の良さに忘れ欠けているなと、それに久米田達だって似たようなもだ、丹下が部屋に居なくても勝手に出入りしているし丹下がそれを咎めているの見た事無いなと思っていると、ドアから恵が顔を覗かせ
「何してるの?皆待ってるよ、早く来なよ二人供?」
恵に早くと諭され中に入ると、丹下、久米田、里見、小鳥遊と全員揃っていた。それぞれ手を上げ挨拶して近づくと、丹下が立ちオレ達に
「どうぞ、座って」
と台所に行き、オレ達のコーヒを用意し置いた。それにお礼を言って「実は…」と恵が話しかけると葉芝がすかさず手を上げ
「その前に自己紹介させてくれないか?」
恵と二人そうかと頷いた、葉芝は立ち丹下達に向かい
「どうも、初めまして、オレは久遠 零と言います。この二人とはクラスメイトで友達やってます」
「え…何て言った?」
恵が訝しげな顔でもう一度聞いた、オレも葉芝の言葉が引っ掛かった
「だから、オレ達友達だろうって」
「違う、苗字だよ!葉芝だろ!」
「ああ!、そうゆう事か、実は本名は葉芝じゃ無いんよオレ。久遠って言うんだよろしくな」
恵の顔が何だか青い。大丈夫かと聞こうとすると、今まで黙って聞いていた久米田が先に口を開いた
「久遠零って何処かで聞いた事があったような?」
首を傾げ悩んで、ふいに後ろの本棚を見てハッと立ち上がり
「これだ!」
と本棚から一冊の本を取り出しテーブルに置いた、そこには最近恵と丹下がハマってる作家の新刊だ、表紙には久遠零と名前が記されていた、葉芝が
「読んでくれてたんですね、実はオレ作家もやってるんです」
葉芝がしれっと告白し場が混乱した、恵はビックリして本と葉芝を交互に見てるし、丹下はポカンとしてる、久米田と里見は「凄いと」感心してる。小鳥遊は知ってたのか落ち着いている、皆それぞれの反応に葉芝は淡々と説明し出した。
「元々、本を出すに当たって本名で出すつもりは無かったんだけど、うまく伝わらなくて、本になって気付いたんですよ本名になってるって、それで流石に本名は不味いとなったんですが今さら直す事も出来ず、仕方無く本来の生活の方の苗字を変えたんですよ、苦肉の策で母方の葉芝を使う事にしたんだよ本当参ったよ」
恵が本を手に放心してる、余程ショックだったらしい、それもそうかと最近お気に入りだったからなあと思っていると、いきなり我に返り
「嘘だ!こいつが作者だなんて!そんな事あるわけ無い!」
恵のパニックをビックリして見ていると、久米田と里見は興奮したように
「凄いね、私作家って初めてだよ!」
「そうだよなオレも!」
里見と久米田は他人事のように言ってるがオレはそこまでの実感はなく二人に
「葉芝って有名なのか?」
聞くと、葉芝は苦笑し
「いや?そんなに有名でも無いし、たいした事じゃ無いぞ?有名って言うのは、オレの事じゃ無くてそこに居る人達の事を言うんだと思うぞ?」
うんと後ろを振り返って見ると葉芝が丹下達を見て
「丹下よしきと言えば結構有名な写真家だぞ知らないのか?オレでさえ知ってる。その横の人は久米田護幾つか凄い賞とってる人だ、そして里見カオル…この人も」
次々と説明されて、本当に有名らしいと3人を見て
「そんなに有名だったのか?あんたら?」
恵を見ると、知らないと首を振ってる、小鳥遊を見ると強ばった顔で
「二人はてっきり知ってるものかと…」
どうやら知らなかったのはオレ達だけらしいと、不思議な事に丹下達は自分達の偉業を一切言わない
「何で、言わないんだよ?」
丹下達は笑いながら
「そんなものは過去の事椿君達には意味が無いものだと、それに大事なのは君達と作っている今が私達にとってとても大事な事なんだよ」
久米田も里見も頷いていた。




