屋上
今日の授業が終わり、すっかり葉芝の事なんて、スッカリ忘れていた。帰り支度をして鞄を持ち教室を出ようとしてふと見渡し、この静けさに違和感があった、いつもなら恵がオレに「今日はどうする?」と聞きにやって来て小鳥遊も「私も一緒に」と騒ぎになるのに、二人が居ないだけでこんな静かなのかと。教室にはもう誰も居ない例の恐喝事件のせいで、授業が終わると一斉に生徒は帰ってしまう、残って居るのは自分一人だけだと思っていたらどうやら違うようだ、葉芝の席に目をやると、まだ机に鞄がある…
「あいつ、まだ残ってんのか?」
どうやら、校内の何処かにまだいるらしい、チラッと壁の時計を見ると17時か…恵の言葉がよぎったが、まだ大丈夫かと葉芝の鞄を持ち、どこに居るのか探して歩いていると、ふいに屋上に人影が見えた、あそこは普段立ち入り禁止のはず、人が居るのはおかしいと首を傾げピンと来た。あそこに居たのは葉芝だと思いこみ何も考えず屋上に向かった。時間の事もあり早足で階段を上がって行くと、そこには人が居た。顔を上げて見たが暗くて顔が見えない、それにどうやら複数生徒が居る、オレに気付くやら笑った。その中の一人がユックリ降りて
「何だよ、まだ残ってるヤツが居たのか、良かったよ最近カモが居なくて俺達困ってたんだよ」
すると階段上の生徒達が笑っている、こいつらもしかして最近小鳥遊達が血眼になって探している例の恐喝の犯人かと思っていると、男が「なぁ?」とオレの肩に手を置いた、それを払うと、一気に犯人達が
「良い気になるなよ!オイ来い!」
引きずられる様に屋上に出され気付いた、日が大分傾いている事に、しまったなと考えていると、あれっと、さっきオレが見た屋上の人影が居ない、こいつらは今しがた屋上に行こうとしていたはず…なのに屋上には人一人居ない。おかしいなと違う事を考えていると、苛立った犯人達が
「オイ、聞いてんのかよ!」
と男がいきなり殴りかかっ来た、それを避けると今度は数人でかかってきた。それを足で払い転ばすと顔を打った男が、オレを睨み気が付いた様に仲間達に大声で
「オイ、こいつ甘利だ!」
とたん男達がざわついた、どうやらオレの事を知っているようで、リーダーらしい男が
「へーこいつが、あの甘利つーのか?だったら…こいつをやったらオレ達有名になるか?…それにしてもキレイな顔してんなー。オイ誰かスマホ貸せ!」
「どうするんですか、スマホなんて」
「こいつで稼がして貰うんだよ!あいつよりこいつのほうが良い金になんだろ!ボコって大人しくなったら、その服剥いで撮影してやるんだよ!」
「ああそうゆことか!そのキレイな顔をオレ達が活用してやらないと、ダメだよな!そっちを固めろ!」
男達がニヤニヤと近付いて間合いを詰めてくる。リーダーを睨みながら
「お前ら、誰かを脅迫してんのか?」
「ん~?そんな事言ったかな?でも、そんな事どうでも良いだろ?甘利。今度からお前がオレ達に金を運ぶんだよ?他人の心配してる場合か?オイやれ!」
流石にこの人数はキツイかとジリジリと後退しながら、考えていると下がり過ぎて屋上の柵に当たってしまった。男達は勝ちを確信したのか余裕に
「大人しくしてくれよ、なあ?」
と胸ぐらを捕まれ、殴られると身を構えた次の瞬間
「ハイ、そこまでなー」
いつの間にか男達の後ろに葉芝が立って居た。ここからじゃ逆光で顔は見えないが、声は確かに葉芝だ、男達は焦った様に
「ちゃんと見張ってなかったのか!」
「誰も居ないはずだ、ここは見回り終わったはず」
男達が騒いでるなか、葉芝はヤレヤレとオレを見ている、オレは
「何で、お前居るんだ?」
「今それを言うのか?折角助けてやったのに?…おっと逃げるなよ!もういいぞ、出て来い!」
葉芝の声に、ドアが開き一斉に数十人の生徒達が現れて、逃げ惑う奴等を捕まえていった、暴れる男達を難無く捕獲していくのを茫然と見ていると葉芝が生徒の一人に何かを渡している、何かと近付くと手にテープレコーダーらしき物があった、どうやら録音していたらしい、生徒は何も言わずペコリと頭を下げ捕まえた男達を連行して行ってしまった。とたん屋上にはオレと葉芝の二人だけになり、捕まえた生徒達の一連の行動に一切の無駄が無く一体何がなんだか良く分からず葉芝に詰め寄り
「これは、一体何だよ?」
葉芝が苦笑し
「悪かったな、結果巻き込んじまって、でも甘利も悪いんだぞ、こんな所に一人で、のこのこやって来たりするから、全くお前がここに入って来た時はビックリしたぞ、まだ帰って無かったのか?」
「悪かったな、葉芝の机に鞄があったから心配して探してたんだよ」
ブスッと言い返すと、ポンと葉芝が手を叩き
「ああ、そう言えば鞄教室に置きっぱなしだったか?すっかり忘れてた」
「人が心配してやったのに、それか!」
「悪かったよ、それよりいいのか?」
「何がだよ?」
「時間、今日もう大分遅いが?」
ハッと辺りを見渡して、恐る恐る空を見上げると、そこにはキレイな満月があった。急いで帰ろうと葉芝の横を通り抜けようとしたが、慌ていたせいで足がもつれ転けてしまった。
「うわっ!」
とっさに葉芝がオレの手を掴み
「危ない!何慌ててんだよ、ほら……ん?」
葉芝の顔が固まったのが分かったが、もう止められない…少しづつ自分の体が小さくなっていく感覚がある。ゆっくりと髪がフワリと伸び、体の輪郭が丸びをおび次の瞬間には完全に変わってしまった。その間ずっと葉芝に手を掴まれたままだ、葉芝は何も言わずオレを見ている、しばらく沈黙が続いたが覚悟を決めて顔を上げ葉芝を見ると、葉芝はビックリした顔のまま、見事に固まっている、うん、ビックリしてるな、どうするかと考えていると、葉芝が口を開いた
「一応聞くが、甘利なんだよな?オレは今見ているのは本当の事だよな、おかしくなってないよ…な」
一瞬騙せるかと思ったが、手を掴まれたままでの言い逃れはできないなと思い直し葉芝に向き
「違うって言っても、もう無理だろ?」
「ああ……そうか!会長や田中が心配してたのは、これか!」
葉芝は一人頷いて真剣な顔でオレに
「だったら、ここはヤバイな…ほら!早く行くぞ!何一人でこんな所に来てるんだよ」
まるでオレが何も考えずに屋上に来たかの様子に、ムッとし
「オレのせいか!お前が、」
「あー分かった分かったオレが悪かったよ、スマン。甘利だったから、どうにかするかと思って事の成り行き見てたんだ」
「って事はオレは囮だったのかよ!」
葉芝は顔をそむけ
「まぁ、そうとも取れるが、実際言いたくても言えなかったからなぁ」
「さっき言ってたのは…何だよ」
「……終わり良ければ、な?それよりここを早く出るぞ!先生達が来ると不味い」
葉芝が着ていたブレザーを脱ぎ、いきなりオレに頭に掛けて来た
「んだよ!」
ブレザーを取ろうとすると、頭を押さえられて
「良いから、羽織ってろ、誰かに見られると面倒だ」
それもそうかと、ブレザーを引っ張って顔を隠した、葉芝は屋上に落ちていた二人分の鞄を抱え、人が居ないのを確認しながら慎重に外に出た、校門から出ると二人してため息が出た
「誰にも、見られてないよな?」
後ろを確認しながら言うと、葉芝が
「大丈夫だろ、恐喝事件の噂で生徒は帰ってるはずだし、残っているのは、先生達と関係者ぐらいなはずだ」
そうかと、ホッとしていると、前から来た1台の車がオレ達の横に止まった。直ぐに葉芝がオレの前に立ちはだかり車を眩しそうに見ている。車の助席が開き人が降りて来た
「そこに居るのは椿だよね?」
その声に顔を上げると、そこに居たのは恵だった。羽織っていたブレザーを落とし駆け寄ると、心配そうに
「心配したんだよ、椿大丈夫なの?」
「ああ」
オレの後ろから葉芝がオレが落としたブレザーを拾い上げ、歩いてきた。そして恵に手を上げ
「田中風邪はもう良いのか?」
恵が訝しげに葉芝を見て
「え…何で居るの?……椿?」
「あのな、これには訳が…!」
恵にどう言い訳しようと考えていると、
「理由は帰ってからにしようか?乗りなさい、そこの君も」
丹下の声に、我に返り慌てて車に乗り込むと、運転していた丹下がミラーごしに
「心配したんだよ、椿君?連絡も何も無いから…小鳥遊君も心配していたよ?」
「悪かったよ、色々あって連絡忘れてた」
丹下がため息をつき
「良いよ、家に帰ったら話をしよう、それで君は?」
「オレは葉芝 零と言います。この二人とはクラスメイトです」
丹下がミラーに写った葉芝にニッコリと笑い
「そうですか、私の名前は丹下 よしきです。詳しい話は家で話として遅くなると思うから、一度家に連絡した方がいい」
「それは、大丈夫です。オレ一人暮らしなんで」
ビックリした、テッキリ家族でこっちに越して来たのかと思っていたから、
「だったら、このまま私のアパートに行こうか?」
丹下は車を走らせた、車中は皆黙ったまま、たまに恵が小さく咳をした、そっと助席の恵を見ると、朝よりは顔色も良くなってる、この分だと週明けには学校に出てこれそうかなっと考えていると、葉芝がニヤリとオレを見ている。どうせ良からぬ事を思ってんだろうと、それを無視して目をつぶった。車が丹下のアパートの駐車場に止まり降りると恵が丹下に
「すいません丹下さん、先に部屋行ってて貰っても良いですか?ボク達こいつに話をしたいんで」
丹下は頷き
「分かったよ、それじゃ先に部屋に戻っているよ、大丈夫、久米田君達には私からある程度の事は言っておくから」
「そう言えば、久米田達居なかった?部屋か?」
恵が疲れた声で
「ず~と、椿を探すって騒いで、うるさかったから里見さんに久米田さんの事を任してるんだよ、久米田さんだと目立ち過ぎるからね」
なるほどと頷いた




