狂愛と純愛
ヤンデレというものは、小説や漫画では見るけれど、現実では見たことがないという人が普通なはずだと思う。
ヤンデレってかっこいい。
現実で会ってみたい。
ヤンデレに愛されたい。
そんな人間と会うたび、私は毎回思っていた。
かっこいい?ストーカーのように付きまとうような人間が?
現実て会ってみたい?会った途端殺されかけることなんてざらにあるのに?
愛されたい?本当の自分を理解して愛してるわけじゃないのに?自分の意思は尊重しないのに?
目の前で愛を囁きながら歪んだ笑みを浮かべる男を見ながら、一言、名前を呟く。
「ー心優」
その言葉が空気に乗ってから、約1.5秒後。
私を閉じ込めていた部屋の窓が割れ、無数の包丁が降ってくる。
毎回思うけれど、刃物は危なすぎると思う。色々な意味で。
とりあえず。
目の前のクズもとい監禁犯が尻餅をついている隙に、その包丁を手に取り、窓の側へ移動する。
いざとなったら、この包丁を投げて窓の外へ逃げればいいだけだ。
まあ、そんなことは、今まで起きたことはないけれど。
「ーやっぱりさ、刃物を使う拷問は包丁が一番やりやすいんだよねぇ。あれかな、やっぱりこういう日常で使う方が苦しみやすいのかな?」
「あ、え…」
「まず指を切り落とそう。ゴミごときが私の大切な大切な親友に触るなんて許せないしねぇ」
「あ、あ…」
「あ、でも目を抉る方が先かな?気持ち悪い視線を感じさせたくないし」
「え、え…」
「あ、もしくは男じゃなくならせる…ていうのもいいかもね。男しか持ってないものが無くなれば、物理的には男じゃなくなるのかなあ?」
「ひっ!」
「美緒ちゃんはどれがいいと思う?」
とりあえず四肢切断した状態で、警察に通報して放っておけばいいんじゃない?来るの遅かったら死ぬけど。
「とりあえず今回は拷問は止めよう。監禁未遂だけだし」
「うん!分かった!」
我に返り、飛びかかってきたゴミ男に、一切目を向けずに包丁を投げつけた後、携帯を取り出し、警察へ電話をかける。
「友達が監禁されかけていたので、助けた所です。尚、犯人が襲ってきたので刺しておきました。場所は頑張れ。」
用件だけ伝え、携帯を床に投げる。
落ちた瞬間に、時間差で投げた包丁が突き刺さり、串刺しになる。
「さてと。帰ろっか。」
「うん。」
差し伸べられた手を取り、窓から外へ出た時にはもう、部屋の隅で痛みに悶えていた男のことは、すっかり忘れていた。
私昔から、病んでいる人間ー俗に言うヤンデレに、関わりやすい体質らしい。
昔から、大体仲良くなった異性から、自分以外と話すなとか、自分の物になれとか脅され、監禁されかけていた。
毎回そんなことがあるたび、必死で自分を鍛え、小説であるようなスタンガンは、簡単には手に入れられないから、代わりに痴漢撃退スプレーや、小型カッターなんかを持ち歩いていた。
多分普通の状態に持ち物検査されたら、間違いなく捕まるだろうけれど、大体襲ってくるやつは、私が頑張っても手に入れられなかったスタンガンとか、ナイフとか、一回だけ拳銃なんかを持ってるやつもいたから、正当防衛で見て見ぬ振りをされていた。
男にそういうやつが多いなら、関わらないでおこうと、中学は女子校に行けば、友達が百合でヤンデレ化したり。
もうそれならいっそぼっちになろうと決意したら、男の担任に何故か気に入られ、虐められてるのではと邪心され、私を敵対視しているクラスメートが刺されたり。
その担任を警察に突き出したら、その刺されたクラスメートの彼氏がヤンデレで、お前のせいだと言われ、殺されかけた。
中学を卒業し、全てを諦め、共学の高校に入った今でも、ヤンデレ関係のトラブルは尽きることがなかった。
因みに、ついさっき警察に通報したやつは、街中で倒れていた所を発見し、住所を聞き、その家まで送って行ったら、優しさに惚れたとか、ここにずっといて欲しいとか、拒否するなら力ずくで閉じ込めるとか、妄言を吐いてきたパターンのタイプだ。
何度も何度も繰り返され、その度に命の危険すら感じることになりながら、私はずっとギリギリ生きてきた。
そんな私を昔から助けてくれたのは、幼馴染で、親友の心優だった。
毎回こんなことがあるたび、私の居場所を突き止め、相手を行動不能にし、制裁していった。
行動不能にする方法と、制裁の中身が色々と怖いのはまあ、見て見ぬ振りが一番だ。
関わってもいい事がない私を、大切な人だといい、私のせいで飛び火がきても何も言わず、ずっと一緒にいてくれた、とても優しい人だ。
本当なら、離れた方がいいのかもしれない。
悪い事しかおこさない私は、いない方がいいのかもしれない。
それでも私は、離れる事はできない。
今がとってもとっても幸せで、楽しいから。
だから私はずっと、生きていく。
私だけで全てを対象できるように、鍛え続けようと思う。
私には、とってもとっても優しくて、大切で、掛け替えのない親友がいるから。