王子様とクラブ活動
※王子様の言葉使いをもう少し柔らかめになるように変更しました。前の状態だとあまりにも堅苦しくて後々面倒ことになりそうなので。決して書くのが面倒とかではないですよ!(・∀・)
――放課後
王子が言った言葉の意味が気になり、悶々としている間に放課後になってしまった。あれはいったいどういうつもりだったのだろうか? 私はその後も、言葉の意味を聞き出せずにいた。
そして放課後、王子はというと。
「ミナト! クラブ活動にイコウ!」
え? 部活ですか?
「ソウ! ミナトはなんのクラブに入ってるんダイ?」
私は……。私が口ごもったのは言いづらかったというより、『帰宅部』って言葉が伝わるかがわからなかったからである。まぁ、伝わるはずはないんだけど。
「私は、クラブは入っていないです。バイトがあるので」
「ソウなんだ。じゃあ、見に行かナイ?」
つまり、クラブ見学ついてきてほしいってことだろう。う~ん、確かに今日バイトはないけど、隣町のスーパーでお肉の特売があるんだけどな……。
「わかりました、あまり時間かけないでくださいね。行きたい所があるので」
マカセテ! 手をグーの形にして胸を叩く王子。私達は、とりあえず各クラブの今日の活動場所を記すホワイトボードを確認する為、正面玄関へと向かった。
移動中も王子の存在は皆の注目の的であり、手を振ったり、挨拶をしてくる生徒達に王子は笑顔を振りまいていた。こちらを気にかける生徒達を通り過ぎると、少し沈黙。何の話題で話しかけていいかわからない。聞きたいことと言えば『あの言葉』の意味だけど、聞いていいのだろうか……。
「あの、王子、聞きたいことがあるんですけど」
「ミナト! そんなにカシコマらなくてイイヨ。いつも友達とはなしてるカンジでイイカラ!」
いつもっていっても、そんな友達とかいないからいつもこのぐらいでしか話したことないんだけどな。
「ソレと! 王子じゃなくて『カイ』でイイヨ!」
じゃあ、カイ……君。でいい? 王子が笑顔で頷く。
「それで? なにが聞きたいんダイ? ミナト」
ああ、えっーと。ワンクッション挟んだせいでなんか聞きづらくなってしまった。
「ファミレス、何で一人でファミレスに来ていたんですか?」
王子の目が輝き、子供みたいな笑顔になる。
「ハンバーグ! 一度食ベテみたかったンダ! でもヒトが多いところは危ないからダメダっていうんだヨ!」
だからニゲダシテ来た! 偉そうに胸を張る王子、その行動は子供がする『えっへん!』にしか見えなかった。
それは、お付きの人怒るよね。私はファミレスでの一件を思い浮かべて少しだけ笑った。
各クラブの本日の活動場所を掲示されているホワイトボードに到着。まばらに人がいる。
笑顔で手を振るくらいで済み、取り囲まれることはなく安心した。
「何から見に行きますか?」
「ヤキュウとサッカーとテニスと、バスケット!」
指折り見たいクラブの名前を上げていく王子。いくつあるんだろうか? あんまり回れないんだけど。
「それと! すいりしょうせつけんきゅーカイ!」
推理小説? そんなクラブあったかな?
ホワイトボードを見回すと……あった! 3-Aの教室。クラブに所属していないせいなのか興味をもたなかったからなのか、初めて知った。そんなクラブがあるなんて。
じゃあとりあえず、野球部を見に行きましょうか?
外へ出ると、運動部の掛け声や吹奏楽部の楽器の音が耳に届く。
季節に関係なく熱を感じる音達だ。どれもこれも、私には無縁だけど。
グラウンドでは、金属バットの打音と野球部員達の熱のこもった声が響いている。早速、野球部顧問に見学を許可をもらい、金網の内側に入って見学させてもらった。王子が顧問に野球のルールのことで質問攻めにしている間、金属音に釣られバッターボックスに目をやると異質な制服姿が目に飛び込んできた。
ユニフォーム姿の中に一人だけ制服を着たままである。しかも、今バッターボックスに立ってバット構えている。野球部じゃない、よね?
ピッチャーマウンドに立つのは、野球部のエースだ。そして、バッターは制服姿の生徒。多分、部外者。二人の対決に周りに、何故だか緊張感がある気がする。
エースが振りかぶり、第一球を投げる。高めのストレート、見事ストライクを取る。球速も結構速い、進学校で野球では弱い高校とされているが、さすがはエース! 球速百四十キロ代は十分でている。
ストライクを取ったが、一球目は球筋を見ていたといったところか。エースが返球された球を感触を確かめるように何度か握り、投球動作に入る。癖だろうか? 次は変化球を投げるぞって言ってるようなものだと感じた。
二球目、スライダー。外角低めを突いたがボール一個分外れ、ボールとなる。バッターには少しも反応はない、よく見えている。三球目もスライダー、いや、あの変化と球速ならカットボールかな? この球も外れ、ワンストライク、ツーボールとなる。
四球目、外角高めのストレート、これで追い込んだ! 外を中心に投げている、バッターを恐れてなのか? それともそれが狙いなのか? だとすれば、最後は内を攻める?
五球目、右打席のバッターへ向けてボールが投げ込まれる。これは入る! そう確信させる回転をするボールは、内角へ沈み込むように曲がりストライクゾーンいっぱいの足元に吸い込まれる!
スクリューボール!
ストライクゾーンの外からの変化で、内角低めを差し込むスクリューボール。右打席のバッターには打ちにくいとされている。追い込んでからの配球としては申し分ない! そう思った! だが。
ここで、初めてバッターが打つ動作に入る。外からストライクゾーンを狙う変化球に対し腕をたたみ、見事にすくい上げる! 着ていたブレザーの裾がたなびき、バッティングの豪快さを演出する。
制服姿バッターは、よし! とガッツポーズをして、ホームランを確信した。
放たれたボールは、グラウンドの一番奥、背の高い金網を揺らす。ホームラン確定の音が鳴り響いた。
すごい、野球部でもないのに(多分)。
勝負に熱中するあまり、周りが見えていなかった。いつの間にか隣にいた野球部キャプテンに話しかけられ、私は驚いた。
「君、詳しいね。野球好きなの?」
え? もしかして私、思ってたこと全部口にだして言ってた?!
「そ、そんなに詳しくはないですよ。弟がプロ野球が好きなので一緒に見てるくらいです」
「そうなんだ、それでもウチのマネージャーよりは断然詳しいね! ウチのマネージャー仕事熱心なのはいいんだけど、そんなに詳しくなくてね。スコアもつけられないんだよ」
そう、ですか……。
――私だってスコアブックまではつけれないよ。
「野球に詳しい人が入ってくれて、彼女にも教えてくれると助かるんだよな! どう? 野球部のマネージャーやってみない?」
すみません、家庭の事情でクラブは入れないんです。私は、丁重にお断りした。
私がキャプテンと話しているうちに、さっきエースから見事なホームランを打った制服の人はいなくなっており、いつの間にか話が進んでいたようで王子がバッターボックスに立っていた。エースは、王子に打ってもらおうと『接待ボール』を投げるも、一度もバットに当てることなく戻ってくる王子。思い切りバットを振っただけだったが、王子はとてもいい笑顔でこちらに戻ってきた。楽しんでもらえたみたいでよかった。
「次は、どこがいいですか? サッカーかテニスでも見に行きます?」
「すいりしょうせつ! あれはドコですか?」
『推理小説研究会』か、あれは確か3-A教室。うーん、まぁ近いといえば一番近いのかな。校舎内だけど。
私と王子は校舎に戻り、三階のAクラスへと向かった。
Aクラス。私の成績が急激に上昇して進級の末、このクラスへ行ける、その見込みは一ミリもない。だからAクラスに入るは初めて。入れる予定もない。少し、緊張しながら扉をスライドさせる。
扉を開いた先には、見知った顔が二つ。同じクラスの白井君と田中君だ。二人は『推理小説研究会』だったのか。私は、誘われていたのに知らなかったのだ、何のクラブだったことさえ。
二人が私に気づき、声を掛けようとしてくれた瞬間大きな影が私達の前を遮った。
「はっはっはー、よく来たな王子様め! 俺が『推理小説研究会』部長の新谷だー、スポーツ勝負からクイズ問題までなんの挑戦でも受けてやる! さぁ来い! 何で対決する!?」
仁王立ちで出迎える大きな人は、セリフを言い終えると同時にぐはっ! と叫びゆっくり地面にゆっくりと沈んでいった。
あれ? この人さっき野球部に混じっていた人だよね? あんなにいいバッティング出来るのに『推理小説研究会』なんだ……。
入れ替に現れたのは、さっきの人とは対照的な小さな可愛い少女。背は小さいが胸元のリボンは赤色だから先輩だ。
「ごめんなさい、折角来てくれたのは嬉しいのですが、ウチは見学してもらうような活動はしてないんです。唯一活動らしい会報はかなり不定期だし……」
可愛い先輩にこう言われてしまえばもう、仕方ないなっでいい気がする。
どうします? という視線を王子に送ると、残念な顔をするも納得してくれて立ち去ろうとした。
その時。
「Wait a bit!」(ちょい待った!)
さっきまで倒れていたハズの部長さんが叫んで帰ろうとした私達を呼び止めた。いつの間にか移動していて奥の方でダンボール箱をガサガサとあさっている。
「You should take this if interested」(興味があるならこれやるよ)
部長さんは一冊の本を王子に渡した。私が見える範囲はすべて英字のみで構成された本、私にはなんの本だか分からなかった。
「Thank you」
王子は、もらった本を片手で胸に抱き、感謝意味を込め握手を求めた。
3-A教室を後にして、廊下を歩きながら次の行き先を訪ねようとして隣を見ると、王子は笑顔で貰った本を見つめていた。
良かったですね。見学はできませんでしたけど。
王子も私の意見に頷いて答えてくれる。
…………あれ?
そういえば、あの人なんで王子が英語を理解できるってわかったんだろう?
私は立ち止まり、3-A教室を振り返った。
廊下の先に見える教室の扉は、なにも語ることなく佇んでいた。
まぁ、いいか。王子は喜んでることだし。
そんなことより、そろそろ行かないと……お肉が……今夜のおかずがまた、肉なし野菜炒めに……。
「ミナト!」
王子に呼ばれ、私は現実に戻る。
「カイ君、わたしそろそろ~」
「ツギはテニス部! ドコにいる?」
アア、ハイ……。
王子の輝くその瞳を見てしまうと、断ることははばかられた。
ごめんね皆、今日も野菜たっぷり炒めになりそうです。
今回は特別編(笑)といっても作者としては予定通りの「アクティブアフタースクールレコード」とコラボです。シリーズとしているので特に問題は起きません! ついでに好きな野球を絡ませるという特別編! なのであります。^^