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嗚呼  作者: 大庭言葉
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 川を下りれば

 老けた六月と萎れた霧雨があって

 美しい花と

 美しい草と

 美しい潺と 

 全てを足せばと考えれば

 私の脆弱な頭はいたくなる


 手鞠歌の感覚で私はそれを口遊んだ。甚だしい小洒落具合を持った恥ずべき言葉の数々だが、それらの言葉の音の全てを川の潺潺たる音が、虚無へと誘った。幾多の小石が私に足をあらゆる方向へと傾斜させる中で平衡を保ちながら、私は下流へと歩を進めた。

 下流に着いた私は矢庭に袂の手拭いを取り出して、口に銜えた。粗野な行為であることは承知であるが、人目の無い場所であれば関係あるまい。私は雪のように冷たい川の水へと手を入れ込み、擦り合わせ乍ら洗った。

「それは洗濯する川だ」

 手を入れ込んだ刹那であった。生い立ちの悪い、品に乏しい小娘のような声が聴こえた。咄嗟に振り返れば案の定、貧しそうな女が一人、汚らしい恰好をして私の背後にいた。

「洗濯をする川……」

 語尾に疑問符を添えて私は伺った。すると彼女は唐突に私の左方を指さした。何か木の箱のようなものがある。目を細めて見据えればそれは洗濯盥であった。

「あれでこの村の皆は服を洗うんけ。だけど頻りに洗う奴は裕福よ、裕福。普通にしてれば洗う服なんて無いよ」

 おそらく彼女の話にある後者こそが彼女自身なのだろう、と考察した。彼女の着ている服の至る所が綻びていて、繕いされていないから恐らくそうであると私は確信した。敢えて自分を遠回しに貧困だと言う彼女の幼い滑稽さが、妙に面白かった。私は無意識の内に微笑を浮かべていた。

「此処には綺麗な川はないのかい」

 私は優しげな口調をして尋ねると、彼女は目下の河川を指さした。

「まさか、此処が最も綺麗な川なのかい」

 彼女は静かに相槌を打つ。私は溜息交じりに「有難う」と言って下流から身を退いた。決してその句に感謝の心は存在しなかったが、上辺だけでも飾るのが礼儀というものだ。私は呆れたような鼻息を立てて、手拭いで念入りに手を拭いた。

 ところでこの川が最も綺麗なのであれば、そう考えたときに不意に、旅館から出される水に訝りを覚えた。悪い仮説が私の脳裏に浮かんだ。しかし、それを一々指摘していれば陽も暮れて、討議は厄介の一直線に落ちてゆくに違いない、そう私の考えが叫んでいた。所以、仕方なく見逃すほか私に許される術はなかったわけだ。

 他愛のないことを考える私に斜陽が薄らと投じた。

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