二十五
私は未だ嘗て見たことのないくらいの優艶な肉体を見た気がした。触れることは罪だ、そう私の良心が叫んでいる。しかし魔の囁きはそれを歯牙に掛けないように指図し、私の右手で袴を更に下げるように指示した。私は胸裏の悪心の言いなりになり乍ら、忠実にそれを行う。すると、其処にもまた私の見たことのない体躯が存在した。先程は羞恥に瞥見しかできなかったからか、今私の心が享受する抒情的昂奮は並外れに奇異であった。指先の顫動。これが私の行為の続行を意味しているかの如く、私は彼女の肌に触れた。柔らかな雲のような、否そのような拙い直喩では言い表せない触感が、私の高鳴りを激化させた。
紺絣の着物と袴を私は脱いだ。錯乱の渦は私を颯と奸悪へと誘った。もう手に負えない衝動に駆られ、私は亡き彼女との小さな繋がりを得た。これがうぶを摘む際に得られる快楽と罪悪か。私は濡れる指先を天に翳し、全てを魔の自分に捧ぐように、禁断の欲情を狂乱させた。何もかもを振り解いた感覚が、私の中を渦巻く。
私は円滑を欠く鈍い手際で彼女の納棺を始めた。私が汚した部分は何処よりも念入りに磨き、彼女の幼さを掻き消さぬよう、凝然と目を見開かぬ限り見えない程度の化粧を施して、終わりとした。彼女の軽い躰を棺へと入れて、縹色の鞄を背負い襖を開けた。
「少しの間、さようなら」
いつもの畳の上に女将の姿は無かった。また私を避けて、と想ったら存在しない茶筅や建水に目が留まった。そこまで自らを深追いする必要などないのだが。頭を掻いて宿の暖簾を潜った。今日は一段と疲れた。何処からか底知れぬ倦怠感が襲ってきた。
そのときである。いつもの山道を祖母と孫が通っていくのが目に飛び込んできた。小娘とも謂えぬ幼さを持つその孫は、手鞠をつきながら傾斜していく山道を下って行った。その幼げな姿、まだ手入らずの雰囲気。その体裁がすゞと重なった。そう、その孫の顔が一瞬だけすゞに見えたのだ。その幻覚を目にしたとき、私の快楽が俄かに興醒めした。同時に私を何処か浮かれた空間から現へと引き摺り降ろした。
「……私は一体、何をしてしまったんだ」
私は自分の躰に触れた。多量の汗を掻いている。そして私は浅薄な記憶の畦道を、目を瞑って辿った。そう、私は彼女の醸す妖艶さに負けて禁断の行為へと及んでしまったのだ。
呼吸がおかしくなってきた。吐く息が顫動している。鼓動が波打つように早くなり、遅らせようと試みようものならば、一層に速度を増して私の心を殺す。
「ねえ、お婆ちゃん。此の蟲は死んでるの」
孫の声が焦慮に満つ私の鼓膜へと入り込んできた。立ち止まって俯いていた顔を、ふとそちらに向けた。横の婆さんは老眼鏡をくいと上げて孫に言った。
「人間っていうものは汚いね。こうやって小さな美しい生き物の命をいとも簡単に奪うんだからね。こういう大人になってはいけないよ」
鋭利な老婆の言葉は私の心臓を一突きした。




