二十三
彼女の初めに見せた冷淡な面持ちと謂うのは所謂「孤児根性」と云う奴だった。その鍍金が剥がれて露わになった今、漸く見せる彼女の感傷的な仕草や物言いが滑稽に見えて仕様が無かった。しかし私が抱いたそれに、軽侮の色は一切ない。彼女の凄惨な程に懸命な語りが、私に嘲笑の余暇を与えなかったのだ。所以、私は彼女の鼻梁をしっかりと見据えて、聴き入るように耳を澄ませた。
「すみません。私はよく考えが悲観的だと言われます。おそらくそうなのでしょうけど、これが間違いだとは想わないんです。もう、私は苦しいのです。強引に顔に皺を作って笑いに似た表情を浮かべることも、上辺の愛を享受することも。あんなに愛してくれている祖母だけは死なせたくないのです」
彼女は瞳に溜め込んだ涙を落とすことはなかった。私は手拭いを差し出すことも出来なければ、彼女の死を急ぐことに反対することも出来なかった。彼女の祖母への想い、それが自分を安楽死へと追い込んだ一番の原因であったのか。私は絶望した。だから、気遣いなどを考えている余裕などないのだ。
「あなたの御婆さんは電話越しにおいおい泣いていたよ。君が安楽死を選ぶような子に育ててしまった、と謂うような、悔いる気持ちを見せながら、ね」
私は彼女の耳に届かないように、小さな小さな声で言った。私にこれを公然と述べる勇気が無かったのだ。嗚呼、無情。
「祖母は優しいんです。そうです。私が言ってるのは被害妄想で、祖母は心の底から私を愛してくれているでしょう。しかし私を愛してくれたのは祖母だけではありません。前に同居した母方の祖父母も、勿論両親も。私は短き生涯の中で二度も大きな愛を喪失しているんです。流石に私の心も完全に廃物ですよ、ボロボロです。だからこそ祖母の愛だけは最期まで欲しい。これがどれだけ祖母を悲しませる手段であっても」
彼女の胸中に秘めた真の想いに私は閉口し、辟易とする他に成す術が無かった。一見すれば彼女の安楽死の動機は齟齬を来しているようにも見えるが、この全ての消失点に存在するのが祖母の愛を失うことへの畏怖であろう。
彼女は微塵も論理的な、理知的な人間では無かった。寧ろ誰よりも感情的で、感傷的で、心情の起伏というものが激しい女であった。私は決してそれに絶望したわけではない。寧ろそれこそが当然だと想っている。では私は何に絶望したのか――。
「もうそろそろ逝かせて下さい。未練など一切ありません。身も心も疲弊し切って剥ぐ皮さえ、消えてしまったくらいですから。このような私事を貴方に打ち明けるとは私はこれっぽっちも考えていませんでした。しかし打ち明けて肩の荷が降りた気がします。安楽死を貴方に頼んで正解でした」
あどけないその無垢な眼睛。私は惰弱な返事を一つ口にした。
「ありがとうございます」
これ以上の言葉が出なかった。私の胸に小さな穴が空いた。




